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【D&D】『病魔の坑道』再び:2

* * *
「なつかしいなー」

 誰が呼んだか『病魔の坑道』。まあ3版PHBの付属シナリオのタイトルであるから、名付けたのはもちろん作者のミゲル・デュランである。

 その『病魔の坑道』の入り口に、3人の冒険者はしばし佇んだ。1年前の、駆け出しの頃のあの苦労に思いを馳せる。

――足元には、見張りの野盗の死体が一つ、気絶させられた野盗がひとり。

「鉱脈筋の広間まで、けっこう奥行きあるんだよな確か」
「雷石で耳つぶされたりしたっけなあ」

「……で、と。おいコラ起きろ。てめーら何モンだ。奥にあと何人いる」
「話せば、見逃してくれるか」
「降伏の証に武器一つ置いてきな。それで命のやり取りの件はチャラだ」
「おれそいつの弓がいいなー」
「コンポジットロングボウ、かなりの強弓だな。値が張るぜ」

 先ほどのやり取りで、ドンガスに致命的な一撃(クリティカル・ヒット)を浴びせたのはまさにこの強弓であった。具体的には筋力+3。

「+3?!高品質で300、筋力修正で300、弓が基本で100、締めて700gpだぞ!」
「おめえら何モンだ、ただの野盗じゃあるまい」

 野盗は、目を伏せて胸元を隠すように背を丸めた。DMは、参照していたサプリメントを伏せて目を逸らした。

「……聞かないでくれ」

 隠した鎧の表面には、紋章かなにかを削り取ったあと。

「あー、まあそういうなら聞かねえさ。奥には何人いるんだ」
「ああ、後2~3人いるはずだぜ。俺は雇われたばかりで、奥の連中の事情は良く知らねえんだ」

 蓮っ葉な口を利いたところで、根の正直さ善良さは隠せない。三人は密かに視線を交わし、小さく肯いた。

「よし、もう行きな。次に敵対したら容赦できねえかもしれねえぜ」
「――すまん。感謝する」

 野盗は、仲間の死体にチラリと目をやると、悲痛な表情を浮かべ、

「そいつを――いや、こんなことを頼めた義理ではない。さらばだ」

 歯を食いしばり、森の奥へ消えていった。

「――あいつ」
「ああ、どうやら元騎士ってところだな。仲間の埋葬を頼みたかったのか」
「近所で国が滅んだって話は聞かないが――人生いろいろだなあ」

 野盗のデータを『赤い手は滅びのしるし』獅子騎士団員の流用と見破られたDMは、テレながら頭を掻いた。

* * *

* * *
「うええ、ペッペッ」

 吐き出す唾に、噛み砕いてしまった多足虫――子蜘蛛の足が混ざる。

「だからこっちはやめとけって言ったんだ」
「言っておらんよ“コーラー”。精々がとこ、肩をすくめたくらいじゃの」

 最初の広間から左手。かつて食堂だった方に延びる通路は、蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

「陽光棒が簡単に手に入るようになっちまったから、松明なんか持ち合わせがねえよ」
「油断じゃの」

 炎の援護無しに飛び込んだ蜘蛛の巣――もちろん、狼ほどの大きさの蜘蛛がいた。なんなく倒した――が、腹には子蜘蛛がびっしりと詰まっており――

(タカ)られるとどうしようもねえ、蟲の群れ(スウォーム)は本当にやっかいだぜ」
「半数が母蜘蛛に喰らい付いてくれなんだら、今頃ワシらはアレのエサじゃ」

「あー、蜘蛛は砂糖菓子の味がする、とかいったヤツがいたが――ありゃ嘘だ」

 けっけっと吐き出す痰にも、子蜘蛛の死骸が混じるドンガス。

「じゃあ、何の味がしたね」
「ふ、蜘蛛は蜘蛛の味がする!」
「お前はいま当たり前のことを言いました」

 肩をすくめ、温存魔術特技による治癒術でドンガスの傷をふさぐバルク。

「まあよし。じゃが本調子には程遠かろう、無理をするでないぞ」
「まかせとけ!」

* * *
 一の広間を、今度は逆へ。坂は下り、

「そうそう、この奥の大広間――つーか坑道の手前に穴がな」
「落ちたっけなぁ」
「……そのまんまじゃのう」

 深さ20フィート、向こうまで10フィートの落とし穴に、3フィートほどの幅の板が1枚、橋の様に渡してあった。

「なんかあったらこれを引き上げれば、奥を守るのが楽になると。なるほどな」
「奥にいる連中、何モンだろな」
「騎士崩れを雇うくらいには手駒が少なく――街を根城にするにはちょっとアレなメンツなんじゃねえの」

 そろそろと板の橋を渡る3人。陽光棒で照らされた大坑道は、1年前と同じく、端まで明かりが届かぬほどの広さと、そこここに盛り上がったボタ山とが3人を出迎えた。

「懐かしいぜ」
「あの上にゴブリン共が陣取っててな」
「おう」

 左手に、かつてはゴブリンたちが陣取った203高地がある。あそこから雨霰と矢を射掛けられ、散々苦労したものだ。ボタ山を迂回しつつ、奥へ進もうとする3人。そこへ、

――じゃあ<聞き耳>と<視認>を振ってください。
――失敗。
――じゃ、不意打ちで。

 矢が飛んできた。

「うお?!」

 さらに、

 業愚、愚婁婁婁婁婁婁婁……

 獣の唸り声。

「熊だ?!」

 ボタ山の陰から、のっそりと、大型の熊が現れた。

――爪爪噛むで参ります。一つよろしく。
――よろしくねぇよ?!

「死ね、侵入者! ちなみにそいつは今ハラペコだぞ!」

 いらぬ状況説明と共に矢を射掛けてくる(どうやら)ボス。そして、前門の熊。

「まかせろ!」

 ドンガスが熊の前に飛び出し、

「ま、待て!!」

 轟。

――爪爪噛む、と。全部当りです。
――あ、死にました。

「ドンガスっ!!あれほど無茶をするなと、本調子ではないと言うたのに!!」

――特技治癒の弱点なんだよね、半分までしか回復しないの。
――あー、行けると思ったんだけどな。
――全力攻撃を受けに行っちゃったようなもんだよね、今の前進。

「ドンガスっ!!!」

 “コーラー”が棘鎖を振るうが、熊の厚い外皮に阻まれ、怯ませるにも至らない。

「“コーラー”、逃げるぞ!!」
「すまん、ドンガス!!」

 矢が時折射掛けられるが、ボタ山に阻まれて二人には届かない。そしてそのボタ山が、いま、熊の追跡の脚をも遅れさせた――かに見えた。

「よし、逃げられ」
「――は、速ぇえっ?!」

 野生の熊の移動速度は、かなり速い。対して、逃げる二人は薬缶の如き全身板金鎧を身につけていた。その歩みは、髭小人のように遅かったのだ。

「ボタ山を蹴散らしながら追ってくるぅっ!!!」
「走れ!とにかく走れ!!」

 バルクを前に、後を追う“コーラー”。角を曲がれば、落とし穴。そして、板の橋と上り坂だ。

 行きはあれほど安全に見えた板の橋が、今は湖面の蓮の葉ほどにも頼りなく見える。……もし、踏み外したら?

「コードよ、ご加護を!!」

 南無三、バルクは板の上を一気呵成に駆け抜けた。続く“コーラー”。

――このままじゃ追いつかれる!!
――どうします?
――こうする!

 転げるように橋を渡りきった“コーラー”は、穴の反対側に仁王立ちになると、熊を睨みつけた。

「来い!」
「無茶じゃ、“コーラー”!!」

 危なげも無く板橋を渡り寄る大熊。目は、獲物を追う肉食動物の――狩りの興奮で輝く狂喜の目。立ち止まった愚かな獲物を前に、熊の爪が――

「そこだ!!」

 鋭く打ち込まれる棘鎖、砕ける板の橋。熊は慌てて壁に、床に脚を伸ばすが、しかし届かず……板の破片もろとも、穴の底に落ち込んだ。

「やったか?!」

――いいえ、まだ生きてます。
――タフだな、熊!

 穴の差し渡しは10フィート、熊の体長も10フィート弱。人間が幅5フィートの穴に落ちたようなものである。増して筋力が異様に高い野生生物、<登攀>はお手の物であった。

「昇ってきよる!」
「来るなら来い!!」

 だが、熊は、己のテリトリーから出て行った元侵入者には、格別の興味を示さなかった。――エサは確保したのだから。大坑道側に這い上がると、通路からは目視できない、ドンガスが倒れた辺りの暗がりに消えていく大熊。

「……も、戻ってゆく……」
「ドンガスーっ!!!!」

 だが、男達の呼び声に応えるのは、肉が引き裂かれる音、骨が砕ける音、そして水っぽい咀嚼音、だけであった。かすかに聞こえる、弓の男の忍び笑い。

「わ、ワシのせいじゃ……ワシがきちんとドンガスの傷を癒しておれば……」
「バルク、戻ろう。このままにはしておけない。仲間と合流して、必ずこいつらを……!」

――じゃ、自由演技終わったんで街に戻りますね。
――熊、必ずコロス!あとでコロス!
――ちょっと迂闊でしたねみんな。
――でもしかたないよね。戦士は飛び込むよね。
――この続きはまた今度。
――了解!!x3

* * *
つづく
* * *

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Comments

ドンガスさん・・・
クリティカルな矢を食らったり、
子蜘蛛を食べたり、
熊に食べられたり・・・
不運とは続くものですねぇ。
(-ー;(共感の念)

Posted by: 陽樹 | September 08, 2008 12:01 AM

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