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【D&D】01:スティリッチ侯国にて

* * *
「病気とか失明とかおっかないんだよ!備えはぜったい必要だよ!!」
「うーむ、しかしコストも馬鹿にはならんしなあ」


「この際だから《真の復活(トゥルー・リザレクション)》呪文用に予算をとっとくか」

「それはそれでちょっと足りないし」
「……具体的には、どのくらい?」
『きんか2万5千!さんだーすのけいさんだと1万くらいたりない!』

 ここはスティリッチ侯国の都市イスティヴァン。エルシアの谷からは遠く南へ離れた、とても文明的な街です。人口は何と一万を超えるとか。


 あれから二ヶ月。ようやく砦の改修も落ち着きを見せ、皆の再訓練もひと段落し、さて、と言うことでやってきたのが、


「あんちゃんたちの買い物は攻撃に偏りすぎ!死んだら元も子もないし、だいいち病気を治したり回復術使ったりあれやこれやを全部アルウェンに頼っちゃうのは変でしょ!!呪文の取り直しで時間も一日むだになるし!!!」

「……じゃあとりあえず触霊能力武器を候補から落とそう」
「ソードボウのフロスト能力も落としていいですよー」


 この街で一番大きい商いをしているという、リンチ商会、でした。小商い用の、雑貨も積み上げられた倉庫の隣にある、カウンターと陳列棚と商会の商人たちをまるっきり無視して、倉庫の木箱を二つ積み上げ、そこに羊皮紙を広げて5人と2匹がてんやわんやの大騒ぎ。


「お客様、もしもう少しご検討されるようでしたら、別室を用意いたしますが?」


「すみません、そうしてください」


 お店のひとに気を使わせてしまいました。


「……あ、そうだ。あの、『生命の杖(スタッフ・オヴ・ライフ)』みたいな強力な魔法の杖はありますか?できればつかいさしで」


 クロエはとにかく回復能力の補強をしたいようですし、サンダースの計算では全員の希望を叶えるほどの予算はない、という結論が出ています。ならば、つかいさしで少しでも安く上げる、という方法でもいいんじゃないかしら。

 お店に着いたところで羊皮紙を広げてから早や小半時。そろそろ商人たちもお客さんたちも変な顔でこちらをちらちらと見ているのです。……まあ、そうですよね。ちょっと迷惑な客ですよね、私たち。


魔法の杖(スタッフ)のつかいさしぃ?き、きいたことねー!!」
 クロエが耳ざとく突っ込みをいれてきました。
「うむ。小杖(ワンド)ならともかく、魔法の杖(スタッフ)でつかいさし、というのは稀では」
「そもそも杖があるかどうか」


「ございますよ?」


「な、なにー!?」


「ちょうど良い品がございますので、さあ皆様、どうぞこちらの別室へ。
 ……ところで皆様、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「クロエ!」
『コンボイ』
「サンダースだ」
「ジョン=ディー。ジョンと呼んでくれ」
『"すー"!!すーどぅどらごんだから"すー"!!』
「エルシアのバッシュ」
「アローナの司祭、アルウェンと申します。エルシアのあかつき街道、オジランディオン大橋を守護するヴラース砦から参りました」


 私はここでちょっと言葉を切って、よそゆきの微笑で、こう付け加えました。
「どうぞ“アローナ急行(フリート・ランナーズ・オヴ・アローナ)”とお呼びください」


* * *
「『治癒の杖(スタッフ・オヴ・ヒーリング)』!そんなものもあるのか!そうかそうか、そういうことなら話はちがってくるぞう」
「とりあえずこの子の妄言は聞き流してください」
「は、はあ」


 招き入れられた応接室で、手代の方の仰るには。

「『治癒の杖(スタッフ・オヴ・ヒーリング)』か。『生命の杖(スタッフ・オヴ・ライフ)』とはちがうもん?」

「『生命の杖(スタッフ・オヴ・ライフ)』ともなれば死者をも蘇らせる杖と聞き及んでおります。申し訳ありませんが、それほどの杖ならば城ひとつ国ひとつと交換でもしなければ割に合いますまい」

「げげぇー、そんなに高かったのか!!」
「言ったじゃん!クロエ言ったじゃん!いっぱつ3,000gpだって!!」
「……あれは虚しかった」
「うむ、しかしあれがなければ死んでいた」


 手代さんの目がまんまるに見開かれています。そんな気はなかったのですが、『生命の杖(スタッフ・オヴ・ライフ)』を一度は手にした、という話は、彼をすこし驚かせてしまったようです。


「で、こちらの『治癒の杖(スタッフ・オヴ・ヒーリング)』は?」
「は、はい。一振りで《低位回復術(レッサー・レストレーション)》、三回振ればどんな病気もたちどころに治るという鑑定がついてます」

 魔術師が書いたらしい鑑定書を読み上げる手代さん。
「魔力のチャージ量は?」


「こちらで」
 す、と差し出される鑑定書。*


「……!!フルチャージだっ!!」
「え、これ新古品?」
『ふぇいるーんぷれいやーずがいどがなげうりされてるみたいなもん?』
「うむ、多分ちがうぞスー」


「お値段は?」


 手代さんはちょっと息を吸ってから、つとめて平静を装いつつ、にっこり笑って答えました。


「27,750gpになります」


 全員、少しの間互いを見交わしました。


「……小杖(ワンド)(スタッフ)のちがいってなに?」
小杖(ワンド)は作った人の力次第、(スタッフ)は振る人の力次第」
「ということは」
「うん、かなりお得」


 はい決まり。


「では、この(スタッフ)を頂きます。お支払いと(スタッフ)の引渡しはここでなさいます?」


 手代さんの笑顔が凍りつきました。あ、驚いてる驚いてる。


「……少々お待ちください。いま、手前どもの店の店長を呼んで参りますので」


 そう言うが早いか、手代さんは鑑定書をひっつかんで部屋の奥の扉からどこかへと駆け出していきました。


# # #
*:
「スタッフのハーフチャージってあり?」
「D100振ってください」
「……99」
「では99/2で50チャージのスタッフが」
「うわー、なんというどんぶり勘定」


# # #
「ああ、お待たせしました。当商会のイスティヴァン店代表、ヨハンと申します」


 手代さんが連れてきたのは40がらみの恰幅の良い男性。目の隈が少々……かなり気になりますが、いかにもやり手、という風情ではなく、なんとなくパン屋のおじさん、という感じの愛嬌がありました。もし狙ってその雰囲気を出しているのなら、ううむ、都会の商人おそるべし、です。


「高額商品のやりとりは責任者同席で、ってことですか?」

 自己紹介の後、私は直裁にそう尋ねてみました。


「ああ、いえいえ。その……違うのです。実はお客様だけに特別の割引を、と」
「五分引きとか?代わりになんかしてくれと?」


「流石に"はやい"と噂のみなさまですな。交渉もじつに手早い。ええ、割引の代わりにひとつ仕事をお願いしたいのです」


 ヨハンさんは、面倒な駆け引きを抜きに話を進められそうな空気にほっとしたのか、商人らしからぬ手早さで本題に入りました。


「『治癒の杖(スタッフ・オヴ・ヒーリング)』、2割5分引きで商わせていただきます。条件は手前共の倉庫の……ええと、片付けを」
「うむ。7,000gp近い値引きだ。ご主人、そいつは並々ならぬ仕事とお見受けするが」
「7,000gp……5人で割って……」

「一人1,400gpですか」
「きゃらの!赤い手退治の3倍大変な仕事だ!!」


 ああ、ドレリンで頼まれたときは一人500gpでしたもんね。


「つまり我々に30,000匹のホブゴブリンを退治しろと」
「どんだけデカイ倉庫だよ」
『だよ』


「すみません、このひとたちの妄言は聞き流してください」


* * *
「ネクロノートという名前をご存知ですか」


 お茶と菓子とが出され、杖と金貨を正価で取引し、取引完了の握手を済ませたところで、ヨハンさんがあらためて切り出しました。


「このちょこれーとってやつおいしいね!」
「甘さと苦さのバランスがまた」
「お湯で溶いてもいいかもな」
『すーも!すーもたべる!』


「うむ、……聞いたことがない」
「え」
「え?」
「きゃらの!サンダースのあんちゃんも聞いたことのない魔物って!どんだけ化け物かと!!」


「ええ、ご存じないのも無理はありません。手前共も秘術ギルドの図書館をしらみつぶしに調べてようやく見つけ出した名ですので」


 ヨハンさんの話を総合すると、つまりこういうことでした。


――街の中にある商会の倉庫は、古い砦跡の地下牢部分を改装して作った地下倉庫である。

 そこは、街の真ん中でもあり、また倉庫の中も石壁と鉛の板を張り巡らせて強化してあるので、盗賊や魔法の侵入を防ぐに最適で、商会所有の魔法の品を収蔵するのに使っていた。

 ところが、1年ほど前からイスティヴァンでは奇怪な事件が頻発しており、ついに2ヶ月前には、倉庫の中に『死体の山』としか形容の出来ない奇怪な化け物が現れた。


――化け物退治を旨とする冒険者を数回送り込んだが、誰も出てこれなかった。

 魔物が飢えぬよう、数日に一度、餌代わりの動物を倉庫へ放り込んでいたが、このままではいつ化け物が倉庫から飛び出すか分からない。

 魔法の品を商っている手前、魔物が現れた原因がそれらの品々のせいだという風評が立てば、事実がどうあれ商会は破産する。したがって、魔物の一件は街の警備兵にも相談できないでいた。


――高価な魔法の品を買える/必要とするほどの実力を持った、かつ街の人間ではない“アローナ急行”は、この件の始末をお願いするのにうってつけである。ぜひ『ネクロノート』を退治して欲しい。


「……あー」
「そりゃあ……」
「きゃらの!たぶんアンデッド!」
「うむ、2ヶ月ぶりの実戦か。肩慣らしにちょうどよかろう」


「しかし……2ヶ月前、ねえ」
「アレかなあ!」
「……アレだろうな」
「次元界面が不安定になってんだろーな」
「無茶な顕現と無理やりな退散を立て続けにしましたからね」


「……なにかご存知なのですか?」


「いやいや、こちらの話。よろしい、引き受けるぜ。つまりこの件は一切他言無用、代価は杖の値引き分を現金還元」
『ぽいんとせーるじっしちゅう!』


「私たちも準備がありますので、明日の朝から取り掛かります。倉庫への案内をお願いするのはそのときでいいですか?」


「ええ、是非!是非お願いします!前の餌を投げ入れてから3日、そろそろ」
「……そろそろ?」
「そろそろ次の餌が必要か!俺たち餌か!」

「きゃらの!閉じられる入り口!アリーナを見下ろすかんきゃくせき!血に飢えた街の市民たちの、流血をかつぼうする残忍なひとみ!暴君皇帝っぽく闘技場のぶっころ☆ショー開幕を宣言するヨハンさん!『ネクロノートに名前を書かれると40秒で死ぬという!それはそれとして今宵は殺戮の宴なり!!!』」


「すみません、ほんとすみません。この子達の妄言はぜんぶ聞き流してください」


* * *


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