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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』46・48日目深夜 ブリンドル(8)

* * *
(収穫月7日、解の日。日記48日目)

 戦争は、敵の夜襲で始まりました。

* * *
「敵は巨人!攻撃は岩投げ!」
「距離を聞いてくれ!」
「目算で500!数は4!うち2体がスパイクト・チェインで武装とのことです!」

 南門へ駆けながら、私は事前に受けていた《レアリーズ・テレパシック・ボンド》で、ジャルマース卿が伝令から受けた報告をそっくり、皆に大声で伝えます。城壁の外からは、どよめきのような低い轟音――赤い手の軍勢の出す唸り声が遠く近く響いてきます。そして、何かが間断なく激突する大きな破壊音。夜の空気は煙と油を含んでいがらっぽく、死と破壊の匂いを街の中まで運んできていました。
 全員、陽光棒の明かりの中、武器と呪文を準備しながら坂道を飛ぶように駆け下りていきます。……激突する音の正体は、南門の城壁を狙って投げ込まれる巨石でした。

「“アローナ急行”だ!特急が来たぞ!」

 兵士たちが槍を振って辺りに大声で伝えます。コンボイの姿に気がついたのでしょう。赤い手の人ならざる軍団を目の当たりにした兵士たちにとって、巨大なコンボイの勇姿は巌の様に頼もしいものに違いありません。

「チンタラしてたら狙い撃ちだ!とにかく走って距離を潰せ!」

 ジョン=ディーが怒鳴りながら《ヘイスト》の巻物を掲げます。距離500フィート。駆け寄ろうとする騎馬も徒歩も、その距離をつめる前に、巨人の砲撃に晒され潰されることでしょう。

 普通の冒険者や戦士ならば。

「開門!開門!」

「うむ、なるほど遠い」
「どれ、いっちょ行くか!」
「いっくぞー!!!アルウェン、落ちるなー!」
 応!

 コンボイの景気づけでしょうか、その吼え声が跨った鞍を通じてびりびりと私の下腹部に響きます。そう、今回私は、コンボイの背の鞍、クロエの後ろに同乗してきたのです。

「2、3日練習しましたからね!気にせず全速力で行ってください!」
「分かった気にしない!コンボイごー!」

――危うく落ちるところでした。

* * *
「いかん、バッシュ!構えろ!」

 わずかに先んじたバッシュを狙って、巨人2体は大岩を直線的に投げつけてきました!

「?!」

 その着弾即必死の直撃を、しかしバッシュは、左手を犠牲にすることで、辛うじて致死傷を免れました。

「《パクト》発動来たコレ!一瞬で致命傷だ、すげぇぞ巨人!」
「てことはもう一撃は持たないな」

 《ベイルフル・トランスポジション》でスパイクト・チェイン持ちの巨人を一体、城壁方面に追いやったジョンが真顔でそう言いました。

「そんなことはさせません!《ブラッド・オヴ・ザ・マーター》!」

 コンボイから飛び降りて、差し上げた私の左の腕から、神に捧げられた血がだくだくとあふれ出て宙に舞い、霧と消えて行きます。我が身を犠牲とする信仰呪文のひとつですが、この呪文の利点は距離を置いても怪我人を癒せることと、

「バッシュ!きっちり全快してください!」

 同じ量の血を流すことで、奪われた血と体力とを計ったように元通りにできるということなのです。流した血は、後方でゆっくり治療薬を飲んで取り返せますし。

「だめーっ!アルウェンそれヤバイ!」

 不意にコンボイから飛び降りた私を振り返って、クロエが叫びました。

「え?」

 クロエの叫びを聞きながら、私が薬瓶を取り出すのと、
 巨大な足音と風を切る鉄鎖の音とが背後から急速に近づいてくるのと、

「ふっ」

 呼気を搾り出して加速したサンダースが私の背後を守るのとが、殆ど同時でした。

「え?」

 反射的に振り返ると、城壁に追いやられていたはずの巨人の構えた鉄鎖が、私の上に振り上げられている光景が――ああ、そうか。この巨人、走ってきたんだ。
 サンダースが立ちはだかっても、広い間合いを持つ巨人のスパイクト・チェインは容易に私の頭蓋を打ち砕くでしょう。うん、クロエ、ここは確かにヤバイ立ち位置です。今日こそ死ぬかも。

「《ディメンジョン・ホップ》」

 振り向きもせず伸ばしたダスクブレードの左手は、私をほんの少し横へと『飛ばし』ました。巨人の鉄鎖が数瞬前まで私のいた空間を虚しく打ちます。

「この抵抗感、貴様《魔術師退治》のオーラ持ちか。うむ、だが我が秘術を阻むには些か力不足だったな」

 サンダースが巨人に嘯きました。本当に、本当に頼りになる仲間たちです。私は巨人をにらみながら霊薬を飲み干し――姿を消しました。

「よっしゃ!《インヴィジビリティ》ポーションだ!アルウェンに渡しといて正解だったぜ!!」

 ジョンが親指を上げています。本当に、なんと頼りになる仲間たちでしょう。この小瓶を託してくれた軍師の判断が、背中を守ってくれた夕闇の剣が、私は誇らしくてなりません。

* * *
「《イレイション》!森よ善よアローナよ、我らに力と勇気を!」

 姿を消しているとはいえ、場所を気取られぬよう、移動をこまめに続けながら、私は援護呪文を投射しつづけました。

「いってー!!けどガマンだコンボイ、真っ赤な誓いっっ!」

 クロエのライダーズシールドも間に合わぬ剛速で、岩がコンボイの巨体を打ち据えます。あの様子では、コンボイの《不屈の誓い》も効力を表しているに違いありません。

「この巨人どもが東門にもいるってのか……!」

 《ベイルフル・トランスポジション》を巧みに使い、常に敵を分断し続けるジョンの声にも焦りの色がありました。

「投石野郎ならなあー!殴り合いは弱いと見たぞゴルァアアアア!!」

 腕を《ギラロンズ・ブレッシング》で4本に増やしたクロエが、同じく腕を4本にしたコンボイの上で叫びます。が、しかし。投石をしていた巨人は抜く手も見せぬ《早抜き》で、ふたりに巨大な棍棒をたたき付けました!!

「きゃ、きゃらのっ!!こいつ鎖持ちより強い!?」

 そして、サンダースの《パクト》もまた、効力を発揮し始めていました。肉体の限界に近い動きで巨大な投石を受け流していたサンダースも、今では足元に血だまりが出来つつあるほどに追い詰められています。

「今治癒呪文を!」
「いやアルウェン司祭、それには及ばない」
 サンダースが刀身に左手を添えたまま、きっぱりと言いました。

「……こうまで手傷を負わされるとはな。仕方ない、この傷の分はお前から吸い取るとしよう――秘術注入の弐――《ヴァンピリック・タッチ》」

 ダスクブレードの魔剣が巨人の血潮を吸い上げ、使い手の活力に変換して行きます。なるほど、彼の奇妙な余裕はその魔力のためでしたか。

「む、しまった。《最大化》すればよかったか」

 なんでそんなにゆとりたっぷりなんですか。しかしサンダースの正面では、血を奪われた巨人が怒りの咆哮をあげていました。

* * *
「まだ倒れねー!こうなりゃガマン比べだー!!」

 投石巨人兵の2体目に殴りかかったコンボイとクロエは、やはり巨人の無尽蔵にも見える体力に苦戦していました。普段なら数秒でバラバラにしているところですが、相手が巨人ではむしろバラバラにされかねません。これほど強力な敵なら、私たちは全員で取り囲んで1体を相手にするのがせいぜいだったはずです。
 だが、辛うじて、ほんの紙一重の差で、私たちは幸運をつかみ、あと2体にまで敵を減らしていました。しかし。

「いかん、クロエを挟む気だ!」

 決死の殴り合いで疲弊したクロエとコンボイを組しやすいと見たか、残った鎖持ちの巨人はその目標を遊撃する巨猿とドルイドに切り替えたようでした。鈍そうな顔で二度三度とこちらと向こうを見比べていた巨人は、やがて踵を返して、向こうにいるクロエのほうへと向き直りました。

「突撃させるな!一撃で死んじまう!」
「分かりました!“森よ阻め!”」

 直径50フィートほどのわずかな《プラント・グロウス》の森。それが巨人の足を止めました。そして、
 ジョンの召喚したファイア・エレメンタルの移動が間に合い、
 バッシュとサンダースも前線に復帰し、
 クロエは2体目の投石巨人兵をも倒しきり、

「あとはお前だけだ」
「『許して?』『ゆるさん!』『ギャー』の刑!」
「フルボッコ!フルボッコ!」

 ……結局、私たちはこの長い長い1分半を無事に生き延びたのでした。

* * *
「軍勢は遠巻きにしているな」
「巨人4体も倒す化け物に恐れをなしたんだろ」
「正直、もう持ちませんよ。呪文もないし」
「だが行かねば。東門にも巨人が押し寄せているはず」
「きゃらの!この上竜が来たら全滅必至!」

「よし。じゃあ……行くか!」

 バッシュが膝をたたいて立ち上がりました。全員、やれやれと言った風情で膝や腕の曲げ伸ばしなどしています。しかし、誰も逃げようとは言いません。もう当たり前のように傷を塞ぎ、剣を拭い、盾を握りなおしています。死を覚悟して、などという悲壮な雰囲気は微塵もありません。なんとなく、近所に散歩に行かないかと言われたような気分で、私も腰を上げました。

 戦利品の巨人の棍棒を引きずりながら歩き出す仲間たちの後姿を見て、ふと思いました。

 彼らのような傑物を、人は――『英雄』と呼ぶのではないのかしら、と。

 南門の城壁の上では、兵士たちが歓声を上げ、盾を鳴らし、千切れんばかりに手を振っています。ジョンが手を振り返しますと、歓声は一層大きくなりました。

 ここは何とか凌ぎました。さあ、次は東門です――。

* * *

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Comments

《ヴァンピリック・タッチ》のときはテーブル全体で
『シークレットソードⅡー!』『ダスクブレード・スッターイル!!』『フタエノキワミ、アッー!』

とかやってたわけで。ううむ、ネタももう懐かしいのセンですのう。

Posted by: 飛竜/いしやま | July 01, 2008 09:06 AM

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