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【D&D】01:襲撃

* * *
(蒔き月18日、神の日)


 エルシア谷はあの戦争からもうすぐ1年が経ち、その日もヴラース砦では月例の市が立っていました。大都市イスティヴァンからも、販路を拡大したいリンチ商会の行商人が、毎回一風変わった品を商いに来てくれています。


「賑わうなー」
「鶏の調子はどうですかジョン先生ー」
「さあ安いよ安いよ」


「……《ハロウ》とか投射したほうがいいでしょうか。《タンズ》永続化とか」
「《清浄の地(ハロウ)》ですか。うむ、ふたつみっつ問題があります。たとえば」

「――えー、そんなにかかるんですか」
「呪文強度によってはもう少し値の張る材料が必要ですよ司祭」
「むー」


 オジランディオン橋を越えてやってくる異国のキャラバンなどもあり、ヴラース砦は、谷で一番多様性がある品揃えの市、という妙な評判が立ちつつあります。


 市のために開放された砦の、中庭の隅では、子供たちがコンボイに登ったり降りたり歓声を上げたりしています。


「きゃらの!そこの毛をひっぱっちゃらめぇ!!!」
 応?$!%?#!

 ……子供たちもクロエも、楽しそうです。

 しかし、そんな新しい日常の只中へ。

 コンボイの眼前に。

 彼女は、『落ちて』きました。


 悲報と、新たな旅立ちへのきっかけを携えて。

* * *

* * *
――その日は、市で。
 朝はいつものように《英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)》をみんなで囲み。

 ジョン=ディーが、男性陣だけでイスティヴァンに出かけた日の翌朝いつもするように、英雄聖餐のアンブロジアをおかわりして。

 なにかあったらしく、ばつの悪そうに目を合わせないバッシュとか、普段よりもより饒舌なジョンとか。いつもどおり、無駄口は利かないサンダース……いえ、いつも以上に無口を装うサンダース。


 朝の礼拝を済ませて戻れば、もう中庭は商人とお客さんとでいっぱいで。


 賑やかで、でも平和に、その日も一日は終わりを告げる――はずでした。

* * *
「コトリさん?!」


 中庭の隅、コンボイとクロエの眼前に落ちてきたのは、リンチ商会の店員、秘術使いのコトリさんではありませんか。おそらくは魔力による火傷、そして裂傷。彼女に、いえ商会に何が起きたというのでしょう。

 中庭の市民たちも、気がついたものは怪訝そうに彼女の倒れているのを見つめ、がやがやとした喧騒の中、隣の人の肩をつついて彼女の出現を知らせたり、コトリさんのただならぬ様子に眉を顰めたりしています。


「大丈夫ですか?!」
「きゃらの!《軽傷治癒(キュア・ライト)》!」


 クロエの治癒呪文で出血が止まり、うっすらと目を開けるコトリさん。よかった、命に別状はないようです。私も駆け寄り、起き上がろうとする彼女を止め、そばに膝をつくと、腿と胸と腕とでその身体を支えました。震える手が、味方のいるのを確かめるかのように私の胸の上に置かれます。


「……ちは……アル…ウェン…さん?」
「しっかり。どうしたんですか?」
 朦朧とした状態で、目の焦点も合わない彼女に、私も治癒呪文を重ねました。


「……た、たいへんです!イスティヴァンがっ」

 がば、と跳ね起きた彼女が、大慌てで喋り始めました。

「イスティヴァンが、悪魔に!!」


 るるるるるる


『?! じげんしんどう3、4、5、いっぱい!!なにものかがわーぷあうとしてきます!!』


 いち早く気がついたのは、スーでした。

 ぼたり

 ぼたりぼたり

 ぼたりぼたりぼたりぼたりぼたり


――屋根、市、屋台、地面。ぶよぶよとした茶色い肉塊が、中空に出現して、砦のいたるところに落下します。その異臭、その異様な色合い!! 途端に、砦全体が、悲鳴に包まれました。市のみんなは立ちすくみ、悲鳴を上げ、その闖入者に触れぬようじりじりと後退るのが精一杯です。

 その肉塊はぶるぶると震えたかと思うと、身をゆすって四肢を生やし、後ろ足でよろよろ立ち上がりました。その姿は、豚と蝙蝠と鮫の嫌らしい部分だけを混ぜ合わせたかのように醜悪です。たるんだ腹、ざらりと茶色い皮、獲物に食いつきやすいようにか追跡のためか、不恰好で上向きの鼻腔。


「な……なんですかこれは?」

「タナーリ……ドレッチ!奈落(アビス)魔鬼(デーモン)!悪臭放つ呪われた肉玉!!」


 サンダースが剣を抜き放ちつつ、その正体を看破しました。魔、魔鬼(デーモン)ですって?!

「みんな、逃げて!!」

『そうはいかぬ』


 砦正面、高さ20フィートの大手門の上空に、ひと際大きな影。それが実体化し、その巨大な翼を、ばさり、と一度撃ちました。ハゲワシの頭部、長い首、薄汚い青灰色の鱗めいた羽毛の体躯、そして鋭く太い鉤爪と、ルフのそれのように巨大な翼。


「うむ、ヴロック。やはり奈落(アビス)魔鬼(デーモン)、タナーリの一種だ。……だが存外にでかいな」

『ふん?』


 そのまま、ごうと翼を鳴らしてゲートハウスの屋上に。当番の弓兵は恐怖に凍りつき、――悲鳴を上げるまもなく、それの爪に引き裂かれ、5フィート下の城壁通路に惨たらしく投げ出されました。


「……!」

 ちっちっと舌を鳴らして爪についた血を啜る巨大な翼の魔鬼(デーモン)。同じ姿の、一回り小さな(と言っても馬やジャイアントオウルのように大きいのですが)魔鬼(デーモン)が、砦城壁の北と南とに現れました。


『小物を追ってみれば、面白い場所に出たものだ。全員、死ね』
『死ねばいいと思うよ』
『死にゃー』


「……死ね、ときたか畜生が!同じ台詞を吐いたヤツの末路を思い出すぞ!!!」


 きしきしと爪をすり合わせる正面の大ヴロックが、くい、と顎で南北のヴロックを促しますと、二体は耳を劈くような絶叫を上げました。びりびりと周囲の木々が木の葉が震えます。


『ドレッチ共、かかれ!!』

「させません!みんな、食堂に走って!《意気軒昂(イレイション)》で(たす)けます!」


 三歩前に出て、中庭の中央に。そこで聖印を掲げ、砦の全員に聞こえるよう朗々と《意気軒昂(イレイション)》の聖句を献じました。びくり、と金縛りを解かれ、次々に私たちの背後、食堂へ向けて駆け出す市のお客と商人たち。


 よし。さらに、

「聞こえましたか、樹よ、樹よ、森の友よ!『ラーグ』!!生ける大橅よ、侵入者を討て!!」


 ……クロエの準備していた伏兵を起動させる口訣、熊神の御名、ラーグ。

『?!』


 その名を聞けば、クロエの立たせていた歩哨にして伏兵――梢までの高さ20フィートの生ける大橅が目覚めるのです!
 一番手近な侵入者である南のヴロックに、背後から掴みかかる生ける大橅。不意を突かれ、悪鬼は奈落(アビス)語で甲高く叫びますが、緑濃く葉の茂る太い腕からは逃れることができません。


「きゃらの!《意気軒昂(イレイション)》で増えた一歩で枝が届いた!ツイてる!!」


 コンボイを前にそのまま踏みとどまり、長い詠唱を始めるクロエ。察するに、多数のドレッチを何とかする手段を講ずるつもりなのでしょう。


「うむ」
「……よし」

 バッシュとサンダースが、市のみんなの背後を守るべく左右に走り出ます。……って、鎧もないのに?!


『急襲のいいところは、敵がなぁんにも用意していないことだ……』

 ざりざりと耳障りな発音で、大手門の上の大ヴロックが独り言ちます。どろりと濁ったその目には苛虐を悦ぶ邪悪な光。

「むっ?!」


 鎧の負荷がないため調子が違うのか、サンダースの3度の斬撃もバッシュの攻撃もドレッチを屠るには至りません。


「……ダメージ抵抗か」

 訂正。魔鬼(デーモン)の持つ生来の防護の力が、生半な攻撃を防いでしまうのです。

「……なら、すり潰されろ!!」


 そのまま、全ての打撃を一体に集中させるバッシュ。果たして、哀れなドレッチはそのまま壁に叩きつけられ、止めの戦鶴嘴の一撃をまともに浴びせられました。皮袋が破けるような音を出して、中庭の端まで弾き飛ばされるドレッチの死体。


『やっぱばっしゅこえー』

 ジョンの肩でスーが呟きます。うん、同感です。


 北のドレッチが食堂の屋根へと飛び移ると、胸を大きく膨らませ、先ほどより数段奇怪で大きな叫び声を上げました!!耳がどうにかなってしまいそうです!!


『……ヴハハハハハ!!どうだ、動けまい!!』

 そうですね、クロエは耳を押さえてひくひくしていますから、普通にあの金切り声を聞いたらまともに動けなくなるのでしょう。

 しかし、私の意識が朦朧としかけたとき、ぱちり、と胸の奥に準備されていた癒しの力が働き始めました。霞む視界も朦朧とする頭も、朝露が日の光に蒸発するようにさっぱりと覚めてゆきます。


「うおお、《再建の誓いリニューアル・パクト》がああ」

 後ろでジョンが悲鳴を上げました。《再建の誓いリニューアル・パクト》は、麻痺や盲目など、身体の不調が現れたときに発動するよう仕掛けておく変則的治療呪文です。ジョンはこの呪文を、《神速セレリティ》呪文後の目眩回避のためにと考えていたのでした。

 無論、私の意識を癒したのもこの呪文です。

「先行投資の500gpがぁ、俺のカッコイイ連続魔法の計画があー」


 ……そんなこと考えてたんですか。(500gpは《再建の誓いリニューアル・パクト》の構成要素、『大きめのトパーズ』の値段です)


「バッシュ!サンダース!避難は完了です!!」

 しかし、正面に飛び込んできたヴロックは、その場で全身から黄色い粉を噴出しました。


「……な?!」
「痛っ!」

 その黄色い粉――魔界の胞子を浴びた瞬間、その場所に焼けるような痛みが走ります!目を庇った掌を見れば、菌糸が瞬く間に増え、伸び、皮膚を食い破らんとしているではありませんか!


「き、気持ち悪ーっ」
「きゃらの!バッシュとアルウェンにキノコが!あとで収穫して市で売ろう!」
「こんな病原菌めいたもの、売れません!ていうか買う人いないでしょう!!」
「アルウェンから生えたってだけで買うやついるってぜったい!!」


『貴様ら、バカか?』

 いえいえ、いつものノリなんですよ魔鬼(デーモン)さん。不意のお客様はどうかこれでもお召し上がりください、と念じつつ、私は次の呪文を解放しました。


「荒ぶる茨よ!われらの敵の足を止めよ!《イバラの壁ウォール・オブ・ソーンズ》!」


 私たちのいる一角を除いて、中庭の全てを魔法の茨が覆い尽くしました。もちろん、その中にほとんどのドレッチを閉じ込めて。人差し指より長い棘が、彼らの分厚い皮をも切り裂いて、どす黒い血で染まります。


「……うむ、司祭。私はどうやって移動すればいいのかな?」


 茨の壁越しに尋ねてくる彼の声には、ちょっとしたユーモアの響きが含まれています。だって、言われなくても《次元跳躍(ディメンジョン・ホップ)》しますよねサンダース。


「お任せしまーす」
『とべばいいとおもうよーこんなふうにー』


 バッシュと私の正面にいるヴロックの足元に、スーがまとわりつきました。いかにも恐ろしげな毒があるかのように振り上げられた尾を巧みに使って、ヴロックの注意を惹き付けます。

「……よし!」


 その隙を突いて、バッシュの連撃がヴロックの下腹部と大腿に叩き込まれました。三撃目で、切り飛ばされるヴロックの左足。鳥に似たやつの目が、ぐるんと黄色い白目を剥いて、死体になったヴロックはそのまま茨の壁にすぶすぶと沈み込みました。


「……ひとつ!!」
『ばっしゅまじおっかねー、すーのことまきこまないでねー』
「大丈夫だスー、お前の鱗に通る剣はそうそうあるもんじゃない」

『じょんくんじょんくん、“うぉーぴっく”も“ばっくらーあっくす”も“けん”じゃない』

『……閣下!』
 生ける大橅に捕らえられていたヴロックが、瞬間移動で大ヴロックの隣へと現れました。

「逃したか!じゃあライブオーク、蹂躪ー!!」


 クロエの指示で、壁を越えた生ける大橅が、ドレッチを茨の壁ごと踏み殺してゆきます。

「うわあー」
「いま酷いハメを見た、うむ」

 生ける大橅の進路にいたドレッチは、それで轢殺されました。締めて25体。しかし、ヴロックにとっては只の手駒、いえ足止めのまきびし程度の存在に過ぎなかったようです。


『一人死んだか。これで破滅の閃光が使えなくなったな。残念だが……野蛮な皆殺しと行こう』
『肉蟲!屑どもの逃げ込んだ巣穴の扉を開けろ!!血祭りだ!』


 大ヴロックの嘆息を受けて、残ったヴロックが下品な金切り声を上げました。恫喝を聞いたドレッチが、突き出た腹に似合わぬ細い腕を伸ばし、茨の壁の中から食堂の扉を開けようとするのが見えました。


「やめ……!」

 上げようとした私の声が、成長する菌糸の食い込む痛みで上擦ります。そのまま扉が開かれれば、次にみんなを襲うのは魔鬼(デーモン)の範囲攻撃呪文……!


「はいそれ《神速セレリティ》」

* * *
「……思い通りになんかさせるかよぅ。《力場の壁ウォール・オヴ・フォース》でがっかりしていってね!」


* * *
 開けた扉の前に、いえ扉の前の壁一面に、うっすらと光る力場の壁。茨の壁越しに、中で怯えるみんなの顔まで見て取れますが、その戸口はいま世界でもっとも通過の難しい場所、に書き換えられておりました。だいじょうぶみんな、もうすぐ片付きますからね。


『い、今なにをした!?』

「弱いもの虐めを好むようなヤツに答える義理はねえな!」
「そして悪を挫くのが我らの喜び!《正義の祝福(ブレッシング・オヴ・ザ・ライチャス)》!!」


 アローナが正義の祝福を、魔鬼(デーモン)の防護を突破する力を私たちの剣に授けられますと、


『いっーぽぜんしんいーっぽぜんしん《でぃめんじょん・すてっぷ》ぅ』


 スーが私たちの剣に空間を跳躍する力を与えました。ゆらりと輝く“アローナ急行(フリート・ランナーズ・オヴ・アローナ)”のチームブーツ。

『?!』


 一瞬。一瞬で、バッシュ、サンダース、コンボイが大ヴロックを包囲します!

『げ、幻影よ出でよ!』


 苦し紛れの《鏡像(ミラー・イメージ)》も、姑息な手段に過ぎず。

「外れ!当り!外れ!外れ!当り!きゃらのっ」


 すでに《ギラロンの祝福(ギラロンズ・ブレッシング)》で無類の攻撃回数を持つコンボイと、

「……」
「うむ、なかなかの手ごたえ」


 やはり二手三手と切りつける剣士と戦士がいては、その攻撃全体の半分を散らすのが精一杯で。


「そこでもう一押し!《おにいちゃんたちどいて、そいつ殺せない》!!」
「うむ、《蛇のごとき俊敏共有(マス・スネークス・スウィフトネス)》は良い呪文だ」
『!』


 呪文の後押しで、もう一撃ずつを放たれては、流石の大ヴロックの鏡像群も、全て消滅せざるを得ず。


『ば、馬鹿な、馬鹿なっ』

「きゃらの!ゆっくりしていってね!いまアルウェンが《次元移動阻害(ディメンジョナル・アンカー)》してくれるよ!」


 クロエの挑発で、それと判るほどに浮かんだ大ヴロックのこめかみの血管は、いっそ滑稽なほどでしたが……


『覚えておれ!!貴様らは必ずこの俺が殺してやる、殺してやる、殺してやる!!!』


 その捨て台詞を最後に、大ヴロックとヴロックは、転移して消えました。


* * *
 魔鬼(デーモン)の死体の始末。市の片付け。怪我人の治療。バッシュの菌糸は《病の除去(リムーヴ・ディジーズ)》で祓い、私の分は聖水で清めました。行商人への損害の補償(一部ですが)。そして、唯一の被害者の。


「《安らかなる永眠(ジェントル・リポウズ)》、終わりました」


 みな無言で肯きます。大手門の今日の見張りであった彼が、ほんの一瞬大ヴロックの注意を惹いてくれたおかげで、私たちはそれ以外の被害を抜きにして奴らを撃退できたのです。彼の遺体は、ヴラースの地下室に安置されています。


 ……この事件がうまく片付いたら、彼を蘇生させてはどうか。

 そんな思いが、みんなの中にあるのは、言葉にしなくてもわかりました。


* * *
「いやおそらく二度とここには来ませんよ」
「命を助けられた礼は言いますがこんなところには一秒だっていられない」
「あなたがたはいいでしょう、それはそれは強くていらっしゃるのだから」

 そんな言葉を残して、そそくさと立ち去った行商人たち。


「ばっちゃが言ってた。強いものは時に孤独だって」


 クロエが、正門からその後姿をじっと見送っているときに、そう呟きました。夕焼けが、彼女の影を正門の向こうまで投げかけています。赤い日で、クロエの髪の毛も真っ赤に見えます。


『応……』

 コンボイが、横でしょんぼりとクロエの様子を見守っています。そこへ。


「クロエさま。見張り、交代に来ました」

 階段を駆け上がってきた、衛視がそう声をかけました。

「……? 交代?」
「村のみんなで、話し合って決めたんです。村は……ヴラース砦開拓団は、全員残ります」


 さ、替わります。今日は本当にありがとうございました。そう彼は言い、何事もなかったかのように、死んだ彼が立っていた場所の隣に、ぐっと背筋を伸ばして立ちました。


 ぐし、となにか水っぽい音がしましたが、私はそちらを見ずに階段を降り始めました。コンボイが、クロエを背に乗せて、正門の壁を降り、私より先に図書室に向かおうとします。


 先を行くコンボイの背から、クロエの弾むような声。


「そうだ、ばっちゃは言ってた!強いものは、弱いものを守る義務があるって!!群れのリーダーは、だから強くなきゃいけないって!!」


* * * 
「さて。コトリさん、何があったのか教えてください」

「はい、プロデュ……ジョン=ディー先生。イスティヴァンはつい先ほど、あの魔鬼(デーモン)の群れに襲われたのです。街は壊滅状態で、市街のあちこちから火の手も上がっていました。商会も焼き討ちに遭い……私は、《転移(テレポート)》の巻物でここまで」


 そう言うと、彼女は背負いから魔法の水晶球を取り出しました。

「ご覧ください」


――陽の落ちた街は奇妙な霧に包まれ、街のあちこちで火事がおきているらしい煙と混じり、街特有の夜の明かりは逆に見て取れません。みな息を潜めて隠れているのでしょうか、それとも逃げ出したのでしょうか。水晶球に写る景色は歪みぶれて、城を写そうとした時……城のあった場所が、『めくれて』いるのがわかりました。

 なにも写らないのです。しかし、絵に描かれた街がキャンバスごと内側に引き込まれたかのように、空間ごとねじれてどこかに繋がってしまっているような、そんな雰囲気だけは水晶球越しにもよくわかります。


「……よし、行くか」
「うむ、だが準備は必要だ」
「明日……いえ、明後日ですね」


「わたしも!わたしも……連れて行ってください!」

 商会のみんなが心配なのでしょう、顔を真っ青にしてコトリさんがそう叫びました。


「残念だけど、俺の《転移(テレポート)》では5人が限界なんだ」

 サンダース。バッシュ。ジョン。わたし。《動物縮小(リデュース・アニマル)》したコンボイ。

 肩に乗る大きさのスーと、化身能力で小さな蝙蝠になるクロエは別勘定なわけです。


「そう……ですか……」
「きゃらの!コトリは超小型になれるかっ」
 クロエが、机の上に身を乗り出して尋ねました。コトリさんの目の前に、クロエの胸があるくらいの近さです。


「え、ええー。どんなに押さえても中型が精一杯かと」
 ……コトリさんが、何を勘違いしたか自分の胸を押さえながら言いましたものですから、


「むっかぁー!!イラってなった!イラッとした!」
 クロエのなにか大事な部分を刺激してしまったようです。
 あはは、ごめんなさい、つい。と詫びるコトリさん、むきー、と暴れるクロエ。


 なにやら温かい目線で、姉妹のようにじゃれる二人を眺める男性陣。


――胸の話をするなら混ざりませんよ?


* * *
(続く)

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