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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』59・53日目 邪竜の神殿(2)

* * *
 廊下の先、次の部屋からは、何かが煮える音がしてきました。

「うう、なんだろな。溶岩?蒸気?」
「とりあえず《火炎抵抗共有マス・レジスト・エナジー・ファイアー》」
「うむ」
「おっけー、吶喊!!」

 ドアを蹴破って飛び込めば、

『ああ?なんだいあんたたち。朝飯は出したばかりだろ?昼まで頑張って仕事しな』

 手狭な台所で、差し渡し10フィートはありそうな鍋をかき回す老婆と、ジャガイモを剥く2人のブラックスポーン・レイダー。

『おばちゃん!違うぞ!こいつらは敵だ!!!』

 くるりと振り返った老婆は、ひどいおできやいぼだらけの青紫色の肌を持つ、いっそおぞましいとも言うべき醜さを備えていました。頬を突き破るのではないかとも思われる茶色い乱杭歯、薄汚れた蓬髪の間からは禍々しげな二本の角が。

「ナイト・ハグ!こんな奴に飯を作らせるとは、どういう神経してるんだ赤い手!!」
「突っ込みどころはそこですか?!」
「いやおそらく連中は病気にならない身体に違いない」
「なるほど!サンダース頭いい!」

 シミターを引き抜いて襲い掛かるレイダーを軽くあしらいながら、本命と思しきナイトハグに切りかかる二人。がしかし。

『その程度の武器であたしの肌を傷つけられるもんかね!』

「また耐性持ちかよ!スー!挟撃提供!バッシュ、サンダース!押し込め!!!」

 そう、こんなとき私たちはいつも相手の予想を上回る火力で押し切ってきたのでした。

『あ、あひいい?!あたしの顔がガガガガッ?!』

 眼窩から飛び出した黄色い目玉をぎょとぎょとさせながら、紫色の体液を――たぶん血液でしょう――噴出しつつ、ハグは一瞬中空を見据えて、

 消えてしまいました。

「エーテル化!見えるか?!」
「ああ、一応。《透明化看破シー・インヴィジビリティ》は使っておいたが……」

 手が出せないんですよね、エーテル化されると。エーテルと化したハグは、傷口を押さえたまま、足を引きずりながら壁をすり抜けて、台所の奥へと消えました。足元にはもちろん、悲鳴を上げるまもなく倒されたレイダー2体。

「奥に警告されると厄介だ。ガンガン先に進もう」
「ううー、狭いよー狭いよーどのドアも5フィートも無いよー」

 クロエがぶーぶーいいながら、コンボイに狭い扉口くぐりをさせています。クロエもコンボイも、この通路といい台所といい、さぞや窮屈でしょう。

「まあ、ガマンしてくれ。もっと先に行けば広いだろう……多分」
「根拠はー?」
「そりゃあれだ、真ん中の通路があれだけ広いからには奥だってきっと広い。大きな生物が行ったり来たりできるようになってる、と思うね」

 だといいですね。コンボイはともかく、クロエの目がもう、狭い空間でやる気をもの凄く失っているのがよーく分かります。

* * *
 次の部屋は、士官室のようでした。背の高さほどの仕切りで作られたたくさんの個人用空間。……ホブゴブリン用ですけど。

 その部屋の通路の真ん中に人だかりがあり、

『大丈夫かおばちゃん、しっかりしろ!』
『くそっ、誰がおばちゃんにこんな酷いことを!』
『おばちゃん!今“滅びの手”の司祭様を呼んで来るからな!』
『おうおうありがとうよお前たち。あいつらをやっつけたら奴らの肉もシチューにしちまおうねえ』

 口々にハグを励ましているらしい隊長級のホブゴブリンたちと、人情に触れて涙腺がゆるくなってるらしいナイトハグ。喋る間もあらば、がぶがぶとポーションを飲んでいます。

「……なんて言ってるんですか、バッシュ」
「う……ん、まあ、どうでもいいことを」
「だろうなあ」

 我々の姿を見たホブゴブリンたちも一斉に抜刀するものの、通路の狭さからしばしにらみ合う格好になり――ややあって、

『かかれ!!』
 透明薬を飲むもの、盾を掲げて前進してくるもの、後続にあっていつでも前進する用意をするもの。

「ざっと10人。すこし減ってくださいな、《イバラの壁ウォール・オブ・ソーンズ》!」

 うち、後方支援とばかりに足を止めたホブゴブリンとハグとを、茨の檻に封じ込めました。

「よし。バッシュ、うまくかわせよ!!」

 言うが早いか、ジョンが小杖ワンドを突きつけて、口訣を唱えました。

「《火 球ファイアーボール》!!」

 放たれた火球は、ゆるやかな放物線を描いて、バッシュの足元に。

『ゲエッ?!』

 続いて起きる閃光、爆風。バッシュは憮然とした表情で、しかし平然と魔法の炎を無視します。

「《力術属性抵抗レジスト・エナジー》も織り込み済みとは言え、やっぱりいい気分じゃあないね」

 少々眉毛を焦げさせたジョンが、自分の放った火球の効果を目算しながら呟きます。火球は、茨に取り込まれて動けない連中をも飲み込みました。しかし、まだ戦意を失った様子はありません。ならば、と、炎に傷ついたホブゴブリンを、黙々と始末しはじめるバッシュとサンダース。

「どれ、もう一発」

 その向こうへ、もう一撃喰らわせようと、ジョンが小杖ワンドを振り上げたそのとき。

『おまえたち!あたしについてきな!』

 ハグが手の届く二人の肩をつかみ、……再びエーテル化しました。するりするりと茨の中を走り出すハグ他数名。間仕切りの陰になって、どこへ行ったのか皆目見当もつきません。

「エーテライズ4!廊下側に回り込むぞ、気をつけろ!!」
 入り口で室内の様子を見渡していたジョンが叫びます。バッシュがそのまえに斧盾を掲げて立ち、狭い通路は敵も味方も進むも引くもできない状態です。

 茨の茂みの上空に、新手の戦司祭が飛び上がりました。おそらく飛翔の呪文でしょうか。そのまま中空からバッシュを指差し、
『バーッシュ。ミハ様の寵愛受けし果報者。我が精神の下僕となれ』
「バッシュ!しっかりしろ!!お前の後ろには俺が立ってるんだからな!お前が《支配》されっと確実に死ぬ!俺が!!」
「おう!」

「委細承知」
 サンダースが火槍を3本、即行形成し、瞬く間に戦司祭を撃墜します。そして、正面に残ったホブゴブリンに一刀。
「二つ」
 一歩引いて、右後ろに回りこんでいたホブゴブリンに一太刀。
「三つ……そして四つと」
 返す刀で左後ろのホブゴブリンを仕留めました。

「きゃらの!擬似大旋風!ダスク超つえー!!!!」

 クロエが大喜びしながらコンボイの鞍から飛び上がり、空中でちいさな蝙蝠に変化しました。そのままぱたぱたと、廊下の天井、状況を見渡せる位置にぶら下がります。
「コンボイはお座り!アルウェン!ばばあが来るよ!ばばあが来るよ!」

 私は、新調した剣を構え、目の前の壁と左手の廊下とを警戒します。すぐさま、目の前にエーテル化したナイトハグとホブゴブリンが壁をすり抜けて現れ、私の姿を見るや実体化をはじめました。

「そこ!」
 実体化したハグの隙を突いたつもりでしたが、しかし私の剣は廊下の角越しに振り回せるほど卓越してはおらず……ハグはひらりと身をかわしました。そこへ、やはり実体化をすませたホブゴブリンからの一撃。剣士でない私には、二対一はちょっと荷が重いのです。辛うじてその一撃を小盾でしのいだ私は、一歩飛びずさりました。

「“つらぬくもの”」

 口訣を唱えれば、剣はたちまちに弓へ。抜く手も見せず撃ち出した3射は、正面のホブゴブリンの命脈を一瞬で断ちました。これぞエルフの魔術武器の粋、今回の私の奥の手、ソードボウです。

「やっぱり弓のほうが性に合いますねー」
「こんだけ近くて外したらそれはそれでアルウェン萌え!しかしソードボウぐっじょぶ!正直ヘンテコうぇぽんだと思ってた!」

「そして一歩引いたその場所がいい」
 ジョンが肯くのと、バッシュが壁を蹴って身を翻し、ハグの背後を取るのと。そしてサンダースが私の立っていた位置へと歩を進め、ハグを挟撃する位置を占めるのとが、次の一瞬で。その次の一瞬で、ハグの邪悪な魂魄は灰色の荒野ハデスへと送り返されておりました。

* * *
「ひのふのみーの……ひとり足りないな」
 ジョンが死体の数を数えます。
「うむ、エーテル化したのが一人見当たらない。おそらく奥に逃げたのだろう」
「やっかい!とりあえず態勢ととのえられる前にぶっころ☆」

 そこで、元の正面廊下に戻り、次の扉を開けてみることにしました。

「これでこの扉の先も5フィート幅だったらこの正面通路(10フィート幅)を奥にいっちゃおうぜ」
「きゃらの!ジョン分かってる!クロエはもう狭いの飽き飽きした!!」

 神殿に入って10分経ってませんけど。ぐいぐいとストレッチするコンボイを見ると、まあ分からなくもないかな、と心中の意見を訂正しました。『ハーフリングの盗賊団の、天井狭い根城に侵入した自分の不自由さ』を想像すれば、コンボイの気分も多少は理解できるというものです。

「音はしない」
 バッシュが言いました。
「開けるぞ」

 無造作に開けられた扉から、黒い疾風が二つ飛び出して……おそろしい速度の無数の剣戟を、バッシュの身体に浴びせかけました。全身から血を噴いて崩れ落ちるバッシュ。扉の奥でニヤニヤと笑う、先ほど逃げ延びた戦司祭……

「黒装束、またニンジャか!!」
「バ、バッシュー!!!!」

 ……バッシュの血は、どんどん流れ出ていきます。
* * *

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