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【D&D】壮麗なる都ウォーターディープ

 ウォーターディープの市場は、レルムいちだと思う。賑やかで、活気があり、品物は豊富、そしてなにより安くて新鮮。

 あたしはギルティル・ギルソニエル、ハーフエルフの交渉人だ。ウォーターディープで言う交渉人ってのはつまり、話し合いで埒が明かないときは鋼や魔法で揉め事を解決しちゃう紛争調停人を言う。


 いまのとこ、これを名乗ってるのはあたし一人だけど。


 噴水に腰を下ろして、あたしは新しい仲間のすることをぼんやりと見ていた。
 ヒゲを失った悔恨のドワーフ戦士デルヴァル、
 名誉ある商人一家……とりわけ紳士だったという父を惨殺された波紋の魔法使いジェイジェイ、
 アンダーダークを追放されたかなにかした寄る辺なきハーフドラウの盗賊/魔法使いアヴェル。

 見事に変わり者ばっかり。これも類友ってやつかしら。あたしはリンゴをかじりながら、アンダーダーク風だというアヴェルの革鎧をしげしげと見ていた。
 なにがすごいって、彼女の革鎧の胸元は、皮紐でかるく編み上げられてるだけ、なんである。谷間モロ見え。暗い色の脚……いや、太腿も、マントの下からちらちらと出たり引っ込んだりするので大変に扇情的だと思う。いや怪しからん。何が怪しからんって、本人は特にあの格好を狙ってやってるわけじゃないことですよ。
 どうもアンダーダークのドラウはみんなああいう格好らしい。エローイ。

「ちぇ、あたしもビキニアーマーくらい用意するんだったかな」

 臆面もなく自慢するが、あたしは美人だ。あたしの交渉術は、だから基本的に男性には色気で、女性には脳みそカラッポそうな風情であたることにある。とは言っても、交渉どころではない(文字通り言葉の通じない)相手もいるから、必然、鎧はしっかりと肌を守るものになり……ここで、視覚的に殿方を楽しませる、という歓びは失われてしまう。

「いいなあ、あの革鎧……」

 あたしの鎖帷子も、実用性を無視したスリットでも入れてみようか、などと考えた次の瞬間、

 腰をかけていた噴水が陥没した。

「ひあ?!」

 なんだ?ネズミだ!でかいぞ!などという声が乱れ飛び、しりもちをつきかけたあたしはそばにいた衛兵さんにすがり付いて落下を免れた。

「大丈夫ですか?!」

 あら、いい男。記章を見れば、ふふん?どうも隊長格っぽい。こんな出会いもアリよね、アリ。そんな内心のランク付けはおくびにも出さず、心底からの感謝の表情で、あたしは隊長さんの手を握った。

「あ、ありがとう!」
「いやなに、その」

 うふふ、かわいい。

 そのまま後ろを見れば、なんと噴水があったところは大きく穴が開いて、水も石材も全部その中に落ち込んだみたい。穴の底はおそらく下水まで落ち込んでいるはず。すり鉢状になったその大穴の淵へ飛び出していたのは、大ネズミ子ネズミ、虫に蟲に虫!

「くそ、またか!!」

 あら隊長さん、聞き捨てならないわ。どゆこと?でもそれは後で聞きましょう。今するべきは、

「みんな!手を貸して!ネズミたちを逃がしちゃだめ!!」

 あたしは周囲の男たち……とりわけ、3人の仲間に聞かせるつもりで声を上げた。
 いつからだろう、あたしの声でみんなが俄然やる気を出すのに気がついたのは。あたしの声なのか、あたしのオーラなのか、それともほかのなにかなのか、それはいまでも良く分からないけれど、あたしの声が良く通るのだけはほんとうで。
 思うに、あたしが指示をだせば、混乱した状況にも一本の筋が通るから(全体として『いま』何が起きているのかを、その場の皆も知ることができる――あたしの主観に過ぎないけれど――)じゃないかな、と。

 果たして、アヴェルのナイフは大ネズミを駆逐し、デルヴァルの斧は大ネズミを粉砕、ジェイジェイの呪文は2匹をまとめて穴の底に追い落とした。

「蓋もってこい、フタ!!」

 凶暴な大ネズミの姿が消えたことで、市場のみんなも自分が出来ることをし始めた。やがて、衛兵も増援がつき、噴水跡の大穴には材木と戸板が被せられて、ひとまず凶暴な大ネズミの恐怖は壁一枚向こうの話になった。

「諸君、ありがとう。ご協力に感謝するよ」

 隊長――ヴォークさんは、あたしの手を握ってそう言った。

「あら、そんな」

 いちばん働いたのはあの短い間に2撃を放ったアヴェルか、そのあと穴を塞ぐのに尽力した市場のおにいさんたち、ですが、

「ウォーターディープ市民として当然の協力をしたまでですわ」

 感謝を向けられるならそれにふさわしい微笑を。

「……! と、とりあえず詰所までご同行願えないだろうか。是非お礼を」

 あらあら?あたしは、微笑を絶やさないままに、もちろん、こう応えた。

「よろこんで」

「ふむ、礼か。礼には及ばんが」
「少なくとも、状況を確認させてもらえそうだ」
「……」

 うん、ごめんね隊長さん。あたしたち、今日は退屈してるので揉め事ならなんでもおーるおっけーばっちこーい、なの。
 かなり当てが外れたっぽい、虚ろな微笑みの隊長さんが先導するままに、あたしたちはお礼とやらの待つ詰め所へと向かうことにした。

* * *
(続く)

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