« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』66・54日目 邪竜の神殿(9) | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』補足 »

【D&D】『赤い手は滅びのしるし』67(了) 54日目~ エルシアの谷で

* * *
「いと清き魂の御使いノヴェリーよ、司祭アリリア=フェルにお伝えください。

 『我ら“アローナ急行(フリート・ランナーズ・オヴ・アローナ)”、首尾よくティアマトの影を滅ぼしました。
  地獄の門は無事閉ざされたので、蘇りたる善なる青銅竜とともに、これよりブリンドルに帰還いたします』と」


『麗しきアローナの御手にかけて、司祭アルウェンよ。確かに伝えましょう』


 ユニコーンもその清らかさに涙する、と謳われた天使ノヴェリー様は、アローナ様のおそばにお仕えする美しい乙女です。定命を遥かに越えた証の肌は、つややかな翠緑玉の色。瞳に湛えられた涙は、高貴なオーラによってそれ自身輝かんばかりです。


『“百獣の原野”“森林の次元界”ビーストランズまで《門》を開き、私に頼みごとをする……これもまた『祈祷の蝋燭(キャンドル・オヴ・インヴォケーション)』の力ですね?無理をしてはいけませんよ、アルヴァンドールの娘よ。
 過ぎた力は必ずや破滅の元。緒力相集う物質界において、あなた方の可能性は無限に等しいもの。“力”の誘惑は常にその可能性の中であなた方を虜にせんとその牙を研ぎ澄ませています』


「はい」
「パワー禁止!!パワー自重!!アローナの天使は優しいな?!」
「ク、クロエっ?!」


『力あるものがつねに勝利するならば、正義がどこにありましょう。
 弱きものには知恵が、勇気が、そして互いを思いやる優しさがあります。
 “優しさは力たりうるのか?”それはアローナが御自らに問うたことであり、あなた方に問うていることでもあるのです』


「……よくわかんない」
『あなたが思ったとおりのことをなさい、ラーグの子よ。あなたはじゅうぶんに優しい子』


「ぇー」
 ジョンが小声で異議を唱えました。そうですね、それはちょっと見当違いの褒め言葉だと思います。


* * *
「見えた!!ブリンドルだ!!!」
「そういえば、クロエは空の旅は初めてでしたか」


「大体は鳥になって自分で飛ぶ!ひとに乗せてもらうのはすげえ楽だ!!」
『わたしも人を乗せて飛ぶのは随分久しぶりだよ、お嬢さん』


 “彼”が楽しそうに吼えました。竜の飛行速度は、実は、そんなに速いものではありません。時速30マイル、というところでしょう。


『この《背に風受けて(ウィンド・アット・バック)》は実にいい呪文だね!景色が飛ぶようだ!!』


 この小旅行で、何回目かの褒め言葉。そのたびに、クロエがニヤニヤして竜の背中をばんばんと叩きます。あれは照れてるんでしょうか。


 《風乗り(ウィンド・ウォーク)》では感じない、心地よい風の動き。飛び始めてすぐ、髪の毛が風に乱されて始末に終えなくなったので、いま私の髪は、治療道具の中にあった白いハンカチでひとつに束ねてあります。久しぶりに全部出した耳に当る風は、やっぱりいつもより強い感じがします。
 ……気持ちいいですね。


『降下するよ』


 竜の速度が、ぐんと上がりました。


* * *

 ブリンドルの、ペイロア神殿前。遥か遠くから青銅の巨竜が飛んでくるのを見ていたみんなが、神殿前広場を遠巻きに見守る真ん中に、私たちは着陸しました。トレドラさんとアリリア様が、神殿を飛び出してこちらへ駆けてくるのが見えます。


『さて、君たちには感謝してもし足りない。
 封じられていた我が魂を解放し、蘇らせてくれた偉業に対して、然るべき礼をしなくては青銅竜(ブロンズドラゴン)の名折れ。さあ、なにか望みはあるかね?』


「あー、こっちの趣味で蘇らせたようなもんだから、気にしなくていいよ」
「うむ、貴君を埋めるより楽だったのだ」
「きゃらの!恩義に感じたらそのうち返せ!でもクロエたち今困ってないからキニスンナ!!」


 盾ほどもある“彼”の目玉が、まるまると見開かれます。全く欲の無い彼らの要求に、竜は意表を突かれたようでした。


「……そうだ、名前。名前教えてもらっていいか?」


 バッシュが尋ねました。竜は一度目を閉じて、ややあって答えました。


『……なるほど、ではこうしよう。私は人間に化けて冒険をするのが大好きでね。
 次に会ったそのときは、人の姿のまま、改めて真の名を名乗ることにしよう。
 それに君たちが気づくかどうかは君たち次第だ!!!』


 “彼”が、帆船の帆よりもなお大きい翼を広げ、羽ばたき始めます。


「……また会おうってことだな!!!」

『そうだ、また会おう、悪竜殺しの“アローナ急行”!!お前たちが助けを必要としたとき、私は必ずや飛んでくるぞ!!!』


 その言葉を最後に、彼はゆったりとした速度で、南へと飛んでゆきました。


* * *
「今のは、いまのはいったい?」


 トレドラさんが仰天して2回質問を繰り返します。わっと殺到したブリンドルのみんなが、口々に私たちへの感謝と質問を。


「どこへ行っていたんですか?!」「ありがとう、アローナ急行!」「サンダースさまーっ、こっち向いてー!!」「あの竜、皆さんの仲間ですか?!」「俺にも剣を教えてください!!」「ぜひブリンドルに定宿を!!」「クロエたん(;´Д`)ハァハァ!!」


 そこへジャルマース卿もやってきました。アリリア様を通じたノヴェリー様の神託で、全てが無事片付いたことを、彼ももう知っているはず。そのとおり、彼のこの二ヶ月の心の重荷は、(トレドラさんの件を除いては)全て取り除かれたのですから。
 卿は晴れ晴れとした笑顔で、私たちを労い、讃えてくれました。


「どうだろう、近くの村をひとつ、君達で治めてみないか」

「いいえジャルマース卿。彼らには私の方が先に交渉を持ちかける権利を持っていると思っていましてよ」
 とカール女史。


「どうかしら。私のところで働かない?あかつき街道を整備するからには、街道の脅威はすべて掃う必要があるし。その先触れとしてあなた方の“足”は大変なアドバンテージなの」


「えーと、それがですね皆様」
 帰り道、私たちは“彼”の背中で今後の予定を凡そ話し合ってきたのでした。


「まず、この権利書を持って、私たち“アローナ急行”はヴラース砦の正統な所有者であることを宣言します」


 おおっ、と広場がざわめきました。


「そこで、あの砦を改修し、私たちが落としてしまった“どくろ大橋”を架け直すため、600人の石工と作業員、それと優秀な建築技師を5人募集します。
 ドワーフなら優先的に雇いますよ!期限は1ヶ月、石工と作業員は1ヶ月で金貨12枚、日払いで毎日銀貨4枚の計算です!
 建築技師は金貨30枚!1ヶ月の期限付きですが、この間の食事はどなたの分もこちらで用意します!」


 やらせてくれ!俺もだ!という声がいくつも上がります。ジョンが、まあまあとあたりをなだめ、続けました。


「それとー、その間作業を邪魔させない勇敢な兵隊も募集してる!だいたい30人!日払いで銀貨3枚!せいぜい狼を追い払う程度の楽な仕事だー!!それより強いのはみんな倒しちゃったからな!!」


 どっと笑いが戻ります。


「まあ、そういう計画があるんで、まずは!
 二三日、“飲み足りないゾンビ亭”にいるから、我こそはって技師がいたら明日尋ねてきてくれ!5人揃って、監督を決めたら砦に出発する!着いた所で名簿を作るから、払いはそこからな!街道を歩いて戻りながら触れて回るんで、遠いと思ったら無理しなくていいぜ!!」


「……なるほど。すでに道を定めていたのか」
「橋と街道を鎮守するのね。お手柔らかに」

 カール女史が残念そうに言いました。聡い彼女のことです、橋を押さえられると交易を独占的に行えない、と考えたのでしょう。でも、ドレリンの渡しもありますし。なかなか王国当時の街道ほどまでに自由な流通路にはならないと思いますよ。


 それでも、この事業で、このたびの戦役で疲れ傷ついたエルシアの人々が活気を取り戻すなら。私たちの目的は、むしろそちらにありました。


「砦ができたら、そのまま村にする予定!新天地でやってきたい奴、ヴラース砦に来てくれな!!以上!」


 おおおお、と広場がどよめきました。


「では、アリリア様、ジャルマース卿、トレドラさま。イマースタル師、カール女史。“全て”丸く収まりました。今日の所はこれにて」


「さ、飲むぜ!食うぜ!」
『うたうぜ!』
「きゃらの!!《相棒縮小(リデュース・アニマル)》解除!!」

 人型から馬並みのサイズにふくらむコンボイ。応応応、とあくびのような間の抜けた吼え声を上げ、その背にクロエをひょいと乗せますと、一歩先に歩き出しました。 

 そうして、丘を下りだせば、道を譲ってくれるブリンドルの皆さん。口々に、ありがとう!ばんざい!を叫び、だれが撒いているのか、道沿いの建物からは花までも飛んでます。


「……照れくさいですね」
「うむ、胸を張るといいですよ司祭。これは我々全員の勝利です」


 そこで、わたしたち5人と2匹は、胸を張って大路を下っていきました。


* * *
「ああ、そうだアルウェン」

「なんですか?ジョン=ディー」
「紹介たのむよ、例の別嬪さん」
「ああ……えっと、アレネストラさまですか?」


 こまったな、と言う顔を私はしたのでしょう、ジョンが慌てて言葉を繋ぎました。
「ああほら、そうじゃなくて。アローナ神殿に入信したいんだ。アレネストラはアローナの人の相、物質界での化身(アヴァター)の名だろう?」

「……どの辺で気がつきました?」
「や、まあ、さいしょから?」


 そういう証言だったので、そういうことにしておきました。


「ジョン!ジョン=ディー!!」

 千切れるほどに手を振っているのは、宴会を開いてくれたあの女性。……メイヤー、でしたっけ。ジョンも気がついて、ぶんぶんと手を振り返します。そちらのほうで上がる、複数の黄色い悲鳴。


 英雄ってモテますね。


* * *
「クロエさま!ドルイド・クロエさま!」

 少年がコンボイの横を駆けながら、大声で呼ばわります。


「?」

「あの、あの!ありがとうございました!!テレルトンを救ってくださって!!」
 クロエがコンボイの上で二度三度と首をひねり、

「もしかして、テレルトンから避難してきた子かにゃー?」


「は、はい!もう一度お父さんに会わせてくれて、本当にありがとうございました!!」

 クロエがぐるりと後ろを向けば、少年が駆け出したあたりの人垣に混ざって立って、感無量の態でこちらを見ている、中年を越したほどの槍兵が一人。クロエと目が合うと、ぴたりと最敬礼を返します。その目には光るものが浮かんでいます。


「ああ、あの時の……」
「30人の英雄の一人だな」

「きゃらの!いいことだと思ったからやった!気にしなくていい!!お父さんと仲良くな!!」
「あ、ありがとうございました!!!!」


 クロエ、顔が真っ赤ですよ。


* * *
「司祭さまっ、司祭さまっ」

 ちいさな子供が、私のクロークの裾を摘まんで呼び止めました。


「どうしましたか、定命の幼な児よ」

 膝をついて、子供に視線を合わせます。エルフには子供が少ないので、子供との距離の取り方がじょうずなエルフ、というのはあまり聞いたことがありません。どうしても、一人の独立した人格としての敬意を交えてしまうので、その、なかなか上手な打ち解け方というのができないのです。


「きゃらの!アルウェン、その座り方、膝立てたら見えちゃうよ!!」
「……なんのことですか?」

「あなたは気にしなくていいですよ、ちいさいかた。それで、何用ですか?」
「……あの、あのね。これを司祭さまに渡してくださいって」


 少女が差し出したのは、見たことのない様式の、ちいさな人形でした。髪は黄色く、頭は大きく、3頭身くらいでしょうか。耳はかなり誇張されて尖り、衣装はどことなく異国風です。


「司祭さまに似てるとおもいます、って」


「……軽い?」
魔力探知(ディテクト・マジック)》にも反応はありませんが、こんな素材も塗料も見たこともなければ聞いたこともありません。


「うむ、アルウェン司祭。それはおそらく別プレーンの品だ。この物質界でない“どこか”から運ばれてきたものに相違ない」
「どなたがこれを?」

「……お会いすることはできませんが、いつもおうえんしてます、って。あとできればけっこんしたいです、って言ってました」


 あらあら。

「会えない人と結婚は……できないですよねえ」


 女の子が不安そうです。私は慌て気味に言葉を続けました。

「でも、嬉しいです。ありがとうございました、と伝えてもらえますか?」

 女の子はにっこりと微笑み、何度も肯いて、人ごみの中へ駆け戻っていきました。


「貴重な品だが、値はつかないでしょう。比較するべきものがない」
「でしょうね」

 そもそもプレゼントって、値段じゃないですものね。わたしはこの不思議な贈り物が嬉しくて、その人形の頭にちいさくキスをしました。


「《帰還の咒(ワード・オヴ・リコール)》の基点にさせていただきましょう。これを置いたところが私の還るべき場所です」


 とりあえずは、ヴラース砦の一室を戴いて、そこの書見台に飾ることにしましょうか。私は、人ごみのほうをもう少しだけ見やって、この贈り物をくれた方を探してみましたが、先ほどの女の子も贈り主も、ついぞ見つけることはできませんでした。


* * *
 そのすこし……数日あと。エルシアの、今はない村の、そのまた外れの小さな丘の麓。


 よく見なければ分からないうっすらした盛り上がりの上に、名と思しき刻みの入った自然石がいくつか。


 ここは、バッシュの故郷、だった村。


 そして、この石は、彼の家族の墓、でした。


「……とうさん、かあさん。終わったよ」


 幼い彼を庇って死んだ両親。ゴブリン族に滅ぼされた、今となっては名も残っていない村。


 家族を奪われた怒りと悲しみが、彼を狂戦士へと成長させました。バッシュにとっての、始まりの場所。そして、この“赤い手”との戦いの締めくくりにふさわしい場所。


「……済みましたか?」


 死者への祈りを終え、静かに立ち上がったバッシュに、私は声をかけました。


「ああ、済んだ。行こう」


「よっし行こう!次の冒険に!具体的にはジェフ方面とか!あっちデカイ街がいくつもあるってよ!!」

「とりあえず城塁だけでも完成させないとー、職人さんたちまだまだ増えるんだきゃらのー」


「うむ。しかしバッシュ、本当にいいのか」

「ああ、この偃月刀は売ろう。あの4本腕形態はあんまりにも無慈悲で……」
「パワー禁止?」

「……そんな気がする。自分ひとりの力じゃ絶対できない戦術だし」

「神様相手だったんだからしょうがない気もする!だいじょうぶ、つぎはクロエもっとおもしろいこと考える!!」
『すーもたのしみ!!』


「ミハの行方は結局、いまも不明、か。もう一度捕まえないといけないのか」

 唯一気がかりなのは、それですが。少なくとも、今すぐどうにかできることではないでしょう。多分、エルシアからは逃げ出しているでしょうし。


「そろそろ《転移(テレポート)》行くぞー」

「きゃらの!蝙蝠変化!!……ねえねえ、『お墓の前から《転移(テレポート)》でエンドロール』はあんまりにもできすぎじゃない?」

「うむ、なんだか既視感を感じるが」
『“だんじょんあんどどらごん”のらすとかっとがそんなだった』


 スーの言うことは時々よく分かりません。


「とりあえず再訓練!あと購入品の分配と所持品の点検に資産の精算!やることはいろいろありますよ!」

「きゃらの!森増やす!とにかく増やす!橋も直したらトリエントをドローしてセット!橋の左右に守備表示したーい!!」

「『飛行薬』の在庫がそろそろ少なかったのではないかな?あと秘術研究用にデノヴァーで買い出したいものがあるのだが」

「デノヴァーに行くならコンボイに《言語理解(タンズ)》を永久化してもらうのを。……あ、そうだ。テント買いにセリリアのところ寄ってもいい?」


「全部やっちゃいましょう!だいじょうぶ、私たちの足なら今日中に全部やれちゃいますよ!!」


 そうして、私たちは次の目的地に向かって《転移(テレポート)》しました。



* * * * *


DM:“CCB”かぎや

バッシュ:dai9

サンダース:USA

ジョン=ディー:黒猫

クロエ:Oz

アルウェン:わたくし

プレイ時間:平成19年5月~11月
~【赤い手は滅びのしるし】キャンペーン、これにて完結~

|

« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』66・54日目 邪竜の神殿(9) | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』補足 »

Comments

「いしやまさん、ひこにゃんはもう旧い。これからはまんとくんですよ」
「えー、あれせんとくんともども可愛くないじゃん」

という会話を経て、トップだけなんだか萌え系に。評判見て差し替えたりします。

Posted by: 飛竜/いしやま | July 20, 2008 11:13 PM

ずっと楽しみに読ませていただいてました!
大団円で、感激です。

素晴らしい。

Posted by: | July 20, 2008 11:41 PM

ありがとう!
とてもすばらしい内容に毎日が楽しみでした。

お疲れ様でした。

Posted by: さぶろうた | July 21, 2008 12:53 AM

>名無しさん
 押忍、ありがとうございます。PL全員、このチームはお気に入りでして、この後も同じメンバーで冒険を続けております。
 懲りずに日記形式にしておりますので、よければもう少々お付き合いください。

>さぶろうたさん
 ありがとうございます。ちまちま書き溜めた甲斐がありました。

Posted by: 飛竜/いしやま | July 21, 2008 11:10 PM

The comments to this entry are closed.

« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』66・54日目 邪竜の神殿(9) | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』補足 »