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【D&D】02:スティリッチ侯国にて(リンチ商会の魔法倉庫:後編)

* * *

「では、よろしいですか?きっかり24時間後に扉を開きます。それまでは」


 ……ヨハンさんの目の隈の理由が、分かった気がします。


「絶対に、この扉を開くことはありません。たとえ、あなた方の助けを求める声があっても、です」


 実際に、あったのでしょう。そういうことが。扉の中も地獄、外で見捨てる側も、また地獄の苦しみを覚えたに違いありません。あとで《贖罪(アトーンメント)》の呪文が必要かどうか尋ねてみましょう。

* * *
 倉庫の扉は、二重構造でした。外扉を閉めると、内扉があり、これを開けると、


「きゃらの!内側にノブがない!!」

 そう、さながら金庫の内側、といった風情です。


「そもそも地下牢だったものを、魔法の品の倉庫に改造したのでしたね」
「中からは開けない、と」
「防犯対策かな」


 短い通路の先に、直径50フィート程度の円形のホールがありました。天井は高いものの、陽光棒の光が十分届く程度です。壁には大きな棚が作りつけられておりますが、中のものは乱雑に倒れまたは床に落ち、そしてその大半は棚の残骸とともに右手奥へ、嵐のあとの海岸に打ち上げられた流木のようにうずたかく積みあがっておりました。


「ぜんぶ魔法の品かなー。《魔力探知(ディテクト・マジック)》!……うわー、目がー、目がーっ」
「クロエは莫迦だなあ」


「……死体が見当たらないな」

 たしかに。以前にこの魔物退治に駆り出された冒険者たちの死体が、ありません。


 正面と右手に両開きの扉。左手が奥に続く広い通路。正面の扉は、腰高の辺りから下が砕けたように口を開け、暗闇がその奥に続いています。


「《知覚結合(リンクト・パーセプション)》!!」

 クロエが全員の感覚を魔法的に繋ぎました。たちまち広がる音の幅、擬似的な視界。


「クロエ、《魔力探知(ディテクト・マジック)》は切ってください。まぶしいです」
「うおまぶしっ」


「……正面か」

 きいきいという鳴き声、爪が石の床を掻く音。獣数匹分の気配がします。

「とりあえず様子を見るか」
「コンボイごー」
『応』


 正面の扉に近づいたとたん、その扉の穴から、見たこともないほど大きなネズミが二匹飛び出してきました。

「で、でけぇ!!!!!!」


 ……子牛くらいありそうです。しかし、その特徴はまさにネズミそのもの。

「ダイアラット、か。しかしでかいな」
「ちょわ」
『!』


 コンボイの拳が一閃。が、ですがしかし。

「避けたー!?」
「竜の足をも止めるコンボイの拳を、かわした?!こ、こいつは!!」


 ジョンが眉を吊り上げました。たしかに、只のネズミではなさそうです。が。

「もっとでたー!!」

 そのうしろからうしろから、出るわ出るわ巨大ネズミ。


「目ぇ覚めた!全力全開!《ギラローンズ・ブレッシング》!!!」

 コンボイとクロエの腕が4つに増え、その足元で立ちすくむ巨大ネズミ。すり抜けた最初の二匹は、しかし、後方のジョンやバッシュを襲うでもなく、瓦礫の隙間を抜けてホールの反対側へ。


「……怯えてる。……でも、なにに?」
「なにか、だろうな」

「では《朗唱(リサイテイション)》!!!」
「うわ、アルウェンそれもう手に入らない巻物だぞ」
「まだいくつもあります!それに、物惜しみできる気配じゃないですよ」


『堅い。3回殴って死なないのは変だ』
「押し切れコンボイ!」
『了解』

「こ、コンボイのラッシュで死なないダイアラット?!」
「それが多分もう数匹」
「では物理的に押し切りましょう!《正義の祝福(ブレッシング・オヴ・ザ・ライチャス)》!!」


 扉の奥のダイアラットは、コンボイの気配を察したか飛び出してはきません。

「こちらは任せてもらおう」

 ホール反対側へ逃げ込もうとするダイアラットを追うサンダースと、それに追随するバッシュ。


「ええと」

 ほんとうにタフなダイアラットですが、警戒するべきは多分病気か毒。それと……なんでしょう、この違和感。
 ――ホール中に散開して、個々にダイアラットを屠る仲間たち。私と同じように思案顔のジョン。


「コンボイ、扉開けろ!」
『了解』

 がき、と鍵の音。コンボイはそこに左手を二つ添えて、扉を枠ごと壁から引き剥がしました。

『開いた』


 右手の瓦礫へと扉だったものを投げ出すコンボイ。クロエの陽光棒の明かりの下で、遮蔽を失った巨大なダイアラットが二匹、肝を潰して部屋の奥へと逃げ戻るのが見えました。

「なんか奥も行き止まりー!こっちも倉庫でなにもいない!」

「え」


 その奥に通路があって、ネズミたちは"なにか"に追われて逃げてきたのではないのですか?

 と問おうとした瞬間。風が、地下牢の中で動かないはずの空気が、ざあ、と埃をまいて左手から。顔を上げれば、そこには、


 横幅10フィート、高さ15フィートの通路をみっしりと埋める死体の壁が、馬の駆けるような速度で突進してきます!!
「ネクロノート!!つまり死体(ネクロ)のジャガーノートか!!!!!」
「アルウェン!!!」


「《神速(セレリティ)》」

* * *
「ネズミはこいつの気配に恐慌状態だったんだ。逃げようとしていたが、逃げられる場所があったわけじゃなかったと、なるほど。では《力場の壁(ウォール・オヴ・フォース)》」


* * *
 その死体の壁の突進は、薄く輝く力場の壁に激突して、私の目の前で止まりました。ガラスに顔を押し付けられたかのように、フォースの壁を全力で押す『なにか』のせいで、『なにか』の全身を構成するあらゆる死体のさまざまな部位が醜くゆがみ平たくよじれます。


『うええ、きもちわるーい』
「うむ、前の連中はこいつに飲み込まれたのだな。死体がないわけだ」
「でっかーい!踏み潰されるぞ、アルウェン!逃げろ!」

 これだけ大きいと、このホールのどこに逃げても踏み潰されるように思われますが。


「ありがとう、ジョン」
『じょんはいまぴよぴよじょうたい。あとでつたえとく!』

 ここからはもう一手一瞬が失敗を許されない選択肢の連続、となりました。

「翼よ!」

 今回の購入品のひとつ、セレスチャル・アーマー。軽い造りの銀のチェインメイルは飛行の魔力を秘めており、口訣ひとつでわたしを空中へとすくい上げます。


「空中か!天井なら踏み潰されることはない、よし!」

 そして、《早抜き》したソードボウでコンボイの背後からダイアラットを射抜きました。

「やっぱりアルウェンは死に掛けにトドメさすのが上手!あとで食べる?」
「食べません!!」


「フォースの維持時間、1分切った!」
『じょん!こっちこっち!!!』
 ふらつきながら瓦礫の影へと避難するジョン。弓を出し、残ったネズミを始末するバッシュとサンダース。
「くるならこーい!《月光よ!我が太矢となれっ(ムーンボルト)》!!」
「《陽の光線(サンビーム)》よ来たれ、悪を討つ飛礫となれ!!」


 通路の左右で、不死者に対してより強い効力を発揮する、神聖光の呪文を準備するわたしとクロエ。わたしの頭上に光背のごとく現れたのは白熱する4つの小太陽。
 これこそ聖ブラッドベリの(もたら)したる『太陽の黄金の林檎』!!

「……なら『ここ』だ!!」


 敵の突入に備え、ホールの入り口側――こちらに駆け戻るバッシュ。コンボイ~サンダースと挟撃を取れる位置、へ。

「きゃらの!!バッシュのあんちゃん、上見て、上!!!」


 つまり私の真下、20フィートの位置へ。

「いまなら上見るだけでアルウェンがはいてないかどうか確実に!!み・え・る!!ララァ、わたしにも見えるぞっ的なナイス立ち位置っ!!!」
「……みっっ、見ないよ!!見ない!!」
「意思セーヴ成功?!バッシュのあんちゃんよくがんばった!偉い!でもがまんしなくていいのに!チラ見ならばれないのに!」
「……いや、バレねぇわけないだろ!!司祭、見ません!見ませんから!!」
「ク・ロ・エッ!」
「きゃらのっ」


 生死が懸かってるというのにこの子ときたら、もう。


「うむ、よし」
『アターック』
「フォース解除!!」
「《月光弾(ムーンボルト)》ごー!!」
「《陽光線(サンビーム)》!!」


 銀光の弾丸と金色の光線が、二つともに死体の山へと命中し、そして、……紐を解くように魔力は霧散してしまいました!!


「呪文抵抗!なんてこった、こいつはやっかいだ!!」

 ず、と通路から全身を引きずり出すネクロノート。その巨体を支えるのは、無数の死体の足であり、『なにか』の蟹のような骨のような白く細長い幾対かの『脚』でした。みりみりと石壁に腐汁を擦り付けつつ、窮屈気に通路からホールへと全身を現したネクロノートは、く、と脚を矯めると、コンボイたち目掛けて一気に走り出しました!


「踏み潰す気か!!」
「ヤバイ、この速度!ホールにいると全員踏み潰されるぞ!!」

『じゃーん、《でぃめんじょん・すてっぷ》』


 そのとき、スーが(!)コンボイ・クロエ・サンダースとジョンを、エーテル界へと退避させました。

「ふむ、では」
「いちど」
『退却』
「だ!」


 エーテル状態で互い肯きつつ、ネズミたちが現れた小部屋へと飛びのく三人と二匹。目標を見失ったネクロノートは、巨体をふらつかせながら方向転換。こちらへと前進してきます!


「バッシュ、かわせ!!」

 しかし、無数の足と脚が、バッシュの足をすくい、彼を蹴り飛ばしました。

「……っ!!」
「バッシュがかわせない?!それ、誰にも避けられないじゃねぇか!!前の連中はこれにやられたのか!!」
「ジョン、逃げて!」
「そしてこの瓦礫!おま、この戦法を何回使ったよ!!部屋中の瓦礫が同じ場所に溜まるほどにか!!」


 ホールをぐるりと走り抜けたネクロノートは、屍肉でできた箒のように、部屋中の瓦礫をジョンが先ほどまで隠れていた瓦礫の山へと掃き寄せ、そこで大きな棚と瓦礫じたいとに阻まれて、止まりました。


「きゃらの!だいそんさいくろんどころじゃねぇー!!」
「止まった?!今だ!《人食鬼化身(トロールシェイプ)》!」
『《ぽりもるふ》!』


 スーがジョン=ディーの呪文を受け、トロールなみの体力を備えると同時に、自身の魔力で大きな緑竜に変化。

『いってきまーす』
「うむ、勝機」
「コンボイ、前進!!」
「おおおおっっ!!!」


 瞬く間に陣形を変え、ネクロノートを挟撃する三人と二匹。そして、*


「《即行減衰光線=最大化(サドン・レイ・オヴ・エンフィーブルメント=マキシマイズ)》から中級秘術注入――それ、ふたつ、みっつ」
『がおー』
『フルアターック!!』
「むん!!」
「で!いまひっさつの!《おにいちゃんたちどいて、そいつ殺せない(マス・スネークス・スウィフトネス)》!!」 *


(*~*まで2回繰り返し)

「うわあ……」

* * *
「アスペクトより堅かったね」
「タフだったな。さすが死体の山」


「……うむ、たぶんここだ」

 ネクロノートを始末後、倉庫を一通り見て回ったとき、その部屋でサンダースが『門』の残滓を察知しました。


「たぶんねじれたりこじれたりして『開いてしまった』類いだろう。アザール・クルの儀式失敗の影響は否めないな」
「……じゃああれか、今後似たような事件がそこらじゅうで」
「きゃらの!」

「しっかしまあ」
 それまで黙っていたジョンが口を開きました。


「二ヶ月で結構鈍るもんだな」
「うむ、けっこうひやりとした」
「ネクロノートの反撃で、サンダースのあんちゃんのパクト発動しちゃったしね」
「……でもまあ、なんとなく勘が戻った気がする。復帰戦にはちょうどよかったんじゃないかな」


 あの違和感は、皆も感じていたようでした。なら、だいじょうぶ。私たちはもう、なにものにも遅れを取る事はないでしょう。


「ただいま、わたしたちの日常、って感じでしょうか」
「うむ」
「だな!」
「つまり、はいてないかどうかで揉めたりもめなかったりする、そんな冒険の日々!!」
「……。見てません」


「クロエ、ここを出たらちょっと話があります」
「きゃらの!!」

* * *
(リンチ商会の魔法倉庫:了)

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