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【D&D】04:潜入

* * *
「さて、王城へどうやって向かうか……だが」

 ヨハンさんに、ちらりと視線を投げるジョン。


「そこまでの地図くらいはなんとかならんもんかね?」
「状況が状況ですからねえ」

 迷わないでたどり着けるかどうか、だけでも心配です。

「おお、それならば」

 ヨハンさんが立ち上がりました。


「王城まで行く方法は我々も案じておりました。出入りの冒険者や生き延びた衛兵たちと話し合っておりまして」


 外に出るのもままならず、といって座してはおれず、かといって我々にあの王城までたどり着ける実力はなく……まあ時間をもてあました者の机上の空論ですな、と溜息をつくヨハンさん。


「何もしないでいると、どんどん不安になっていくもので」


「いい考えがあるなら聞かせてくれ」
「ええ、異変の元凶は間違いなく王城にあるのでしょう。そこまでゆく方法は、我らの考えでは三通り。
 ひとつ、地上を行く方法。
 ふたつ、地下を行く方法」


「ちょいまち。地下?」
「イスティヴァンには古代都市が埋もれておりますのです」

 曰く、その古代都市を通路代わりにする密輸商や下水路代わりにする市民がいるのだとか。


「したがって地図のようなものはありませんが、古代都市を行けばおそらく王城の地下まで繋がっているはずです」

「……地図が、ない?」
「繋がっている、はず?」
「地下!狭い!却っっっっっ下!!!」


「地上……または空中、か」
「ヴロックとの戦闘も考慮に入れなくてはな」

「で、三つ目ってのは?」
「はい、私が王城まで《転移(テレポート)》するのです」


「にゃにい?!」

* * *
 つまり、こうです。


 王室御用商人であるヨハンさんが、彼ならば見知っている“王城の控えの間”まで《転移(テレポート)》する。
 そのとき、ジョンかスーのどちらかを伴う。

 場所を目視の後、こちらで待機していたスーかジョンのどちらかに《転移(テレポート)》で後を追ってもらう。
 ヨハンさんは、2回目の《転移(テレポート)》で取って返す。


「危険だ……が」
「たしかに、一番早い」
「《転移(テレポート)》は二度とも巻物で行うのですか」
「コトリや皆さんにばかり危険な橋を渡らせるわけには参りません。このくらいは、させていただきたい」


* * *
 そこで、先発はバッシュ、サンダース、スーの3人とヨハンさんが、巻物で《転移(テレポート)》。

 スーの知覚共有で目的地を認識したジョンが、後発の私とクロエ、コンボイを伴って《転移(テレポート)》……という手順を取ることになりました。


「出た先ヴロックがいる可能性、てのもあるからな」
「注意!注意!」
『じゅんびできたよー』

「では、参ります」


 遠巻きに私たちの様子を伺う、同室の人々。様子を見に来たひとたちが、増えている気が……。一様に、みな不安げな様子で私たちのすることを見守っています。

(後で聞いたのですが、援軍――といっても、我々だけですけれど――の噂を聞いたらしく、家々を繋ぐ地下道ですこしずつ集まってきた、のだそうです)


 ……安心してもらうために、なにか言ったほうがいいでしょうか。ジョンの様子を伺いますが、彼は彼でスーに指示を出すのに集中しており、周囲の様子はあまり気にした風はありません。


 一つ咳払いをしたヨハンさんが《転移(テレポート)》の巻物を広げ、二言三言呪文を呟いてバッシュの肩に手を置くと、サンダースが心得たように反対側の肩に触れ。尻上りに発音される最後のルーンが力強く声にされると、


 3人の姿は消えてなくなり――。

「げっ」

 知覚共有で、焦点の合わぬ瞳を宙にさまよわせていたジョンが唸りました。


「……黒スライムだ、すげえデカイ!部屋中ベトベト、酸っぱいにおいで一杯だ!!」
「きゃらの!きっと蟲だ!!」


 即座に、呪文の詠唱に入るジョン。私も、到着と同時に唱える呪文を心に描きながら、《転移(テレポート)》に備えてコンボイとジョンの腕に手を添え――。


* * *
 《転移(テレポート)》した先は、民家がまるごと一つ入りそうな大きな広間でした。しかし、そんな広間を狭く見せている、一つの物体。


 中央には、天井まで伸びる、ぶよぶよとした黒い粘液質の柱がひとつ。差し渡し20フィートはあろうかという太さで、


「ブラックプティング、粘体!体液は酸!」


 右手から、サンダースの声。左右にそれぞれ5、6歩離れた位置に、バッシュとサンダースが棍棒や戦鎚を抜いて、柱から無数に飛び出す黒い擬足を捌いています。

 ……えー、これ一つのスライムですか?!


 足元は、ブラックプディングの体液か、酸い臭いのぬるぬるが飛び散り、ブーツの先にいやらしい染みをつくっています。

「アルウェン!」


 コンボイの上から、クロエの声。なるほど、そこなら!
 コンボイの鞍帯に手を掛け、クロエの後ろに一息で収まります。うん、高い。そしてここからなら、


「《酸抵抗共有マス・レジスト・エナジー・アシッド》!」

 すこし距離ができてしまったサンダースとバッシュの両方を収めて、防護呪文を全員にかけることが可能です。


「武器も酸から守られるか!これで勝機が見えたが」
「……でかすぎて埒が開かねぇー!!」


 ひと際大きな擬足が、バッシュを捕らえようと長く伸びますが、所詮粘体。力はあっても速度が足りません。ですが、このままじりじりと戦っていては、いずれ追い詰められるのは明らかです。


 こんなのをどうやって始末しましょう……?

「よし、スー、やっちまえ!」
『りょうかいー』


 すう、と息を吸い込んだスーが、そのままぐんぐんと膨らんで――大型の犬――子牛――馬――まだまだ大きく。頭が、いえ首が増えて、増えて、増えて、増え――超大型の多頭竜に変身しました。

12ツ首沼ヒュドラドデカ・フェン・ヒュドラ!」


 サンダースが悲鳴にも似た大声で叫び、一足で壁際まで後退すると、バッシュもそれに倣ったか、ブラックプティングから大きく距離を取りました。

『『『『『『『『『『『『せーの』』』』』』』』』』』』


 まるで火山。強烈な噴炎が、変身したスーの12の口から、ブラックプディングに向け、まともに吹きかけられました。眩しくて、まともにそちらを見ることができないほどの強烈な炎の息です!!


 たっぷり6秒は焼かれたでしょうか。炎の息が治まったとき、柱の大きさは四分の一ほどに縮んでおりました。


「これはひどい」
「……うん、ひどいな」
「うーん、まさかここまでとは。スー、これは禁じ手にしよう」
『えー』『せっかく』『つよい』『の』『にー』


 12の首から同時に噴出される猛火。使い方を誤れば、大変な惨事になること間違いなしですから、ジョンの判断は実に賢明だと言えましょう。

「とりあえず、止めを刺しましょう」


 《炎の実(ファイアー・シーズ)》の火力を篭めたドングリを二つ、続けざまにプディングに飲ませますと、太陽の威力が縮んだ粘体の大部分を焼き尽くします。僅かに残った動く部分は、バッシュとサンダースが粉々に蹴散らしました。


* * *
 《転移(テレポート)》で帰っていったヨハンさんを見送り、さてと室内を見渡せば、奥には両開きの扉。そこを開けば、さらに広い広い巨大な広間が。奥ほどの天井には大穴が開いています。


「うむ、巨人の間、とでも名付けられているような広さだ」
「あそこから落ちてきたのか……なあ?」


 あちこちに飛び散り滴る粘液と、天井付近のブラックプディングの残滓から見て、おそらくはバッシュの見立てた通りなのでしょう。

「きゃらの!!アルウェン、ひとつ仕事してない!!」


 突然、クロエが叫びました。


「……なんですか?」
「だめだよアルウェンおねえちゃん!せっかく酸を出す敵が出たんだから、下で戦わなきゃ!!ぬるぬる触手に巻き付けられたり、酸で服だけ溶かされて『きゃっおっぱいみえちゃう!』とかやらないと!!!仕事!ヨゴレのおしごとだよ!!!」


「あははー……自分でおやりなさい!!今すぐコンボイから降りて!!」
「きゃらのっ!!あひゃひゃ、そんなとこさわっちゃらめぇ!!」
「変な声出して誤魔化さない!!」


 応。

「やれやれ」
『ていうか、もっとやれやれー』
「うむ」
「……」

* * *

 

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