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【D&D】『赤き手は滅びのしるし』45・43日目 ブリンドル(7)

* * *
(収穫月2日、陽の日。日記43日目)

 翌日。南門城壁そばの、一番戦場に近くなるであろう街区で、バリケード造りや無人の建物の封鎖などを手伝い。
 さて次へ、と通りを横切ったところで、通りの向こう側から声をかけてきたものがありました。

「ごくろうさまあ!!」

 元気よく手を振る姿。はて、見覚えのない娘さんですが。

「ん?メイアー……だっけ」

 反応したのは、ジョン。乙女のほうは相好を崩し、

「ああ、覚えててくれたんだあ!あはは、うれしいね」

 大きな籠を両の腕で抱え、背負子にもどうやら重量のありそうな荷物。にも関わらず、屈託ない笑顔は……いえ、この状況――戦地で笑顔を絶やさない心がけ。すこし日に焼けた頬、働き者の手。

「うむ、やはり野に置け蓮華草、というやつだぞジョン」
「見境なく摘まねえよ!俺をなんだと」
「きゃらの!あそびにん!!」

 あっはっは、とメイアーさん。

「で、どうなん?調子は」
「んー、まあまあ。できることは大体したし……つかメイちゃん、なにしてんのこんなところで」

 逃げもしないで。それを口には出しませんでしたが、うん、当然の質問です。ジョンの知り合いであるなら尚更、今のブリンドルの状況は誰よりも詳しく知っているはずですし、早々にデノヴァーに逃げ出していてしかるべき、です、よね?

 ……あー、いえいえ。ミハの一件があったので要らぬ疑いをかけてしまうのですね。いけません。司祭ともあろう者が、人を疑ってかかるようでは世も末。

「いやー、ほら。うちちっこいの多いしさ!デノヴァーあたりには親戚もいないしさ!こりゃもう穴に賭けるかって!!」
「穴かよ!!」

 うっかり突っ込むジョンに、メイアーさんはからからと笑って、

「慌てて逃げ出すより、ギリギリまで様子見るほうに賭けただけっさあ!最悪、川使って逃げようと思うし?」
「あー、川近かったなメイアーのところは……」

 ほう、彼女の御宅をご存知かね術師殿。という視線のサンダース。
 羨みの欠片もない、透明な笑顔のバッシュ。
 わっしょい!わっしょい!嫁取りワッショイ!と無言賑やかしモードのクロエ。

「……待て、なんだこの空気は?!なぜ俺が場の真ん中にいるんだ?!」
「きゃらの!いまジョンのあんちゃんがシーンプレイヤー!!盛り上げるのが常識で礼儀!!」

 な、と二の句を告げないジョンに、メイヤーさんが耐え切れないように口元を抑え……笑ってます、笑ってますよ。

「この際だから『この戦争が終わったら……』的フラグ立てを手伝ってもらうといいよ!!」
『しぬ!』「死ぬよ!」『そんなことしたらまじでしぬ!』「『俺……この戦争が終わったら、結婚申し込むんだ……』とか、ありえない!」『そーさらーは“じんくす”だいじにするんだから!』 

 ジョンとスーが音声と念話とでひどい勢いの反論をすると、よろよろと壁に手をつくメイアーさん。

「ひどい……アタシとのことは遊びだったのねえー……」
「まだ何にもしてねえよ!」

 メイヤーさんも含めて、どっと起きる笑い。うむ、“まだ”か。と顎を撫でるサンダースの声を聞き取ったのは、私以外に、果たしていたでしょうか。
* * *

「はいご注目ー」

 メイヤーさんの荷物。それは、その晩開かれた宴会のための料理の材料でした。ちいさな屋敷のちいさな庭に、あちこちの空き家から勝手に運んできたテーブルと椅子とが並べられ、メイアーさんの知り合いである民兵のみなさん、そして子供たち。大人だけで、20人くらいいるでしょうか。こうなると、まさにちょっとしたパーティといった風情で

「はいはいご注目ー」

 すこしつよく空樽をノックするジョン。隣には所在無げに立つバッシュ。

 この集まりは、メイアーさんが知り合いの兵隊さんたちと子供たちのために用意した、今夜限りの宴会です。――明日にも始まるかもしれない、命を……命のうえに、祈りまでもが賭けられた、勝ち目の薄い……いえ、得るところのない、殺し合い。

 このくらいしかできること、ないしさあ。

 メイアーさんは、そう笑って芋を剥いていましたっけ。

 ――おおぅ、なにすんだあんちゃん!! ――どれ!見せてみ!火ぃ吹け!飛べ!

 やんやの喝采の中、二人がかりで樽を横倒しにし、なかを検めさせるジョン。舞台下から飛ぶ口笛。
 すこしの勿体をつけた後、ジョンはいかにも魔法使いらしく呪文を唱え、手指をくねらせると、引き起こされ立てられた樽に手を差し入れては、まるまると太った兎を次から次へと取り出して、隣に立ったバッシュに押し付けて行きます。

 ……《サモン》の呪文ですね。そんなことに魔法を……ああ、えっと。巨大な蜂とかを出すよりも受けがいいですよね、兎のほうが。

 兎を散々出して、ようやく中が空になった(らしい)のを芝居じみた仕草で確認すると、ジョンはバッシュの肩を借りて、樽の中へ。
 ひょい、とマントの裾が樽の中に引き込まれると、バッシュが、無言で佩剣を引き抜きました。どよめく宴席。

 不安そうに、こちらと舞台とを交互に見るメイヤーさん家の孤児たち。

 私は、これから何が起きるのか判らずに怯える子供たちに、黙って見守るように、と唇に人差し指をあてて微笑んでみせました。舞台の上では、二度深呼吸したバッシュが、いつもの強打を繰り出す腰矯めの構えを――取ると、裂帛の気合と共に、

 樽の上半分を切り飛ばしました。

 ひゅっっとどこかで息を呑む音。樽は、もう膝ほどの高さしか残っていません。返す剣で、その残った樽の残骸も――粉々に。

『ひあー』

 残骸の陰から逃げ出してきたのは、スー。……猫ほどの大きさの、翠色のニセドラゴンです。バッシュが樽の破片も蹴り飛ばせば、舞台の上にはもうなにも残っていません。

 目を丸くして、説明を求める表情であちらとこちらを梟のようにきょろきょろする子供たち。

「いちばんいいところを見逃しますよ?」

 ちいさく声をかけると、子供たちは食い入るように舞台を見つめ――一瞬の間があって、

「はっはー!!脱出成・功!!」

 庭の一番隅の、かがり火に近いテーブルでタンカードを掲げるジョン。庭中から上がるどよめきと賞賛の声、拍手と口笛。

――《トランスポジション》ですよねー。生半な奇術で誤魔化さないあたり、誠実なのやら手が抜けないのやら。

「うむ、単に宴会芸の持ち合わせがないのです司祭」
「きゃらの!クロエたち“ちゅうしゃじょうのかんりにん”もできない戦闘屋ウォーモンガー !芸もやっぱり実『戦』的!!」

 ……とかなんとか言いながら。

 芸披露の締めを、蛍のように華麗に舞う《ダンシング・ライツ》で飾ったサンダースは、と言えば、

「ダスクずりー」
「……」
「元気だしなよ!さっきの魔法、すごかったじゃない!」

 子供たちの尊敬の視線も独り占めで。

「スーとバッシュの手まで借りたのにー。サンダースのオサレ呪文のほうが受けがいいのは納得いかねぇー」

 けらけら笑いながら、メイアーさんがジョンにもう一杯勧める傍らで、バッシュは兵隊さんたちと何度目かの腕相撲を始めており。

「うにゃー、食った食ったよー」
 応。

「――楽しかったですか?」
「面白かったー。……ねえアルウェン」
「はい?」

「うん。……ぜったい、勝とう。赤いのも白いのも青いのもハーンも全部やっつけて、もういっかいやろう」
「ええ」

「ん……うん、それまでに、コンボイに新しい芸を仕込まないと……」
 応。

 自分の言葉に照れたか、ごにょごにょと言葉を濁すクロエ。ふふ、普段もそのくらい素直だと可愛いのですけれど。

――宴の間中、庭のあちこちから自然と生まれた歌声は、星歌う丘のエルフたちとはまた違う、若い種族人間らしい生き生きとした命と希望にあふれた音階で。

 私も、小さくその歌声に和してみたりしたのでした。
* * *

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