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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』52・49日 神殿前・決戦

* * *
「御注進、御注進ーー!!!」

 伝令の一人である、黄金獅子騎士が西の大路を馬で駆け上がってきました。

「た、大変です!敵の総大将ハーンが!赤い手の軍勢の先頭に立って進軍して来ました!!茨の壁は焼き破られそうです!」

「なぜだ?!守備兵はなにをしている!」

 ジャルマース卿が怒鳴りました。

「は、はっ!それがその、奴は『“アローナ急行”を名乗るネズミ共を出せ!奴ら以外に用はない!』と吼え、配下のホブゴブリンたちも盾を高く構えて投石や攻撃を控えておりますもので」

「竜が通ったせいで、あの一帯に残ってたのは勇敢な弓兵十数人だけだったはずだぜ」

 ジョンがぼそりと言いました。本格的に進軍をしてきたなら、百人単位の軍が侵攻しているはずです。反撃しろとは酷な話でしょう。

「アルウェン司祭、茨はどのくらい持ちますかね」
「……魔法の火を掛けられたなら、持って10分です」

「ア、アローナ急行の諸君!?ど、どうする!?」
「卿……」

 ジャルマース卿は目を白黒させています。トレドラは健気にも彼の脇に立ち、その手に自分の手を重ねています。……ああ、彼は彼で、この防衛戦の準備のために、この1週間ほとんど寝ていないはず。彼の疲労を、治癒呪文で取り去るところを、私たちは何度か目にしていました。そこへさっきの魅了呪文。呪払されたとは言え、卿の心労は限界に近いのではないでしょうか。

「……どうもこうも」

 バッシュが吐き捨てました。

「『さっさと広場まで上がって来い』と言ってやれ!『我らアローナ急行以外に手を出そうものなら、谷じゅうのゴブリンは全てぶち殺してやる』とな!」

 『――』の中身はゴブリン語でしょう、私にはよく分かりませんでしたが、聞かされた伝令が青ざめたくらいですから、よほど酷いことを言ったに違いありません。

「は、はっ!!」

 獅子騎士は、馬首をめぐらせ、元来た道を駆け下っていきました。

「さあ、仕上げっぽいぜ」
「うむ」

 さっき打ち捨てた自分たちの剣を取り戻し、マントの裾で拭うと、バッシュとサンダースは肯きあいました。……殿方同士のああいう意思疎通は、とても不思議に思えます。何を語るでもなく、何を確かめるでもなく、ただ肯いて、そして過たない。100年生きても、戦士の魂は私にとって謎めいた存在であり続けるようです。

「……さ、さあ!奴らがここに来るまで5分あります。今の戦いの怪我の治療と」
「きゃらの!《バークスキン》で万全の準備だっ!!」

「さあさあ皆の衆、さがったさがった!もうすぐ敵の大将が来るぞ、業を煮やしてな!連中と俺たちの一騎打ちだ、巻き込まれたくなかったら下がった下がった!!」

 ジョンの口上に、広場の周囲にいた守備兵と居残りを決めていた市民たちとが、どよめきました。

* * *
『“アローナ急行”とか言う、谷じゅうをちょろちょろしていたネズミどもをここに引きずり出せ!
 竜魔将ハーン様が直々に相手をしてくれん!!』

 竜魔将の親衛隊は、巨人が1、さっきの青い電気オオトカゲ――ブルースポーン・サンダーリザードが2、バグベアの戦士とオーガが1、ソーサラーと思しきホブゴブリンが2、そして軽装の徒手が1、巨大な戦嘴と盾を携えた大柄なホブゴブリンが1。その大柄なホブゴブリンの肩には、赤い竜の爪を模した肩当がかかり、その鎧はおそらく竜鱗でしょう、燃える様な赤いスケイルメイルです。

 ついに私たちはこの大軍の将、ハーンを矢面に引きずり出したのでした。

「『俺たちに用か、うすのろで無能のハーン坊や!お前たちにこの二ヶ月、ちょいと嫌がらせをして回ったが気に入ってもらえたようでなによりだ!ハ!お前がさんざ苦労させられた相手は、ここにいるたった5人だよ!ああ、そうとも、

 俺たちが“アローナ急行”だ!!』」

 バッシュの挑発で、浅黒いハーンの顔が怒りに染まり、

『殺せ!!』

 ブリンドル攻防戦、最後の戦いが始まりました。

* * *
「《トゥルー・ストライク》」

 サンダースが必中の呪文を我が剣に準備すれば、

「《ババウ・スライム》!!うぇっとあんどめっしぃいいいい!むしろBUKKAKE!さああ、かもん赤い手っ!!」

 クロエとコンボイは全身を酸い匂いの粘液でぬるぬるにして、両手を広げて迎撃準備を完成させます。

「うっひー、クロエなにそれ何その呪文!!」

 ジョンも流石に引いてます。《ヘイスト》、《フライ》ともに投射したあとは、ジョンの仕事は戦場を見渡し、戦場を掌握する司令塔に変わるのです。味方の能力はつねに承知する必要があるのでした。

「ぬるぬるぬるぬるする呪文!触ると焼けどする!」
「わかった!えーつまりそれはBUKKAKEじゃない!」
「きゃらの!」

 息をひとつ吐いて、垂直に15フィート上昇すれば、クロエの背も飛び越えて、戦場が斜めに見下ろせます。私は矢を番え、すばやく引き絞りました。狙いはハーン、只一人!

 ……。しかし、私の射た矢は、どうした拍子か、あらぬ方向へ飛んでいきました。

「……アルウェン!いつもどおりにお空目掛けて鏑矢撃った?!撃った?!」
「うむ、初弾を明後日の方向に打ち出すアレを見ると心が落ち着く」
「戦闘開始の合図って気がするよなー」

 ……うう。神弓ジェネヴィアー、私は弓の才能がないんでしょうか……

* * *
「まずお前からだ!」

 サンダースが前線の巨人に踊りかかりました。巨人が反射的に棍棒を薙ぎ払い、頭を下げたサンダースの髪を数本引きちぎります。

「ぬるい!《ヴァンピリック・タッチ》!!」

 肉薄したサンダースの剣が血の色のオーラを帯びて、巨人の肉体よりもむしろ精髄を切り裂き、生命力を奪います!足を止めてサンダースに殴りかかる巨人!しかし、近すぎるのか体力を奪われたためか、わずか一撃もサンダースに当てることができません!

「! 気をつけろ、ハーンが消えたぜ!」

 《ファントム・バトル》で巨人とバグベアを混乱させたジョンが叫びました。透明化とは厄介な。こうなれば、一刻も早く相手の戦力を削る必要があります。

「お願いっ……」

 神に念じて私が繰り出した矢は、過たず4発が4発とも、サンダースの目の前の巨人に深々と突き刺さりました。しかし、まだ倒れる様子はありません!

「いや司祭、十分すぎるほどだ!」

 サンダースは、刀身の根元にある錬金術カプセルを左手で砕き、剣を炎で包みました!  白刃一閃!巨人の喉が焼き裂かれます!

「まだまだ!」

 巨人がどうと地に倒れる音と、サンダースが一歩踏み込み、その先のバグベアに切りつける斬撃の音とが重なりました。

「ひとつ!」
「ふたつ!――きゃらの!アルウェンの弓がいっぱい当たった!すげー!」

 左翼に展開した青オオトカゲを、バッシュとともにひねり潰したクロエが戦場中央を見て叫びました。

「クロエ!」

 バッシュが叫ぶのと、敵陣後方のソーサラーたちが光弾を撃ち込むのとが同時だったように思います。

「あばばばっ!こ、こんにゃろー!!」

 クロエが光弾をしのぎ、コンボイを手近なバグベアへとけしかけるのが見えました。

 ――わたしの目の前に、不意に、徒手空拳のホブゴブリンが、拳を振り上げて、

* * *
「きゃらの!モンクだ!アルウェン逃げろ!!」

 ハーン同様、透明化し、かつ飛翔したモンク・ホブゴブリンが、いつのまにか私の目の前に、

――避けられない。

 わずかに捻った体躯の角度が、しかし、私の命を救いました。
 猛烈な衝撃が、チェインシャツをも打ち抜いて、私の左胸を叩きます!!

「かふっ」

 反射的に、私は剣を引き抜いて、目の前の敵に切りつけました。が、左の肺からは空気が全部押し出されたかのように引きつり痛み、剣筋はまっすぐに伸びません。

『?!ナゼ動ケル!?』

 私の拙い反撃に、しかし相手は驚いたようでした。

「きゃらの!!アルウェンのおっぱいがモンクの朦朧化打撃を受け止めた!すごいぞ、ラピュタはほんとうにあったんだ!!」

「だ、だれの胸が未確認物体ですか!失礼な!」

『バカガァ!モウ一撃食ラワセテヤルッ!!』

 振りかぶったモンクの脇腹から、黒い剣が生えました。

「……『喰らわせた、なら言っていい。食らわす前にグダグダ言う奴ぁ、チンピラだ』」

 モンクの背後から急所を刺し貫いたバッシュが、ぞっとするような声音で、モンクの耳に何事かをささやいています。またなにか恐ろしげなことを言っているのに違いありません。

『ア……、エ……?』

 モンクは、自分の腹から生えたのがなんだか分かっていない様子です。

――バッシュのスパイクドバックラーが、右から左へと打ち出され、モンクの体が二つに折れました。

「大丈夫ですか、アルウェン」
「あ、ありがとうバッシュ!助かりました!」

* * *
『ケアア!』
『ゴア!ゴア!』
『死ね!魔法剣士!』

 オーガ、バグベア、そしてハーン。全員が一気にサンダースへ殺到しましたが、その全てを彼は体のわずかな動きだけでかわしました。そのまま、すいと空中へ飛び上がると、
 ……正直、何回斬りつけたのかは見えませんでした。ただ、あとで聞いたところでは、
『ああ、前もって透明看破の術を用意していただけだ。ハーンが襲い掛かって来るのは見えていたからな』
 ということで、結局、何回斬ったかは教えてくれませんでした。そこで止めをさせなかった以上、何回斬りつけたとしても自慢にはならない、と言うことなのでしょう。多分。

 高速の斬撃で、たまらずよろめいたハーンの後ろに、立ち塞がる黒い巨体。

……コンボイは、背後から敵に襲い掛かる際、決して声を上げません。それはクロエの訓練の賜物であり、また、彼が動物として、恐るべき戦闘技術を持つことの証でもあります。
 そして、ハーンもまた、絶命に際して、悲鳴を上げることはありませんでした。

* * *
「竜魔将ハーン、討ち取ったりー!!!!!」
 クロエの勝ち鬨と、コンボイの雄叫びが辺りに響きます。

 遠巻きにしていたホブゴブリンたちは、目の前の出来事を信じられないかのように立ち尽くしています。しかしそれはほんの一瞬のことで、

『アアあ、アアアアアアッ?!?!?!』
『ハーン様ガ!ハーン様ガヤラレタ!!』
『ダメダ!勝テッコネェ!!』

 広場まで来ていたホブゴブリンたちは、手にしていた槍も盾も投げ捨てて逃げ出しました。

「よっしゃー!みんな!やったぜー!!」
「皆のもの、勝ち鬨をあげろ!!」

――ハーン死す、の報は瞬く間に戦場を走りました。あれほど士気旺盛だった赤い手の軍勢は、潮が引くように城壁から撤退をはじめました。アルヴァース隊長の見込みでは、統率者がいないことから、近日中に部族単位に分裂し、近くの山や森に逃げ込むことになるだろう、とのことでした。
 彼らをさらに人里から遠くへと追い払うのは一苦労かもしれません。ですが、それはあくまでホブゴブリンの群れ。赤い手の軍勢でなくなった以上、文明を脅かすほどの脅威とはなりえないはずです。

 私は、胸を撫で下ろしました。ブリンドルの危機は、去ったのです。

* * *
「果たして、本当に終わりだと思っているのかい?おめでたいねえ」
 ミハが、枷をはめられたまま毒突きました。

「あたしらは十分に仕事をしたのさ。十分にね」
――その意味が分かったのは、攻防戦終了後、ほんのすこし経ってからのことだったのです……。

* * *

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