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【D&D】The Shackled City[第3章]14

 メイヴは走る。雨の中、灰色通りを、右回りに。

「…エボン・トライアド」

 手に入れた情報を、整理のために唇に乗せる。

――黒の三柱。邪神である、戦神ヘクストア、殺戮の神エリスヌル、悪しき秘密の神ヴェクナを、ただ一つの神の三側面だと見做す下位カルト。その信仰の奇矯さゆえに、信者は少なく、元々の神々の神殿からも疎遠となっている。

「…そして、アレー・バッシャーズ」

――『路地裏の喧嘩屋』。この悪党気取りの食い詰め者たちは、仲間のしるしとして赤いバンダナを体の何処かに縛り付け、下町を我が物顔でうろついている。小悪党にはありがちな、粗暴で短気な連中だ。彼ら構成員の大半が、祭りの前に姿を消した。口の軽い者が『大仕事』を自慢したのを、安酒場の常連が耳にしていた。その『大仕事』の準備にと、彼らアレー・バッシャーズに金と武器を提供したのは、

「…トリエル・エルデュラスト」

――赤毛と黒い鎧の女、『黒い三角形の聖印』を身に付けていた。元・コールドロン衛兵。数年前、同僚を2名殺害し、逃亡した。金と武器の提供、というのは、ごく最近の話、洪水祭りの、前の週のことである。

「…密会場所は、湖のほとり、はしけのそば。…ならば」

――彼女がねぐらにしているのは、おそらく湖の対岸方面。

 メイヴは走る。右手、センター湖の水位は、たしかに上昇しつつあった。  

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「んん?」

 扉の下からそっと差し入れられた羊皮紙を、扉の向こうの気配がなくなったのを感じたのち、グリットはそろそろと近づき、取り上げた。

「んんん?」

 アランが購入した一軒家の、台所とも言うべき土間――作業場。なにゆえアランの家にグリットがいるのかと言えば、これは単なる居候である。しかも、本人の同意を得ていない。この二階建ての民家を買い取ったアランが、いくらかなりと心躍らせて扉を開けた際、当然のように土間の片隅を寝床に作り替えていた小男を見た時の驚きと落胆と反省(テッドの家の話だ)については、特に語る必要はないだろう。そのあとの一悶着と、結果としての下宿状態についても、である。

 かれアランは、買い取った家の軒先に一つの看板を下げていた。彼の得意武器、大鎌と髑髏の意匠である。添えられた文章は「“死神”アランの家。よろず揉め事引き受け候」――何でも屋を前面に押し出したのだった、が。

『うちの猫がいなくなって』
『牛の乳の出が悪いだよ』
『引っ越しで人手が欲しいんだ』
『爺さんの死に際を看取ってくだされ』

――俺がやりたいのはそういうんじゃねえんだよ!!

 近所の者が、吸血鬼をも斃すような冒険者に持ち込む『割のいい』依頼など持ってくるはずもなく。

 ろくな仕事がなかったため、アランはふて腐れたうえ、ほとんどの依頼の処理を同居人のグリットに任せていたのである。

「んー」

 グリットは何の気なしに手紙を開封した。同居人とその仲間たちは、なにやら急ぎの仕事、しかも聖カスバート寺院からの依頼とあって大体が留守である。どんな依頼であれ、とりあえず目を通しておいて、まあろくな話ではなかろうから『未決』の箱にでもおいておこう――とぼんやり考えていたグリードの手が止まった。

『ワンドを探しているだろう?支払い次第で助けになろう。
 興味があるなら、今日の真夜中、レイクサイド大天幕に一人で来い。
 金貨500枚で、ワンドのありかを教えよう。
 仲間を連れてきたら、ワンドは二度と見つからないと思え』

 ワンド。アランたちが探している、《水位操作》の小杖に違いない。

「んんんー」

 グリットは後頭部を掻いた。――ワンドを独り占めすれば大儲け――と考えた時、首の後ろが痒くなったのだ。昔からそうだった。あからさまに利己的なことを考えると、いつも首の後ろが痒くなる。

 それが、彼に与えられた祝福、《ニンフのキス》による、善への教導である、とは、物質界のいかなる賢者であっても思いつかないことであったろう。

――みんな忙しいから、オラが調べてきてやるズラ。

 首の後ろを掻きかき、グリードは雨具を纏って家を出た。まずは大天幕の周辺だ。異常があれば、そもそも罠の可能性が高く――しかし、もし、有意義な情報を得られるなら。

――みんなオラの事を“そんけい”するズラよ!

 のどにくぐもった笑いを溜めながら、雨の中を醜い小男が行く。

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