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【D&D】02:反撃

* * *
 翌々日。準備を整え、ジョンの《転移(テレポート)》でいざ出陣、です。

 ……到着してみれば。
 生暖かい風の吹くぬらりとした黒雲の下には、じっとりと濃い異様な霧。


「中はどうなってんだか」
「……近づくしかない」
「ごー」


 イスティヴァンの城、特徴あるあの尖塔が、まったくうかがえません。これは霧のせいではないはずです。私は、あの水晶玉の映像を脳裏に描いておりました。異次元に『裏返って』しまった王城。中の人たちは無事でしょうか。


「……キノコ?」

 城壁を持つ旧市街に近づくにつれ、外周の街並もなにやらおかしげな風情に。


 藁葺きの農家の屋根から、青々と茂った牧草の間から、土壁と柱のひび割れから、そして、踏みしめる石畳の隙間から。


 ……キノコ、です。メシマコブ、ネズミシメジ、ベニヒダタケ。どれも普段森で見かけるよりも大きく、またぬめぬめしています。良く見れば畑も牧草もシダやコケが随分と茂り、まるで陽の届かぬ深い森の地面のような有様です。


「地面がぬかるんでる」
「じっとりしてるな。うわ、衿が首筋くっついて気持ちわりい」
『はねにかびがはえるー』


 そして、人影はなく獣の気配もありません。街のほうでも、戦の気配……炎の上がっている様子はなく、むしろそれが不気味さを煽ります。


「みんな逃げたのかな」
「一昨日、城で異変があって、『魔鬼がでた』という噂が流れて……この天気。市民が逃げても不思議じゃないが」


「……または、家に閉じこもっているか」

 バッシュが見やった道沿いの旅籠の窓のよろい戸が、ぎっと音を立てて閉じられます。


「昼だってのに薄暗いし」
「不自然!ドルイド的に武力介入を開始する!」
「敵を見定めるのが先だな」


 なんとも健康に良くなさそうなこの天気、この空気。これも魔鬼の持ち込んだなにかが原因なんでしょうか。


 そこからしばらく、無言で進むことしばし。市門が見えたところで……

「ヴロック」


 先日逃げた個体と同じものかどうかはわかりません、ですが、奇怪な声で鳴き胞子を振りまくあの魔鬼が、イスティヴァンの大門の前に歩哨然として辺りを見回しています。


「……先手」
「必勝!!きゃらの!!」


 バッシュとクロエ、コンボイとサンダースが駆け込みます。ぎょっと身構えるヴロック、しかし遅い!われらがドラゴンスレイヤーは、並みの馬など及びもつかない俊足を誇るのです。


 しかし、歩哨とは。よほどの大物が魔鬼共に睨みを聞かせているに違いありません。私とジョンは、増援を警戒して《透明化(インヴィジビリティ)》の霊薬を飲み干しました。


 30ヤード先で胞子を浴びながらも、攻撃の手を止めないバッシュ。霧のせいで、胞子の飛ぶ範囲も舞う時間も些か短いようです。――胞子の噴き出した直後まで攻撃のタイミングを遅らせ、黄色い埃に顔を突っ込むことなく剣を振るうサンダース。


「要領のよさって、ありますよねー」
「あるね、確実に」

 そこへさらに、コンボイとクロエの突撃が。甲高い悲鳴をあげ、横倒しになる魔鬼ヴロック。そのまま、灰の山になってしまいます。


「いくら理の違う魔鬼と言っても、まああの三人でボコにすればなんとかなる、と。問題は数が出てきたときだよなー」


 ……一昨日と同じく、バッシュの全身に黄色い菌糸がみるみるうちに走ります。戦士なら耐えられない痛みではありませんが、しかし。

「もう2体来る!左右から、1ずつ!」


 クロエが短く叫び、コンボイとバッシュ、サンダースが背中合わせになり城壁沿いの左右を警戒します。2体。手を割かれるのは面倒ですから、善の理をもって悪に対抗いたしましょう。


「《我らの剣よ、爪よ!御名に懸けて、汝ら善なり》」


 《武器属性共有・善(マス・アライン・ウェポン・グッド)》。武器にしかかからない呪文ですが、コンボイは『武僧の帯』を締めており武僧にして猿、そしてモンクの拳は武器。何度繰り返しても奇妙な違和感があるのですが……まあ、よしとしましょう。


 ところで、コンボイはお猿さんなのでベルトを締める、というのが様になりますが、はて、もしクロエの相棒がライオンだった場合、彼は黒帯をどこに締めればいいのでしょうね。尻尾?

「来た!!」


 クロエが、左手の空を睨んで右下の手をコンボイの背に置きます。右上の手は棍棒を、左手にはそれぞれ小杖が1本ずつ。そう、既に《ギラロンの祝福(ギラロンズ・ブレッシング)》は投射済みなのです。さらにもう一つの呪文が、コンボイの背中を膨らませます。


 そして、霧の中から飛びかかろうとしたヴロックに、“羽を生やした”コンボイが飛びかかりました。

『げぇっ』


 空中から鷲の様に飛び掛り、すぐに上空に逃げて、という連続攻撃で、何人もの敵を屠ってきたに違いないヴロックですが、今回は。ほんとうに、今回は相手が悪かった、と諦めてもらいましょう。


 自分の軌道に正面から掴みかかってくる、四本腕で《風の王者(マスター・エア)》の翼が生えた、己の外皮を容易く切り裂く善の爪と牙を持つ――大猿。


 必死でかわして、地上に逃れれば、憤怒の形相で戦鶴嘴を振り上げる、竜殺しの戦士。

 下がろうにも、膨大な魔力を何度も剣に篭めては切りつけて来る、黄昏の魔剣士。

『ひっ』


 2体目のヴロックは、菌糸に肌身を締め上げられながらも、バッシュが討ち取りました。たちまち石像となり、崩れ去る魔鬼。

「3体目が来ます!が、その前に」


 複数のヴロックが敵になることは、砦が襲われたときに判っていたこと。この菌糸も、それとわかれば対処の方法があるのです。

「清めたまえ、アローナ。貴女の森に出ずる清き泉のごとく」


 懐から、小ぶりな水筒をひとつ。親指で栓を押し開けると、私はその中身をバッシュに降り注ぎました。

「……冷っ?!」

「聖水です、バッシュ。ヴロックの胞子は聖水で洗い流せるの」


 の、と言いかけたところで、クロエが顔を真っ赤にして身をよじりました。

「きゃらの!!アルウェンの聖水プレイ?!だめだよおねえちゃん、透明になって見えないからってそんなことっっっ」


「そんなことってどんなことですかっ!?!?」

* * *
 3体目は、苦もなく倒し。ああ、3体目は光って死体の影だけが残りました。

「城壁のなか……中かあ……」


 城壁の向こうは、ぼんやりとした霧が、城壁を境にして黒い雲のように濃くなっており……城壁の手前との境には、まるで空気の壁でもあるかのように、交じり合わず、どよどよとした煙のような霧が壁の下から巻き上がっては街の中へと戻っていくのが見えるのです。


「世界が違っている……というか」
「うむ、おそらく次元がずれている……のではないだろうか」 

「覚悟決めて入ろうぜ」


 バッシュが、こともなげに言いました。

「……そうだな、どうせ進む道はひとつだ」
「まずはリンチ商会だな」

――そして、イスティヴァンにはカビが生えておりました。


 ちょうど、食べ残しのパンを1週間放置したらこうなるかしら、という具合に。

「なんですか、これ……」


 緑、黒、黄色。決して鮮やかではない、しかし、ナマモノだけが持つ彩度を持った色とりどりのカビとキノコが、ちょうど城壁を境に、イスティヴァン中を覆っているではありませんか。


「全体は見渡せないけど……水晶玉で見たとおりだな」

 無軌道無作為なカビ同士の領域が、画家を志したローパーがペンキをぶちまけたかのように、混沌とした色合いをイスティヴァンに与えています。


 そして、街に近づくまでに見たものとは比べ物にならない大きさの、異常なキノコ、キノコ、キノコ。

「それよりも……この感覚」

 ジョンが、バッシュの傷跡を差し示して、私たちの視線を集めました。


「見ろ。もう傷が消えてる。……この感覚、多分『正の次元界』だ」

* * *

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