« 【D&D】02:スティリッチ侯国にて(リンチ商会の魔法倉庫:後編) | Main | 【D&D】04:先々代の使えない墓所(中編) »

【D&D】03:先々代の使えない墓所(前編)

* * *
「いやはや、ほんとうにありがとうございました。こちらはお約束の7,000gpです」


 ずしずしずし、と積み上げられる金貨袋の山。全部で7袋。

「ひとつ2ポンド、白金貨で700枚。どうぞご確認ください」
「……たしかに」


「心持ち金貨の袋より小さいですね」
「その分、重いよ?」

 ひーふーみー、と一袋を開けて数えるジョン=ディーとクロエ。じ、と中身を見てから重さを確かめ、よしと横に置くサンダース。
 ……じつはあれは重さを見ているのではなく、相手の目の動きを見ているのです。「信頼関係は大事ですが、相手が信用できるかどうかを見極めるのもまた大事なのですよ司祭。……誰も彼もが正直者ではありませんからね」と言ったのはいつのことでしたか。


「……しかし本物の商売上手には敵わんな。ヨハン殿、これで最悪の損は免れたわけでしょう」


 『治癒の杖』の割引代で私たちに仕事をさせつつ、どうにも手を焼いていた倉庫の魔物も退治できたわけですから、確かに商売人らしい解決策だった、と言えます。
 しかし、ヨハンさんはちょっとだけ口をゆがめて答えました。


「倉庫の中の失われた物品のこともありますのでね。万々歳とはまいりません」


 なるほど、それはそれで大変かも。


「ところで、みなさま。イスティヴァンでの宿はお決まりですか?何となれば私どもでひいきの宿をご紹介できますよ。クロエ殿のお連れ様がご一緒の方がよろしければあるいは邸宅を購入されてはいかがでしょう」


 いくつかの冊子を出して卓に広げながら、ヨハンさんが生き生きと不動産の説明を始めます。こちら南向き。これは市場極近。これなど警備詰所傍。じつに風光明媚。なんと間口税割安。たいへん治安良し。これは家具完備。もちろん井戸あり。ちょっと変わった立地の酒場二階。もちろんこちら除霊済み。

 次々と冊子を差し替えては、それら物件の美点をまくし立てます。

「……そんなすげえ家とかいらないまーん」

 クロエが呆れたように言いました。


「居宅を購入されるなら、家令とは申しませんがメイドくらいはご用意いたします」
「うむ、メイド」
「サンダースが食いついた?!」
「キャットフォークのネコミミメイドなどいかかでしょう」
「うわ高そう」
「ていうか仕事するのかそれ」


「俺の《転移(テレポート)》でヴラース砦に帰ればいいじゃん?」

「ジョン!ジョン!!飲酒運転はダメっ!!と言って帰りを別の術師に送ってもらうとするといっかい3000gpとか取られるかも!だって代行運転だから帰りのテレポもこっちもち!!」
「あー、そうすると飲んだくれられないなあ」


「……普通の家でいいだろ。出張所ってことでさ」
「ああ、なるほど。じゃあ入り口に妖怪ポストおかにゃかもだ」
「何語ですか」
「もちろんイスティヴァン市内での大型動物使役許可証も手配いたしました」


 治安の良い街の中では、ある種の動物、特に大きな動物の乗り入れは禁止されていることも多いのです。馬などは割合簡単に許可を取り付けられますが、それでも街によっては騎乗を禁じられたり、噛みつけぬよう馬銜(はみ)をかまされたりするのです。

 ましてコンボイ。市内に彼を連れ込む際のドタバタは、今思い出しても恥ずかしいほどの大騒ぎでした。


「うは!これで門柱に『猿』ってシール貼れるよ!!」
「喜んでいただけてなによりです……ところで」


 ヨハンさんが切り出しました。

「ところで……もうひとつお願いしてよろしいでしょうか」

 くるりと目だけで周りを見渡しますが、全員、顔に『その仕事、説明してもらおう』と書いてあります。


「……なんでしょう?お役に立てればいいのですが」

 とりあえず無難な返事をしてみました。

「実は……今度は『あるもの』を取ってきていただきたいのです」

 なんとなく歯切れの悪いヨハンさん。


「続けてください」
「ええとその……このくらいの大きさの黒檀の箱なのですが……あるところに収めたのですが……場所は後ほどお知らせします……取り出せなくなってしまいまして」

「中には何が?」

 1フィートほどの細長い箱。然程大きくもありませんが、小さい物でもありません。なんというか、中途半端?


「それもご勘弁ください……それで、その……こちらもやはり数組の冒険者に頼んだのですが……生きて帰ったものは一人だけと言う有様でして……」

 えええええー。

「うむ、奇妙な話だな。箱を隠した。取り出せなくなった。複数人にそれを取り出すよう依頼できるくらいには広い場所……さて」


 サンダースが楽しそうに顎を擦ります。

「広い場所ならまかしとき!!」

 クロエが鼻息荒く立ち上がりました。


「おお、そう仰っていただけると大変ありがたい。いや感謝します。その、場所といいますのは実は」

 ヨハンさんが真鍮の大きな鍵を机の上に並べて、言いました。鍵の握りにはウィー・ジャスの聖句。

「先々代が道楽で造りましたご自身の墓所、でして」

「墓ぁ?!」


 全員の顔に『狭いじゃん!!』と書いてありましたが気にせず続けるヨハンさん。

「さまざまな仕掛けと墓守とを配置して、さてとその箱を収めたところで問題が起きまして」
「察するに、その仕掛けと墓守とが手におえなくなったのだろう」
「ええ。それで結局、先々代は別の場所にご自身を葬られました」


「また使えない施設かよ!!いろいろ出てくるなお宅の店は!!」

「黒檀の箱……またはその中身は、かなり貴重なものなのですね?」
「墓を閉ざして塞ぐ気になれず、また諦めきれずに冒険者を差し向ける程度には貴重だとお考えください」
「壊れ物ですか?」
「そんなに繊細な品ではございません」

「『ヒューワードの便利な背負袋』に入れても大丈夫ですか?」
「……ええと」
 困ったように笑うヨハンさん。

「まあ、コンボイに運んでもらおう」
「うんいいよー」
『応』


「成功報酬として、ひとり400gpでいかがでしょう」
「こりゃまた地味な額だ」
「でもホブゴブ8,000匹相当だよ」
「うんまあそういう計算もありだが」


「黒檀の箱さえ取り戻していただければ、先々代が墓所へ用意された副葬品は全てお持ちいただいて結構です」

「むむむ?!それは得なの損なの?」


「うーん、正直申し上げまして私どもにもわからないのでございます。先々代はかなりの変わり者でしたので、さまざまな品を買い集めておられましたから」


「そっかー、くじ引きと言うか福袋というか!よーし運試しにいっちょ潜ってみよう!!」


 ということになりまして、私たちは翌日、その生き残りの冒険者の話を聞きに行ったのでした。


* * *

|

« 【D&D】02:スティリッチ侯国にて(リンチ商会の魔法倉庫:後編) | Main | 【D&D】04:先々代の使えない墓所(中編) »

Comments

The comments to this entry are closed.