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【D&D】04:先々代の使えない墓所(中編)

* * *
「その奥の部屋に入ったとたん、先頭にいた仲間が倒れた。助けに入ったやつも倒れた。俺は恐ろしくなって逃げ出したんだ……」


 傷心の冒険者が語る生々しい全滅行に、なんと言葉をかけたものでしょう。

「……随分参考になった。ありがとう」


 バッシュが、酒に逃避する彼の背を叩き、こちらの席へと戻ってきました。ここは『ステュクスの漕ぎ手』亭。屋根にガレー船を載せている、という、実に酔狂な店です。

「まあ大体聞こえたと思うが」


 《知覚結合(リンクト・パーセプション)》万歳、ですね。クロエが海老のフリッターを独り占めしながら、自慢げに親指を立てて返します。

「……どう思う?」

「毒」
「……凝視?」
「即死能力」


「どれもイヤな感じですね」
「うむ、どれもありうると思う。まあ気をつけようもないんだが」
「じゃ、今日はこれで解散とするか!よしバッシュ、いいとこ連れてってやるからちょっと付き合え!!」

「?」
『あしたかくじつに《ひーろーず・ふぃーすと》でるから、どんなびょうきもこわくないんだってー』
「……ああ、そういう意味の……」
「さすが大都会、ちょっとすげえぞ!まあ社会勉強だと思ってだな」


 あー、歓楽街に遊びに行くつもりですねジョン。

「魅力を磨く訓練の場だと割り切ってだなあ!」
「う、えっと、あのう」

 ……バッシュ、そこでこっちを見られても困るのですが。


* * *

* * *
 翌日。

「そこそこ狭い?」
「いや、普通の通路だと思うよ」


 幅5フィート、高さ10フィートの通路は……そうですよね、墓所としては普通の広さだと思います。


 呪文の準備、朝の儀式、英雄の朝食。全て済ませて、私たちは先々代リンチ氏の使わなかった墓所に足を踏み入れました。

「コンボイをちいさくしといてよかったよー」


 《動物縮小(リデュース・アニマル)》で大柄な戦士ほどの大きさになったコンボイが、歯をむき出しにしたりきょろきょろと周りをうかがったりしながらクロエの後ろをついて行きます。いつものように腕も歩行の助けとして前かがみになっているので、子牛か大型の犬くらいの体高に見えます。つまり、目の高さがクロエと同じくらい。


「しらみつぶしでいこう」

* * *
 途中の戦果を書きましょう。ワイトが数体。その後、シャドウも数体。非実体の敵に壁越しの戦いを挑まれるのは実にやっかいでしたが、


「建物とか石壁とか超不自然!いまこそドルイドの呪いをここに!!!!《石を泥に(ストーン・トゥ・マッド)》、コマンドワードは“アネハっ”!!!!」


 クロエの呪いが、シャドウにのみ有利だった遮蔽、墓所の石壁を只の泥濘へと置き換えてしまい、これも難なく退治。


「“アネハ”ってなんですか?」
「むかしそんな建築家がいたんだって!作る建物作る建物みーんな」
「しっ」


 バッシュが私たちを制しました。

「……多分この奥が玄室、だと思う」
「では祈りを。!!《生命の恩寵(ライフズ・グレイス)》よ、死者の呪いから我らの戦士をお守りください――」


 同じ呪文をサンダースにも。

「うむ」

「化身!」
 蝙蝠へと姿を変え、二人の援護のために天井近くへと舞い上がるクロエ。
 剣を握り締め、隠し扉を開き――最奥と思われる玄室へ侵入するバッシュ。
 部屋は通路に対して横に広がり……バッシュの視線は、部屋の左側に留まりました。


「……ミイラ?」
「うむ、ミイラだ。ただし巨人サイズだな」

「ちょ!先々代!!なんだその墓所守護者!!」
「来るぞ!!」


 死者とも思えない速度で、部屋の左奥手から現れたのは。

 ……人間より二回りは大きい、巨人のミイラ、でした。全身を古びた包帯に覆われ、乾燥と防腐のために使われたのであろう濃い没薬とリコリス、コリアンダー他さまざまの香草の……死んだ臭いが、静謐な墓所の空気をかき回し、通路にいる私たちの鼻にも届きます。

 墓所の護衛にふさわしく、簡素な鎧と無手の拳で、聖地を血で汚すことなく墓荒らしを討つのでしょう。なにより、その、全身から溢れる禍々しいオーラ。生命に対する渇望と、己が身に施された、誤った復活処置に対する圧倒的絶望感。


 ……ああ、あれじゃ確かに復活は無理ですもんねえ……


 ある種の諦念といいますか、憐憫といいますか。おそらくは金で買われてきたのであろう哀れな死体に、私は一種の同情を感じていました。


 なぜならば。

 猛るミイラの絶望のオーラ――先だって挑んだ冒険者たちを尽く麻痺せしめた――は、しかし、《生命の恩寵(ライフズ・グレイス)》に守られた私たちの戦士には全く無効だから、なのです。


「敵はこいつだけだ!」
「うむ!」

 ぼて。

「?」


 ミイラを挟撃し果敢に戦う、室内のバッシュとサンダースの手前。
 廊下の天井辺りにいたクロエが、気がつけば廊下の片隅に落ちて、ぴくぴくと麻痺していました。き、き、と、なにやら言いたげですが、麻痺した喉は彼女の声をまったく現しません。


『……“くや……でも……ちゃう”……と……言っている』


 クロエの指示を受けられなくなったコンボイが、心配げにクロエを覗き込んで、その口の動きを翻訳してくれます。


『すーがほんやくする!“くやしい!でも、まひしちゃう!!!びくんびくん!!”』


「麻痺して身体の自由を奪われた美少女ドルイド、なら話のネタにもなるんだがなあ」


 ぴくぴくと震える小さな蝙蝠を横目に、ジョンが冷たいことを言ってます。部屋の中では、己のかもす絶望のオーラだけに頼っていた巨人のミイラを、元通り『只の死体』にするべく、バッシュとサンダースの容赦ない剣風が吹き荒れていました。


* * *
「……で?」

 しかし。目的の黒檀の箱は、その部屋にもなかったのでした。

「……あれえ?」
「ん」


 《隠し扉探知(ディテクト・シークレットドア)》の小杖(ワンド)を振ったジョンが、部屋の真ん中のタイルを数枚、おなじ小杖(ワンド)で指し示します。

「……下だ」
「開けられるか?」


 もちろん、バッシュがこの程度の敷石を動かせないはずもありません。床に現れたのは。

「深いな」
「深いね」

 井戸のような、大穴でした。

「うむ、とりあえず」


 サンダースが《踊る光(ダンシング・ライツ)》を生成し、竪穴へと飛び込ませます。数フィート進んだところで、明かりは、ふっと掻き消えてしまいました。


「……抗魔空間(アンチマジック)?」
「こりゃまたやっかいな」

「じゃあ、アヴォラルに偵察に出てもらいましょう」


 そこで、私が穴の中空へアヴォラルを召喚したのですが……

# # #

「……うむ、つまり。
 1.穴の深さは100フィートほどである
 2.穴の入り口近くには抗魔空間(アンチマジック)が張られている
 3.穴の出口には《眠りの印(シンボル・オヴ・スリープ)》が張られている」


 穴の奥、100フィートほど下の床に横たわり、ぐうぐうと眠るアヴォラル。1分少々で、アヴォラルは元の次元界へと還って行きました。もちろん、眠ったまま。


「……じゃああれだ、今日は帰るか。呪文も結構つかったしな」
「そうだね、急がないんだし」
「今日のアヴォラルは仕事しなかったなあ」
「いやいや、罠のありかを確認できただけで大収穫だ」


 ああ、せっかくの高位召喚呪文でしたが……炭鉱のカナリアみたいな使われ方でしたね、アヴォラル。

* * *

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