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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』47・48日深夜続き

* * *

 東門の外、200フィートほど離れた場所に積み上げられた土嚢は、突撃を防ぐために設けたものでしたが、その周囲に、3体一組のホブゴブリンたちの姿がいくつも見え隠れしていました。

「小隊が目に付くな」
「こっちのやつらは正攻法ですかねえ」

 城門と城壁の上からは、土嚢から身を乗り出したホブゴブリンたちに向け、霰のように矢弾が打ち込まれています。民兵も兵士たちも、決してホブゴブリン程度に後れを取るような腕ではありません。ですが、時折巨人が投げ込む大岩が城壁に着弾するたび、打ち返される矢はどうしてもごくわずかになってしまうのでした。

「よーし、撃ち方やめっ!」

 ジョンの合図で、弓兵の攻撃がぴたりと止みました。

「ちょっと片付けてくるから後ろから撃たないでくれよなっ」

 肩に小竜を乗せた軍師の軽口に、弓兵たちがつられてにやりと笑います。城門手前で準備を整えた私たちに、守備兵がうなずきをよこしました。それに応えて、親指を立てるサンダース。

「開門!開門!」

「さって、今回は最初ッから召喚させてもらうぜぇ。小物は俺とコイツに任せてくれ!!」

 ジョンが取り出したのは、傍目には古ぼけた火鉢。その実体は、恐るべき火の精を召喚する魔力の精髄、かつて“赤の”イマースタルが冒険の果てに見出した強力な魔具『ブレイジャー・オヴ・コマンディング・ファイアー・エレメンタルズ』です!

「えーっと……『いあ!くとぅぐあ!ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ!いあ!』」
「それ本当にコマンド・ワードですか?」

* * *
 召喚された大型の火 の 精ファイア・エレメンタルと、クロエの投射した《エンタングル》が、5~6組いたホブゴブリンたちの動きを封鎖していました。

「この隙に右手から回りこむ!目標は投石巨人2体!」
 と叫んだバッシュが、またしても先行しますが、さっきとは違い、身を低くし、盾を構え、いつでも左右に避けられるようにしながらじりじりと、しかし並みの戦士の倍の速度で前進します。

「左翼は火の精でなんとか……そうだな、念のため魔猿も召喚ぶか」
「うむ、後顧の憂いは断っておこう。しかし前進するだけでも一苦労だな」
「まあ南門より巨人が少ない分楽かもしれねぇ」
「バッシュ一人で突撃させるわけにもいかんからな」

 土嚢と杭の遮蔽の影。私たちは、正面に巨人の影を捉えつつ、左手で《エンタングル》と火 の 精ファイア・エレメンタルに翻弄されるホブゴブリンたちを見ながら、次の突撃を準備していたのです。そこへ、ほんの2、3歩こちらへ動いた(隊長と思しき)ホブゴブリンが、何かを投げつけ……直後、彼自身は背後からファイア・エレメンタルに殴り飛ばされ、燃え上がりました。

「ん?」

 投げつけられたきらきらと輝く小さな金色の玉は、ホブゴブリン隊長が首から下げていた首飾りの一部のようでした。それ自身わずかな光をきらめかせながら、その玉は放物線をゆっくりと描いて――遮蔽のこちら側、《エンタングル》に囚われた別のホブゴブリン隊のそばに落ち、

 爆音が轟き、4つの火球と炎が夜の闇を切り裂きました。
「《ディレイド・ブラスト……》、いや、『火球魔法の首飾りネックレス・オヴ・ファイアーボール』か!!」

 隊長級ホブゴブリンたちは、その身に自殺的な量の魔力をぶら下げ、走る火球として城壁に取り付くつもりだったのです!

「サンダース!鎧が!」

 ダスクブレードのミスラル製胸甲が、着弾と足元の死に体だった隊長(もはや消し炭さえ残さず木っ端微塵です)の首飾りの誘爆との波状効果で、大きく溶けて歪んでいました。無論、サンダース自身も無傷ではいられません!

「俺は無事だ!いや結構効いた!それより連中を止めてくれ!」

 溶けた鎧は冷えて曲がり、辺りにはいろいろなものが焦げる匂いが立ち込めています。服。土。若草。金属。毛。革。血と肉と脂。そしてホブゴブリンの死体。鼻の奥につんとくる刺激臭にかすかな吐き気を覚えながら、私の右手は殆ど自動的に残るゴブリンたちを指し示し、私の声は全く自然によどみなく祈りを完成させていました。

『《エンタングル》!バカナ、ドコノ冒険者ガ1日ニ2回モコンナ糞呪文ヲ準備ィシテヤガルンジャァアア!!』

「……なんかバカにされた気がするのですが」
「『植物領域恐るべし』だとさ」

 残る自爆突撃兵を全て《エンタングル》の網に捕らえ、私とジョン=ディーが巨人に向き直れば、そこには巨人へ駆け寄ろうとするバッシュとコンボイ、そしてキュアポーションを飲みながらそれを追うサンダースの姿がありました。

「なるほど、投石の目標を散らすつもりですね!」
「アルウェンは甘いなあ」

 ……消えた? 走りこむサンダースの姿が、そのまま空気に溶け込むように消えてしまいました!

「《即 行 透 明 化スウィフト・インヴィジビリティ》だよ。ダスクブレードがそんな、『我が身を犠牲にして仲間の攻撃を助ける』なんて泥臭い戦術取るわけないじゃん?」

「……えっと、そうすると一番先頭を走るバッシュの立場は……」
「……えーっと……戦場の主役?」

 わおわおわお!と叫ぶクロエが、コンボイを駆って巨人に詰め寄ります。巨人が巨猿に気を取られた瞬間、その右側にサンダースが現れて巨人に一太刀を浴びせました!そして、瞬く間にその姿は闇に溶け込みます。痛手を受けた巨人は怒り狂って敵の姿を探しますが、すでにサンダースの姿は透明化呪文の影響下。

「うわぁ、あれはズルい」
「アレをまね出来ないバッシュのためにちょっと助けてあげよう。《ファントム・バトル》!」

 ジョン=ディーが右手を差し上げると、それに応じるかのように、巨人の周りにむくつけき男たちが数十人も立ち上がり、手に手に持った槍と盾とを天に突き上げて雄叫びを上げました。

“ホアッ!ホアッ!ホアァアーーーーーッ!!!”

「あんな密集陣を、いったいどこから、いつの間に?!」
「もちろん魔法で、ついさっき。なに、バッシュは幻だと分かってる」

 なるほど、バッシュは彼らをうまく目くらましに使って、巨人の懐に飛び込むことに成功したようです。しかしバッシュが連撃を叩き込む間があるならば、もちろん巨人も黙ってはいません。なにせ新しく飛び込んできたこの相手は消えたりしないのですから。

「バーッシュ!思いっきりぶん殴れー!」

 ジョンの指示を受けて、バッシュが全力攻撃を巨人に叩き込みます!そして巨人が怯んだ瞬間、ジョンが指を鳴らしました。

「《ビナイン・トランスポジション》」

 ジョンの隣にいたスーの姿が、足を止めて全力攻撃をした隙だらけのバッシュと瞬く間に入れ替わりました。

「これは便利ですねえ」

 無呼吸で突進したと思われるバッシュは、返事をする間も惜しんでか、荒い呼吸を整えようと肩を上下させています。わたしは残り少ない治癒呪文で彼の体力を回復させました。

「……ありがとうアルウェン、ジョン!もう一回行って来る!」

 一言言い残すと、バッシュは再び巨人に向けて走り出しました。入れ替わりに空を飛んで戻ってくるスー。

「300人の戦士の幻影が入れ替わったスーの姿も隠してくれるって寸法さ」
「全く無駄がないですね」

 もう一回指を鳴らすと、スーの姿はサンダースに。

「これならアルウェンは前線に出ないで治療ができる」
「そして我々の足なら2倍の距離を一瞬で詰められる。治療ありがとうアルウェン司祭。《エクスペディシャス・リトリート》!!」

 サンダースは倍速で戦場に駆け戻って行きました。前方ではクロエが2体目の巨人を押し切りつつあります。その横をするりと抜け出たバッシュが、

 巨人の振り回した棍棒の巻き添えを食らいました。

「あーあ、なにやってんだ」

 スーに呪文を握らせたジョンが、心配する風でもなくつぶやきました。呪文を受け取ったスーは、パタパタと夜空に舞い上がります。私は弓の援護の手を止めて、ちろりとジョンの表情をうかがいました。

「まだ立ち直ってないのかもなあ」

 かもしれません。背後では、召喚された火 の 精ファイア・エレメンタルと魔猿が《エンタングル》されたホブゴブリンたちを始末し続けています。
 結局、彼が立ち直るにはまだまだ時間が必要なのでしょうか。

「ふるぼっこー!!」
 応!応!

 相手に反撃の隙を与えず、増えた腕で全力攻撃。コンボイとクロエの必殺パターンです。が、この巨人はその猛攻を耐え切り、全力をつぎ込んで無防備になったクロエ目掛けてその大棍棒を振り上げました!!

「うん、耐えたか。すごいな」

 ジョンが他人事のように巨人を褒めました。しかしその口調には、むしろ勝ちを確信した余裕のようなものさえ聞き取れます。

「ほい」

 余裕の理由と真意を尋ねる間もなく、ジョンの右の拳が軽く空を突きました。

 刹那。コンボイの懐まで潜り込んでいたスーが、その4本の腕の中を滑るように飛んで、長くしなやかな尾で巨人に軽く触れました。

「え?」

「使い魔はね、接触呪文を運べるんだ。覚えておくといいよ」

 次の瞬間、棍棒を振り上げた巨人の全身が紅蓮の炎に包まれました!!

「えええ?!」
「《コンバスト》。燃えにくいものを無理やり燃やす呪文だが、こうすると攻撃にも使える」

「燃えにくいって……どのくらいの火力なんですか」

 ジョンは、指を二三度折って、少し考えてから、こう答えました。

「……家1軒燃えるくらい?」

 巨大な松明のようになった巨人のおそろしい死に様に、赤い手の連中も恐れをなしたか、長距離呪文も届かぬ範囲へと軍勢ごとじりじり後ずさるのが、エルフの夜目にも見て取れます。

「さ、胸張って帰ろうぜ。呪文の用意はすっからかんだが、余裕のあるとこ見せないとな!」
「きゃらの!クロエは《マス・レジスト・エナジー》残してる!竜が来ても余裕!」
「うむ、あの首飾りを回収してハーンにたたき返してやろう」
「ま、まるでいいところがない……」

 肩を落とすバッシュを、全員がぽんぽんとたたきながら、私たちは東門の兵たちに向けて手を振りました。つかの間の凱旋をするために。

 残る敵将はハーン、赤竜アビスライアクス、そして未だ姿を見せぬ竜魔王、アザール・クル!

* * *

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