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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』57・52日目夕方 デノヴァー~ブリンドル

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「呪文時間延長の杖を2本、『飛行薬』と『透明薬』が適量、《加速ヘイスト》と《転移テレポート》、《透 明 化インヴィジビリティ》の巻物をいくつか、宝石をダイアモンドと交換して1000gp相当ずつ小分けに数袋。頼まれたのはこのくらいでしたっけ?」

「小物はこの程度かと」

 1000gpのダイアモンドは《生命還元リヴィヴィファイ》の構成要素です。以前入手したダイアモンドはかなり大振りで、それだけで5000gpはするという鑑定結果だったので、《生命還元リヴィヴィファイ》用のダイヤは別途にいくつか用意しよう、という話になったのでした。

 ところで。

「呪文時間延長の杖はもう私もクロエも1つずつ持ってますけど、それでもまだ必要なものですか?」

 呪文時間延長の杖は正式には“小呪文持続時間延長の笏レッサー・エクステンド・メタマジック・ロッド”と言い、比較的低位の呪文の持続時間を延長するものなのです。私の使う呪文では、《樹皮の肌バークスキン》や《信 念 共 有マス・コンヴィクション》の位階レベルに相当します。

「……あんまり長時間にはならないと思うんですけど」

 私の《樹皮の肌バークスキン》で2時間、これを延長して4時間。これは目標が一人と言う呪文だからこその長時間呪文です。逆に、味方全体に作用する、という呪文は強力ですが、その場合はたいてい、その効果は数分あるかないかなので、延長する甲斐はあまり――殆どありません。

「先ほど武神流の修道僧モンクに確認してきたのですが。修道僧の拳も蹴りも、所謂『武器』という概念に含まれるそうなのですよ、司祭」

 へぇ、知りませんでした。

「彼らの理念によれば、鍛えた拳は凶器に等しいもの故に、剣を帯びる剣士のごとくに冷徹で誇り高くあらねばならない、のだとか」

 とある街に訪れた冒険者が、街の法律によって、魔剣も聖拳も等しく紙縒りで封印される喜劇、というのがあった気がします。『抜かば罪人、握らば咎人。秩序を守るか善に生きるか、鋼か心か拳か剣か』、とかそんな話でしたね。

「無手の酔漢に斬りつければ重罪、徒手の酔漢を殴り倒す修道僧も重罪、したがって鍛えた拳は『武器』である、と」

 なるほど。肯くものの、一向に話の先が見えない、という表情の私に、サンダースが不敵な笑顔を見せました。

「アルウェン司祭、コンボイが『修道僧の黒帯モンクス・ベルト』を身に着けているのをお忘れですか?」

 ……ああ、そういえば。最近彼が敵を(掻き毟らず)殴りつけてるのはそのせいでした。

「そして、ダスクブレードの低位呪文には《上 級 鍛 剣 呪 付グレーター・マジック・ウェポン》があるのです。持続時間、約半日」

 ……えー。呪文時間延長の杖の能力は“1日3つの呪文の効果時間を倍にする”でしたね。

「従って、呪文時間延長の杖2本でもって、自分の剣とバッシュの武器2つ、コンボイの二つの拳と噛みつきとを魔法強化することが可能なのです。証明終わり」

 ……一日中?

「一日中。ところで」

 なんでしょう。

「司祭の買ってきたそのバスケットは何ですか?なにやら中からはよい匂いもしますが」

 ふふ、秘密です。私ははにかんで、バスケットを体の後ろに回しました。そこへ、バッシュが戻ってきました。手にはなにやら大きくも無い包みを携えています。

「おお、バッシュ。どうだ、あったか?」
「いくつかあったんで悩んだが。これにしてみた。どうかな」
「ああ、いいな。いい色だ」

 バッシュはサンダースに近づいて、包みの一端を開き、彼に――彼にだけ、そっと見せました。二人で包みの中身をこそこそと検分しています。背まで向けて。ああだんだん遠ざかっていく。……一体、中身はなんですか?

「ああえっと」
「ふふふ司祭、それは秘密です」

* * *
「ようお帰り!デノヴァーはどうだった?」
『おみやげ!おみやげほしい!!』

 私たちは、打ち合わせていた通りの買い物を『呑み足りないゾンビ亭』の奥の席で広げ、その仔細や配分について報告したり話し合ったりしました。亭の女給が、暖かな食事を――まあ殆ど酒のツマミですけど――かわるがわる持ってきてくれます。大体の打ち合わせが終わり、人心地ついたところで、サンダースが切り出しました。

「ところで司祭」

 はい?

「これを、あなたに。我々全員からの贈り物です」

 バッシュとサンダースが、さっきの小包をテーブルの上に置き、私のほうにそっと差し出しました。……えっと、これは?

「あー、その」
「まあ開けてください」

 私はそれを受け取り、膝の上で恐る恐る開いてみました。包みは軽く、猫を抱いたほどにも重くはありません。生成りの毛織の包みの下から現れたのは、艶やかな翡翠色の……明るいところは薄萌黄色の、暗がりには草色苔色にも明度を落とす、美しい天鵞絨のクロークでした。襟元には、擦れたような鈍い光を放つ、一角獣の意匠の銀の留め金がついています。

「これ……これはいったい?」

「きゃらの!『魅惑の外套クローク・オヴ・カリズマ』でアルウェンの魅力うp!!クロエは『魅惑のビスチェビスチェ・オヴ・カリズマ』かせめて『魅惑の胴衣ヴェストメント・オヴ・カリズマ』でおっぱいうpを主張したけど、流石のデノヴァーでも売ってなかったみたいだな!」
「高い魅力は自信あふれる態度につながり、聖職者に必要ないくつかの能力を向上させると聞きます。この贈り物は我々の総意です。さあ、受け取ってください司祭」

 あ……の。お礼を言いたいのになんだか言葉が出ません。ええっと。着てみても、いいですか?
 全員、なんだか笑っている気がします。ていうかクロエはにやにやを隠そうともしません。もう……と言いながら、私の頬も正直緩んでおりました。えへへ。

「……どうですか?」

「きゃらの!すごいぞアルウェン、まるで魅力17くらいだ!!」
「うん、退散回数1回ぶんくらい違うね」
「ああ、だな」
「もっと他の褒め方はないんですか?――でも、ありがとう。大事にします」

「そうそう、もうひとつ!贈り物ってよりはお願いなんだけどさ!」  ジョン=ディーが自分の巻物筒から、ペイロアの封蝋がされた羊皮紙の巻物を取り出しました。

「これこれ、《英雄の饗宴ヒーローズ・フィースト》!これを明日の朝は使ってくれないかなあ、アルウェン」
「勇者定食キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!純白の《英雄の饗宴ヒーローズ・フィースト》にプール付きの《魔術師モルデンカイネンの豪邸モルデンカイネンズ・マンション》、最高の女とベッドでドン・ペリニヨン!!全部そろえると超褒められる成功者生活の始まりと言う英雄人生の第一歩、勇・者・定・食!!」

「あ、え、なに?どゆこと?」
「うむバッシュ、《英雄の饗宴ヒーローズ・フィースト》は神が英雄に遣わす、現世における英雄界の酒餐なのだ。御使いが給仕を勤めるというこの宴会に列席したものはその日の間、恐怖に怯えることの無い強い心と、毒に侵される事のない丈夫な肉体を手に入れると言われている」
「ゲーッ、知っていたのかサンダース」

「あはは、いいですよ。じゃあ明日は早起きしてくださいね。《饗宴》は1時間たっぷり食べて飲まなきゃいけないんですから」

 私は笑いながら、今日デノヴァーで買ってきた、明日の朝、自分で準備するつもりだった《英雄の饗宴ヒーローズ・フィースト》のためのアローナへの捧げ物――焼きたてのパンとレスティリアワインと、すこし季節には早いけれど、よく熟したザクロの実が入ったバスケット――を、クロークの影でちょっとだけ、ちょっとだけベンチの下に押しやりました。

 ……これはあとで兵隊さんたちに振舞いましょう。

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