« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』53・49日~51日目午後 ブリンドル~竜煙山脈 | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』55・52日目朝 邪竜の神殿まで »

【D&D】『赤い手は滅びのしるし』54・51日目夜 竜煙山脈

* * *
 日が暮れる頃、野営地を定めると、バッシュが《レイ・オヴ・ザ・ランド》で道行を占いました。

「ざっと50マイルは先だな」
「半日……明日の夕暮れに到着か」
「なあ、途中でたくさん遭遇するだろうから、敵さんの場所だけ確認したらいっぺん帰らねえ?」
「ジョン=ディーの《転移テレポート 》では全員は運べまい。往復するのか?」
「じゃあ、半分は《風 乗 りウィンド・ウォーク 》で飛んで帰りましょう。雲に変身するので攻撃も受けませんし、ここからだと……2時間でブリンドルに戻れます」
「きゃらの!《背に風受けてウィンド・アット・バック》で速度2倍!」
「1時間か。よし、それで行くか」
「明日の夜はブリンドルでゆっくりできるワケだ……ありがたいなあ」

* * *

* * *
「胸甲、直してないんですね」

 食事時、ふと気がついて私はサンダースにそう尋ねました。火球魔法の首飾りで焼かれた、彼のブレストプレートは、左脇の留め金がありません。良く見れば表面は、高熱であぶられた金属特有の変色を見せています。

「ああ、磨いて叩いてマシにはしたが、修理する暇はなくてな」

 これだけの品ならきちんとした鍛冶屋に預けたい。ハンマーフィストのドワーフに名工はいないかね?とサンダースは笑いました。
 私は、ぜひともきちんと手を入れて、名実ともにあなたの鎧にするのがいいですよ、と答えました。クロエが、いつもの口調で、胸を持ち上げる赤い手を描き直すべきだとかなんだとか言いましたが、アルワイから奪ったものとは言え、そこに固執するのは……ねえ?

「まあ、戦が終わったらゆっくり修理させてもらうさ」
「きゃらの!サンダースが死にフラグを!!」

* * *
 深夜。見張りを交代し、サンダースとバッシュの気息を整え、私たち3人は<エルフの瞑想>へと没入しました。正直、エルフでないものにこの瞑想法が使えるようになろうとは思ってもいませんでした……ほんの2ヶ月前までは。
 この瞑想へ入るまでは、やはり導師としてのエルフは必要なのですが、
「8時間の睡眠が、4時間の瞑想と4時間の休息に置き換わるのは大きいって」
という、ジョンとサンダースの後押しがあって、パーティのみんなで訓練してきた結果なのでした。

 『バッシュの高速歩法への同調』――つまり、アローナ急行の名の由来、一時間5マイルの高速移動法――と同様に使いこなせるまでは、もうしばらくの訓練が必要でしょうけれど……わりあい雑念たっぷりに、それでも私は、いつものように三昧へと導かれてゆきました。

* * *
「《マス・レジスト・エナジー・アシッド》!!」

 だれかが呪文をかけています。

「コンボイ!来い!!」

 その声で、私の瞑想は破られました。焚き火の明かりに浮かぶコンボイの影。背の鞍には、もうクロエが飛び乗っています。振り返れば、
 目の前に、2体のブラックスポーン・レイダーが、その竜の口から酸を滴らせて、曲刀を振りあげています。私の身体には、魔法障壁の淡い光が。周囲には、私たちの身体に直撃できなかった酸が飛び散り、草や土を焼き焦がしていました。

――え?

 状況を了解するのに半瞬。
 もう一体のブラックスポーン・レイダーが、荷物に身を預けて安らぐサンダースの脇腹に、破れた鎧の隙間に深々と曲刀を突き立てたのは、その、まさに半瞬の出来事でした。

 こ、という絶息とともに、サンダースの口からどす黒い吐血が大量に溢れます。刀を引き抜いたレイダーは、戦士の命を奪った喜びに打ち震え、鍔先まで血で染まった曲刀を高々と天へと突き上げました。

「サ、サンダースっ!!!」
 ジョンが叫ぶのが聞こえます。深手、いや致命傷でしょう。脇腹からはとめどなく血が――

――《ディレイ・デス》。死を先延ばしにする呪文。
 私の脳裏に、最悪の事態のために用意された呪文の名前が過ぎります。あれならばここからでも

『アルウェン司祭。即行呪文や割り込み呪文はたしかに便利で強力ですが、ひとつだけ弱点があるんですよ』
 いつか彼の言っていた言葉が蘇りました。
『どんな呪文でも、自発行動するより先には飛ばせない、使えない。
 戦場での主導権イニシアチヴ はそれだけ重要ということです』

「《ファントム・バトル》!!」
「あんちゃんに触るなーっ!!」
 ジョンが幻の兵団を召喚し、クロエがコンボイでサンダースの死体を守りに立ちはだかります。レイダーたちは幻影兵団に囲まれながらも、その場でコンボイを迎え撃つべく身構え、

 そうだ、まだ寸毫も経っていない。もうひとつだけ方法が。今迷えば全てを失う!
「戦神コアロン・ラレシアン!!勇敢なる戦士サンダースの御霊を御許に導かん――」
 私は駆け寄りながら、弔いの詩を紡ぎました。右手には聖印、左手には――
「――だが今ではない!今ではない!死の運命訪れるその日まで、我捧ぐ金剛石持て約束の座を飾らしめよ――」
 呪文構成要素、千金の金剛石。
「《リヴィヴィファイ》!!」

 身を低く、敵の白刃に神経を配りつつ、高位の呪文を唱え――しくじれば、呪文も命も失うという、こんな困難な状況で呪文を唱えたのは、ほんとうに初めてのことだったと――

 サンダースの口元で、くふ、とちいさく血を吐き出す音がしました。死の直後に唱えれば命を蘇らせる、《生命還元》の呪文が間に合ったのです。おおアローナ、千の感謝を!

「バッシュ、あんちゃんを!」
「《トランスポジション》!」
 目の前のサンダースが、ジョンと入れ替わります。後方で、バッシュが治癒の小杖でサンダースの意識を取り戻させます。

「ふるぼっこーっ!!!」
 正面のレイダーはクロエとコンボイが引き受けてくれました。ジョンが親指を立てて褒めてくれます。私は、ジョンにひとつ肯くと、奴らに向き直り、もうひとつの呪文を投射しました。

 すう、と息を整えて、左指を差し伸べ、

「――《ウォール・オヴ・ソーンズ》!!」

* * *
「ありのまま、今起こったことを話すぜ……『俺はコアロン・ラレシアンの前で階段を登っていたと思ったらいつの間にか降りていた』!なにを言ってるのかわからねーと思うがっ」
「うむクロエ、大体そんな感じだった」

 目を覚ましたら死んでいたのは初めてだ、とサンダースは笑いました。

「いやあ、ヤバかったな」

 バッシュが頭を掻きました。正直、一番最初に死線を見るのは俺だと思ってた、ですって?死ぬことを前提で話すなんて……ほんとに、もう。

「そんでさー」

 ジョンがホクホクしながら金貨を小袋に仕分けています。

「すげえぞ、こいつら!ざっと3000gp近くは持ってる!!」
「きゃらの!ばっちり黒字!」

 そこへ、もう3体のレイダーが現れて、

「《エンタングル》」

 呪文で足止めをされました。先ほどの《マス・レジスト・エナジー・アシッド》がまだ効果を保っていますので、彼らには一切打つ手がありません。

「おおおーー、鴨が葱背負って」
「ちょっとバラシてくるー」
「あんまり苦しませないであげてくださいねー」

* * *

 今晩の収穫、〆て4000gp。その後、私たちは朝までゆっくりと休みました。

* * *

|

« 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』53・49日~51日目午後 ブリンドル~竜煙山脈 | Main | 【D&D】『赤い手は滅びのしるし』55・52日目朝 邪竜の神殿まで »

Comments

The comments to this entry are closed.