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【D&D】05:迎撃

* * *
『おや、お客かえ?』

 突然、念話が私たちの心にそう声をかけました。

「だ、誰だ?!」
『妾のことはよい。……ふうん、門番を除いてしまったかえ』


「きゃらの!ビッチ発見!敵性認定!!」
『呵呵。まあ所詮粘体、もう一体遣わすゆえ気にせずともよいぞ。このまま帰るなら見逃してやろう』


「……と言われて帰るようなヤツがいるかよ」
『ふうむ? 退屈しのぎにはちょうど良い。では昇ってくるがよいぞ、許す』

「一つだけ質問がある!!」
『あるー!』


『なんじゃ?』

「おねえちゃんいくつ? どんなカンジの美人? どこに住んでるのー?!」
『しまったみっつだー』


 しかしその質問には、バカにしたような笑いの気配だけが返ってくるばかりでした。そして、そのまま念話は一方的に断ち切られてしまい――。


「ふむ、つまり首魁がここにいることだけは間違いない、と」
「そしてそれはおねえちゃんの格好をしている!」


 と、私たちの声を聞きつけたか、天井の穴から呆然とこちらを見ている二つの視線。青黒い羽毛、猛禽の目と嘴、もうおなじみの魔鬼(デーモン)が二匹、穴の縁に立ちすくんでいます。

「ヴロック!」


 そして、あわただしく開かれる正面の扉。新たに現れたのはオーガほどにも巨大な、青い、直立するヒキガエル様の怪物2体と、

『侵入者であるか』


 同じく、どことなくヒキガエルを思わせる、暗灰色の肌を持つ両棲人類。

「スラード!!」


 青いほうは、太い四肢に分厚い皮膚、そして手の甲に生えた一対の骨質の鉤爪――人の振るう長剣ほどの長さです――で、不潔げな体躯のあちらこちらをかきむしりながら、のっそりと前へ。


 そして、死体から奪ったのであろう、王城の近衛の衣装と鎧を纏った灰色の両生類は、まったく自分が高貴な存在であるかのように、鷹揚に腰の剣を抜き、何事かを宣言しました。


『何の騒ぎかと来て見れば。我は上階層の番人である。ここで死ね、侵入者』


 しかしその異様な姿かたちが纏う近衛の装備は、実に似つかわしくなくかみ合わず……。泥人形が人の真似をするよりもなお異質ないでたち、“高貴を護る近衛兵”という概念に対する冒涜的な戯画でしかありません。


「きゃらの!なに言ってるかさっぱりわからない!!」
「多分、死ねとかなんとか」
『だよねー』

* * *


* * *
「秩序属性でないとまっすぐ刃も入らないとか、どんだけ混沌生物なんだこいつら」
『ねー』


 そうした特殊な防護能力を、意にも介さずねじ伏せる我等が前衛2人と1匹。足元では、ブルースラードとデススラードの死体が早くも腐敗を始めており、

「アルウェン、はやく上がっておいでよ!」


 扉の手前、巨人の間の天井の穴の縁では、ヴロック2体の死体を階下に投げ落とすコンボイの姿が。


「……あっと言う間でした」
「まだあの“世界一デカイヴロック”が控えていますからね、ここで苦労しているようでは」


 そう言い残し、《次元間跳躍(ディメンジョン・ホップ)》で階上に移動するサンダース。私もセレスチャル・アーマーの飛行能力を起動させているので、穴を昇るのは造作もないことではあるのですが。


「まさかこの城、もう上に上る方法はぜんぶこんな風じゃないでしょうね」

 その場合、コンボイに乗せてもらうとか《飛翔(フライ)》の霊薬を飲むとかしないとどうしようもないですよ。


 溜息をついて、扉に手を掛けたとき、目の前にぬるりとした黒い滝が落ちかかりました。

「ひ、ひゃっ?!」
「アルウェン下がれ!プリンもういっこ落ちてきた!!!」


 戸口から、斜めに見上げれば、階上の天井にもやはり大穴がひとつ。その縁から、土砂が流れ落ちるようにどろりと垂れ下がっているのは、先ほど控えの間にいたのと同じ、超大型のブラックプディングではありませんか。大量の粘液質が押し出すのは、、床にあった腐敗物とカビと先のプディングの這いずり残した粘液。それら雑多なドロドロが、2階と1階を繋ぐ穴から、私の目の前の空間に、床に、滝のように大量に流れ落ちてきているのです。

 ブーツの先で、クロークの手前の空間で、防護の呪文が酸の飛沫を押し返し、ちりちりと薄く輝きます。

「逃げろアルウェン、そいつ下に落ちるぞ!!!」
「きゃらの!ついにアルウェンがぬるぬるプレイを初公開!!」


 ……。

 全員上の階、私以外。で、間に挟んで巨大ブラックプティング、と。

「遠慮しますしお任せします!!」


 私は、素早く扉を閉めると、隣に転げていたテーブルをつっかえにして、スラードたちの部屋で状況が変わるのを待つことにしました。……さっきのスーの変身、まだ使えるならば、ブラックプディングの処分は1分とかからないはず、です。


* * *

* * *
「で、」

 30秒後。巨人の間は、粘液どころかカビ一つない薄ら寒い場所に変わっておりました。

「なにをしたらこうなるんですか?」


 火炎呪文でも分解呪文でもこんな風にはならない、はずです。
「《滅びの黄金蟲(ドゥーム・スカラブス)》……ダスクブレードおっかねええええええ」
『イナゴみたいだったね』

「きゃらの!サンダースのおにいちゃんが蟲を召喚した!蟲がぜんぶ食べちゃった!」
「……ブラックプディング、4体に分裂したのになあ」
「うむ、分裂したからこそスカラベで食い尽くせる濃度に薄まっていたのだ」
「ダスクブレードおっかねええええええ」


* * *
 2階は、舞踏場と衣装室、食堂、そして厨房がある階層……だったようです。

「どこもひどい有様だ、が」
「……死体がないのは何故だろう?」
「うむ、それは俺も気になっていた」


 食堂で倒れていたブラウンモールドの被害者以外、戦いの様子も犠牲者の姿も見当たらないのです。

「なんかろくでもないことをやらかしてるに違いないよっ」

「む」


 5つ目の部屋、侍女の控えと思われる部屋で、バッシュがなにかに気づきました。

「……ここで争ったあとがある……出血……たぶん瀕死……引きずっていくあと……」
「うむ、追ってくれ」
「わざわざ死体なり倒した相手なりをどこかに運んでるってこと?」
「意図がよくわからないが、事実を並べるとそうなるなあ」


 バッシュの先導で部屋を二つ進むと、その先は上下に伸びる階段のある部屋でした。

「……血のあとは上にも下にも続いてる。下から上に引き上げたのか、上から下に降ろしたのか」
「またはこう引きずってきたのを上または下に持ち去ったのか。ふむ、どれもあり得て特定は困難と」
「……うん、そう」


 ごめん、とバッシュ。

「きゃらの!バッシュのあんちゃんでなきゃこの血痕も気がつかなかったし見逃してた!あんちゃん偉い!」

「どうする?」
「もちろん」

 私たちは、階段を慎重に上ることにしました。

* * *

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