« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』61・54日目 邪竜の神殿(4) | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』63・54日目 邪竜の神殿(6) »

【D&D】『赤い手は滅びのしるし』62・54日目 邪竜の神殿(5)

* * *

「どうだ、バッシュ」


 声をかけられたバッシュは、いま、四本腕を地に付いて、耳を澄ませ、鼻をひくつかせています。《鋭敏嗅覚》を得たんだ、と彼は言っていました。犬にも狼にも劣らぬ鼻になった、と。どうも《知覚結合(リンクト・パーセプション)》で開けた知覚が、彼の鼻の未知の部分を開発してしまったのではないかと思います。

「匂いは……上、かな。あと、こっちにも繋がってる」


 バッシュは立ち上がり、片方の壁を指差しました。……なにもありません。


「隠し扉か」

「おそらく」


 下の腕を組み、上の左手を腰にあて、残った右手で頭をかいています。なんと奇妙な。


「きゃらの!3対の肢に《樹皮の肌(バークスキン)》の外骨格!そしてよく効く耳と鼻!ていうか触角で匂いを察知!!これなんて来訪者?」

『すーしってる!ばおー!!』

「バッシュは《鋭敏嗅覚》でゴブリンのにおいを感じ取り……かれはその『におい』が大嫌いだった。バッシュは思った!!おまえらの『におい』を消してやるっっっッ!!!」


『ばっしゅ・ぎらろんず・あーむど・ふぇのめのん!!』

 キャキャキャと笑うスードゥドラゴンとちびっ子ドルイド。


「時々俺にも分からない話を始めるんだよなあ、スーはさぁ」

「ジョンのお師匠は次元界が専門であったか」


 どうも別プレーンのジョークらしいです。この場で分かってないのは私とコンボイ、そしてバッシュだけのようですね。やれやれ。


* * *

 聞き耳を立てたバッシュが、小声で状況を説明します。


(右、なし。左、えー、衣擦れ?あと)


 つい、と正面の壁を指差し、両手で『足音』とハンドサイン。あー、また隠し扉ですか。


(ごーごー!!)


 ドルイドの辞書に後退の二文字なし。最後尾から棍棒を振り回してアピールするクロエ。


 首肯して、そっと膝をつき、錠の位置を探るバッシュ。壁に両の指を添わせながら、別の手で開錠道具を準備しています。便利ですね四本腕。


(ここか)


 錠前破りの瞬間は、つい、見ているほうも息を呑んでしまいます。緊迫した空気と沈黙の中、バッシュの手元から、



 きいいいいいいーい。


 と金属同士がこすれあう甲高い音。


「……あー、ゴメン。開かなかった」


「だあっ!!開かないどころか気づかれたよ!!バッシュ、再チャレンジだ!」

「よ、よし!!」


 無事開きましたが、まあ、その。


『ゲハハハハハ、侵入者め!侵入者め!』


 もちろん、錠前の異音に気がついた敵は待ち構えており。部屋の真ん中に仁王立ちになった、全身トゲトゲの悪魔が、差し上げた両手に黒くねっとりとした霧を集め――ぼうん、と私たちの足元に投げつけてきました。


「《不浄の影(アンホーリィ・ブライト)》かっ」

 油じみたいやらしく甘ったるい匂いの黒い霧が広がり、ざらりと全身を、精神をかきむしります。けれど、私たちの足を止めるほどの威力はありません!!


「《麗しきアレネストラの緑の黒髪に懸けて、輝くハシバミ色の双瞳に懸けて、友よ!友よ!森に仇成す悪を討て!!!》」


 先ほど打ち倒した戦司祭たちがひとり1本持っていた、《朗唱(リサイテイション)》の巻物。もちろん、中身はティアマトを讃えるなにがしかの経典からの引用だらけでしたので、そのまま唱えると『おお勇壮なる五つ首持てる破壊の権化に仕えるものどもよ』になってしまうので……記憶を頼りの、即興祷文です。


「うは!アルウェン、アレネストラって誰?美人?帰ったら紹介してくれね?」


 ジョンが《朗唱(リサイテイション)》の効果でしょうか生き生き溌溂としつつ、素早く《加速(ヘイスト)》の巻物を起動させます。

「《よく知ってる女神(ひと)なので、無事に帰れたらご紹介しますよー》」


「うわすげえやる気でた!バッシュ!後ろ取っちまえ!!!」


 うわあ、すごい効果です《朗唱(リサイテイション)》。……アレネストラはアローナ様の化身の名です。ジョン=ディー、いつ気がつくかしら。


 バッシュが《加速(ヘイスト)》の影響で、飛ぶように――文字通り飛ぶように悪魔の背後へ駆け込みます。一瞬間があって、悪魔の手前で作動する五色の魔力。


「きゃらの!バッシュが罠より早く走った!!」

「うむ[火]に[電気]に[酸]に[冷気]にもうひとつ[酸]か。赤青黒白緑、ティアマトの神殿らしい罠だ」


 サンダースは冷静に、吹き付けられる魔力の罠の属性を数え上げ、徐に罠へと踏み込みました。再度吹き付けられる強烈な魔力。


「良く見ればある程度はかわせるな。それになにより、われらには《抵抗(レジスト)》の呪文がある」


 あぁ、悪魔があからさまにがっかりしてますよ。ちょっと可哀想ですね。なにせ、


「……!!!!」


 悪魔の背後から、血も凍るような戦鶴嘴(ウォーピック)の一撃!を、わざわざ悪魔の顔の前で急停止させ、鶴嘴の禍々しい鋭さをよっく見せ付けてから……同じ軌道で打ち下ろす猛撃!!!


 飛び散るとげとげと悪魔のどす黒い体液。圧倒的な暴力に晒され、悪魔の濁った瞳には恐慌の色が。その怯えた表情の上に、次はこいつが飛ぶぜとばかりに掲げられる反身の偃月刀(ファルシオン)


『ヒィ?!』


 とげとげ悪魔の後ろに立っている人間は、たぶん今エルシアで一番恐ろしい……憤怒の相を持つ、人の形をした鋼の暴風(あらしまかぜ)なのですから。


「余所見はいかんな」


 魔力注入されたサンダースの剣が、悪魔を横に薙ぎます。電撃が迸り襲い掛かるも、悪魔の持つ魔法抵抗の力が、魔術法則を捻じ曲げてその威力を霧のように散らしてしまいました。が、落胆する風もなく唇の端を吊り上げるサンダース。


「ふむ、その程度の魔力抵抗なら……次は通るぞ」


 ダスクブレードの『抵抗破りの剣』。サンダースほどの《円熟の術者》ならば、下級悪魔の魔力抵抗を破ることなど造作もないという……でもやっぱりかっこよすぎてズルい気がします、“夕闇の刃”は。


「んでもって、バッシュに“どいてお兄ちゃん!そいつ殺せない!!”」


 コンボイとともに踏み込んできたクロエが、小杖(ワンド)でバッシュを《蛇の如く加速(スネークス・スウィフトネス)》します。無慈悲に……いえ、慈悲深く左足へと振り下ろされる偃月刀(ファルシオン)。その一撃で、悪魔の肢はちょっとアレな方向に。


「よろめいた!逃がすな、《自在刃(パーシステント・ブレード)》!!」


 挟撃を避けようと左へ退いた悪魔の背後に、ジョンの召喚した魔法の短剣が、これ以上下がるなとばかりに閃きます。


 そこへ、戦鶴嘴(ウォーピック)と、偃月刀(ファルシオン)と、斧盾(バックラーアックス)を構えた、異形の英雄が、全力で、


「きゃらの!!R-18的処刑風景!!!さらばとげとげ悪魔、お前はそれなりにゆうかんだった!!!」


* * *

「……察するに、ここは奴らの宝物庫だな。こいつは『バーブド・デヴィル』と言って、九層地獄では宝の番人をさせられることが多いそうだ」

「こんだけ広い宝物庫にもう宝箱5つしかないってどんだけー」

「奴らの装備の潤沢さの秘密はここだったのだろ」


「とりあえずこいつはおいといて、もうひとつの部屋に行ってみようぜ」

「なんかエロっちい音のした部屋だな!」

「ええっと。クロエ、衣擦れの音でエロスは流石に短絡でしょう?」


 ――しかし、『世の中とは常に想像以上の出来事が待ち受けているところ』、だったのでした。


* * *

|

« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』61・54日目 邪竜の神殿(4) | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』63・54日目 邪竜の神殿(6) »

Comments

The comments to this entry are closed.