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【D&D】13(了):旅立

* * *
 イスティヴァン夏の離宮、円卓の間。

 公子あらため新侯爵と、その摂政、そして相談役たる騎士団長殿とから下賜されたイスティヴァン救国の恩賞は、巻物に書き取らねばならないほど大量の工芸品や美術品、交易品の数々でした。

「ひとつひとつが我々からの感謝の印と思っていただきたい。街区からの寄付、命救われた富豪からの品、娘を守られたさる貴族からの礼がわりなど、一つ一つ由来があるが限がないのでそちらの目録にまとめておいた」

「もちろん、あのザグトモイが邪霊寺院を再建立しようと溜め込んでいた財宝も混ざっています」

「ろくでもない品が多かったので、それらは現金か国庫の貴石宝石と差し替えさせてもらっております……ザグトモイを讃える彫像など、いくら純銀でもそのままお渡しするわけには」

「気にしないのに」
『ねー』

「そして……若、ほんとうにありがとう。僕がいまこうしてここにあるのは君のおかげだ。そして“アローナ急行(フリート・ランナーズ・オヴ・アローナ)”の皆さん。皆さんの献身に、スティリッチ侯国は尽きぬ感謝を捧げます。ぜひこれをお持ちください」

 そうして、若き侯爵の合図で美しい騎士団長殿が恭しく捧げだしたのは、

「……大斧?」

「スティリッチの至宝、魔法の大斧です。建国以来、これを使いこなせる英雄はかつて現れませんでした。しかし、皆様ならばこれを有効に使うことができるのではないか、と」

「んー、すげえ魔力なのは“見”て分かる。鑑定とかは?」
「宮廷魔道士に、あらためて依頼しました。こちらがその能力の全容です」

 差し出される羊皮紙。魔道士の、もったいぶった花押が文末に副えられているのが、ちらりと見えました。

「どれどれ……え……な、なんだこりゃ」
『……?』

 受け取った羊皮紙をざっと読むと、即投げ出すように左手のバッシュに手渡すジョン。目を通すバッシュも、見る見るうちに困惑の表情に。 

「……はぁ?」

 《動物縮小(リデュース・アニマル)》したコンボイを傍らに座らせたクロエと、私のところにも羊皮紙は回ってきました。

「えーと」
「『+3、火炎爆砕(フレイミング・バースト)せる(フロスト)吹く反動(ヴィシャス)“気”焦点(キ=フォーカス)なる投擲可能(スローイング)鋭刃(キーン)大斧(グレートアックス)』」
「市場価値、200,320gp」

「地上のいかなる大都市も、この至宝を購入するほどの金貨は持ち得ないであろう」
「……なんだこりゃ」

「至賢モンテ・クックの書DMGによれば、あのグレイホークですら100,000gpを越える品を商うことはできないとか」

「おいAhlyth(アーリィス)、こりゃ無ぇだろ」
 悪ガキ(Ahlyth)と呼ばれたのは公子のほうか騎士団長のほうか。――返事をしたのは騎士団長でしたが。
「金銭には換えられぬ深い感謝の表れ、と取ってもらいたい」

 つん、と冷たい美貌で、じつに儀礼的な返答をしたものです。

「……それとも貴君は、この感謝の印たる魔法の大斧を、何処とも知らぬ商人の手に売り渡すおつもりか?」

「あのね、若。団長はこう言ってるけど、僕はみんながこの斧をどうしようと構わないと思ってる。だって」
「閣下」

「黙ってて。叔母様ですら、この斧を有効に使う方法は見出せなかった。なら、この国でもっとも高価な宝を、もっとも恩ある英雄に譲るのは、一番有効な使い方じゃないかな。僕はそう思う」

「売れないけどなー」
『ねー』

「売ることもできない、これを活用できる戦士もありえない、ならば、この斧はこの日のために作られたのじゃあないかな。僕は侯爵として、このもの凄い役立たずを、必ず何かの役に立ててくれる人物の手に渡したい。もちろん、そのう」

 ――これだけの打撃を受けた都市が、気前良く報酬を配っていたら、それは出血して死にそうな司祭が《殉教の血(ブラッド・オヴ・ザ・マーター)》を使用するに等しい窮乏を招くこと間違いなしです。即位直後で国家予算に対するこのバランス感覚、新侯爵どのは、なかなかの英傑となりそうですよ?

「クロエは気に入った!!“炎”と“氷”の力を併せ持つ自然界の写し身!使うものに修養を求める“気”の心!力を乱用するものに対する戒めの“反動”!ちょっとお得な“投擲”能力と“鋭刃”!これは正にドルイドのための自然を表した武具!!」

「じゃあ使います?」

「んー、本体が鋼だからクロエは使えないなー」

 思いつきで喋るの、おやめなさいったら。

* * *
「またしても“無銘”かー」
「まあ、これだけ無軌道な魔法武器はそうそうないよな」

「……時々武器を投げ出す、反動を苦にもしないうえ大斧に熟達した武僧用?ありえん」
「俺の総資産より高いぜ」

「これ一つで若の装備全部賄えるのかー、すげえな売却予定1号」
「きゃらの!いま銘が決まりました!以降この大斧を『売却予定1号』と呼称します!」

 『呑み足りないゾンビ亭』の、いつもの席のひとつとなり。復興で景気のよいあかつき街道沿いならば、大量の工芸品や美術品も滞りなく売却できるはず。そして、その資金をもってイスティヴァンで買い物をすれば――たぶん、あの都市の復興にいくらかの貢献ができるのではないか、と。

「一年前とやってること一緒ですね」
「と言って、只で金ばら撒けるほど余裕ねえしな、俺ら」

 同感です。

* * *
「しゃて」

 クロエの目が据わっています。――あー、飲みましたね?

「わか。すふぃあーのでぐちについてあらいざらいしゃべっちもらおうじゃーないかぅ」
「……? ああ、あの話か」

「つぎのぼうけんはさっそくそこにいくのだーっ。おにいちゃんをむかえにいかないといけん。さ、さ、さんだーすおにいちゃんを……」

「知らね」

 酒卓に落ちる沈黙の帳、二の句が告げないクロエ、むせるバッシュに目を剥くジョンとスー……卓の沈黙が、一層鮮やかに酒場の喧騒を浮き立たせます。わー、この酒場こんなに賑やかだったんですねー……

「こ……こんぼい、《縮小》かいじ」

「そもそも『虚無の球(スフィアー・オヴ・アナイアレイション)』とはなにか? あれは次元界を縦にぶち抜いた“穴”だ。大体ほとんど全部の次元を貫いて“どこか”に抜けているから、飲み込まれたものは“どこか”まで飛ばされてしまい、《復活(リザレクション)》も叶わない……ここまではいいか?」

 コンボイの《動物縮小(リデュース・アニマル)》を解除と同時に、棍棒代わりに若の頭蓋に振り降ろす予定だったのでしょうか、クロエの頭上に掲げられたスツールには、びっしりと《野薔薇の棘(ブランブルズ)》が生え始めています。

「――ということは、だ。サンダースは死んでない。死んだならばどんなに遠くても《真の復活(トゥルー・リザレクション)》で蘇るからだ。そして既知次元界のどこかにひっかかっているのなら、『遠見の水晶球』でその姿が確認できるはず。ならば答えは一つ、サンダースは我々の“知らない”次元界まで飛ばされているんだ」

 ……クロエが、スツールを床まで降ろしました。

「どうするんら」

「“知らない”場所なら、調べればよかろう。神のみぞ知る(・・・・・・)と言うのなら、神に尋ねるまで(・・・・・・・)
「……そうきたか」

 ぼろぼろと、スツールに生えた野薔薇の棘が床に落ちて、萎びて消えて行きます。

「ちゅまり……かみさまのところまでいくき?」

 迂ー。

「他に方法があるまいよ。そうだな、次元界に旅立つというのなら、寄り道して“扉の街”シギルなんかどうだ。あそこなら『売却予定1号』、普通に売れると思うぞ」

「若。あなたもこの冒険、付き合ってはくださいませんか?」
「水臭いな。俺は最初から一緒にいくつもりでいたんだがな?」

 ――なにせサンダースには貸しがあってな、と含むところのある若の笑顔。

「きゃらのっ。若、おまえをバッシュ・ザ・ブートキャンプに配置換えしゅる。いっしゅうかんだ!いっしゅうかんしたら《背に風受けて(ウィンド・アット・バック)》で次元界を縦断ツアーするぞっっ」

「あー、チーム急行の野外訓練。――まあ頑張れ、バッシュ、若」

「え?なに?皆一緒じゃないのかよ?」

「バッシュの歩法に慣れないといけないのは若だけですし、行軍時の先頭はバッシュなので……訓練、二人で頑張ってくださいね」
「……おう」

「マジ?俺これからバッシュと一週間、野外生活水入らず?」
『わか、ざんねん!
  いっしゅうかん“きょにゅう”なえるふとたびしたあと、

   つぎのいっしゅうかんは、ばっしゅといっしょ!
    すーたち、ばっしゅのはやあるきには“なれてる”もんね!』

「よしスー、よく言った」
「きゃらの!バランスは大事!ラーグもそう言ってる!!」

「とりあえず、若にもお揃いのブーツを買いましょう。ふふ、昨日《神託(ディヴィネーション)》を頂いたとおりの結論でしたね」

――『疾く歩むものよ、銀月の神王に目見えよ。汝千金の金剛石にて飾りし約束の座は、時の果てにて夕闇の刃を待つ也』

「……銀月の神王……コアロン・ラレシアン?!」

「ハイコアロン・シャルシャレヴ、いと尊き御名にかけて。次の目的地は気高き緑の大地アルボレア、その最上層“至天の森”アルヴァンドールですよー」

「……マジで?」
「はい。神しか知りえぬ場所に彼がいるのなら」

 私はタンカードを持ち上げて、宣言しました。

「我ら“アローナ急行(フリート・ランナーズ・オヴ・アローナ)”、このブーツの絆にかけて! 大神コアロン・ラレシアンに拝謁賜りましょう!!徒歩で!!」
「歩きで!!」

『ボスケテ!』
「……い良し」

 バッシュが膝を打ちました。

「よし、行こう!どこだってかまうもんか、どこまでも行くぞ!」
「きゃらのっ」

 ジョッキとジョッキ、タンカードと木の椀と銀のゴブレットとが打ち鳴らされ、ここに誓いは為されました。

――“アローナ急行(フリート・ランナーズ・オヴ・アローナ)”は明日、神と友とを探す旅に出発するのです。

* * *
(イスティヴァン編・了)

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Comments

はじめまして
いつも楽しく読ませていただいてます。
赤い手は滅びのしるし編に続き、
イスティヴァン編も楽しかったです。
今後の冒険もがんばってくださ~い。

Posted by: 陽樹 | August 15, 2008 06:55 PM

>陽樹さん
 コメントありがとうございます。
 イスティヴァン編のあと、
 HJのD&Dリプレイ3巻『雷鳴山』が同じ15lvだってんで見せてもらったんですが……
 こう、潤沢さが目に毒なカンジでした。
これからもアロ急は清貧を合言葉に頑張ります。

Posted by: 飛竜/いしやま | August 18, 2008 12:35 AM

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