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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』39・31~32日目 魔女の森~ヴラース砦~曲がり牙のウォークルノー

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(良し月18日、神の日。日記31日目)

 《イージートレイル》《ウインド・アット・バック》《ウォーターウォーク》。全て組み合わせることで、我々は野外を時速10マイルで、直線的に、歩いて移動することが可能です。1ヶ月前に見た巨人の領土のしるし。そこまで、あと5マイルほど残したところで、私たちは野営地を組みました。

「魔女の森、静かになったな」
「ナイトツイストが滅んだので、邪気が祓われたのかもしれん」
「きゃらの!森の主を倒したから、サンダースのにいちゃんが新しい森の主になったんだよ!でまかせだけど!」

 ひと月前、私たちにあれほど死と恐怖を間近に感じさせたあの森が、今は自らが踏みにじられる恐怖をかすかに伝えてきます。いいえ、森を恐怖するのも森を慈しむのも、どちらもひとの心の裏返し。アローナが森を育むのは、森の持つ神秘と奇跡を愛するから。ここに生えている木々は、きっと私と同じかもう少し年下でしょうか。魔女の森の木々を見ながら、私は胸のうちでつぶやきました。だいじょうぶ、あなたたちは私たちが守ります。

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(良し月19日、水の日。日記32日目)

 翌朝、どくろ大橋とブラース砦の中間あたり。暁街道は酷く踏み固められ、その両脇の木々や草草まで焼かれ、刻まれ、踏まれ。切り倒された木の幹は、ぬかるんだ地面を埋めるように乱暴に投げ出され。万の大軍が通り過ぎた爪あとが、うち捨てられた武器やかまど、行軍に追従できなかったゴブリンの死体や大量の汚物、という形で、街道全域を汚し切っていました。
 これだけ踏みしめられ、穢されては、たっぷり100年は草も生えない不毛の土地となるに違いありません。

「こりゃあ……ひどい」

 巨人の領地を示す素朴なつくりの柱も然り。戯れに弓の的にされ、切り付けられ、汚物をぶつけられ、火をかけられ。そうして、仕舞には引き抜かれて、踏み分け道の手前にうち捨てられていました。

「うーっ、赤い手ゆるさん!かならずギャーって言わせてやる!!」

 果たして、巨人たちは無事でしょうか。私たちははやる気持ちを抑えて、巨人の領地へと足を踏み入れました。

* * *
ゴブリンの死体。
 ゴブリンの死体。
  ゴブリンの死体。ゴブリンの死体。の死体。

「きゃらのっ!!地面が3!死体が7!」

 進むにつれ、急速に辺りがゴブリンとホブゴブリンの死体だらけになってきました。中には腐り始めているものもあり、酷い臭いを発しています。

「これはいったい」
「なんだろうなあ、なんとなく予想はつくけど」

 砦ほどもある巨大な朽木をくりぬいて作られた、巨人の家。バッシュの《レイ・オブ・ザ・ランド》で、それがあることは50マイル手前から確認済みです。問題は。

「あっ!巨人だ!巨人が座ってる!」

 クロエが目ざとく、家の真ん中に座る巨人を指差しました。ドアは破れ、力なく座る巨人の身体にはあちこちに矢が刺さっています。足元は、さまざまな攻撃をうけたのでしょう、血が流れ、いくつもの痣が見て取れます。傍らには一抱えもありそうな棍棒を立てかけて。

「まて、様子がおかしい」
「とりあえずここから声をかけよう。……おーい」

 ぬう、と巨人が立ち上がりました。俊敏さはありません。大儀そうに、しかし確りとした意志を持って、傷だらけの巨人は、どす黒く血に染まった大棍棒――たっぷり10フィートはありそうな――を持ち上げました。

「こんのぉ……またぁ…森ぃ、荒らしにぃ……来ただなぁ……ぁぁあぁ……」

「ヤバイ、あの巨人、目の焦点があってない」
「ど、どういうことですか」
「狂乱状態だ。多分絶え間なく押し寄せるゴブリンどもを屠りまくってるうちに、間合いに近づくもの全てを等しくすりつぶす魔神モードに」
「あわわわわ」
「さすがにこれは予想していなかった」
「ち、近づいてきましたよ?!」
「とりあえず、逃げよう!!」

* * *

* * *
「どうもすまねえだ」
「そりゃお互い様だ。とにかく正気に戻ってくれてよかったよ」
「気に しないでください。 私の 名前は バッシュです。あなたの なまえは なんですか?」
「きゃらの!また翻訳口調だ!巨人語だから言ってることはわからないけど、多分自己紹介!!」

 ひとまず下がり、強化呪文で戦力の底上げをした私たちは、狂乱した彼――巨人の名はウォークルノーといいました――の頭の血をちょっと下げるために、死に物狂いで避け、近づき、殴り、そしてようやく、気絶させることに成功しました。

「ゴブリン共が棲処の辺りの森を荒らし始めたで、必死で戦ってるうちに、もうワケが分からなくなっちまって……いやあ、こっ恥ずかしぃ」
「きゃらの!それが赤い手の連中だよ!ウォークルノー、力を貸して!」

 巨人語を解するバッシュが、エルシア谷の現状について掻い摘んで説明しました。ゴブリンの大軍が100マイル東の人間の都市まで、12日の距離に迫っていること。人間とドワーフとエルフは、これに立ち向かうべく力を合わせていること。それでも、ゴブリンたちを止めるにはまるで戦力が足りないこと。曲がり牙の巨人族も、力を貸してほしいこと。

「おし、わかっただ。おらこれから北の仲間たちさ呼んで来る。間に合うかどうかはわからねえが、森をあんただことにしちまうゴブリンどもは見逃せねえし、あんたらの事もほっとけねえべ」
「ありがとうウォークルノー。それで、これ、あんたがたのものだと思うんだけど」

 クロエがコンボイの背のバッグ・オヴ・ホールディングから、ブラース砦で見つけた超巨大ガントレットを取り出しました。

「おお!こらあ一族の宝“曲がり牙の戦篭手”!ありがとうちっちゃい嬢ちゃんとちっちゃい猿!これ見つけてきてくれたんだったら、はあ手助けしねえわけにはいかねくなっただな!!」

 ウォークルノーは三界の宝を一身に集めたかのような喜びようです。そして、クロエももの凄く嬉しそうでした。
 私たちは、彼と昼食を共にしたあと、それぞれの目的地に向かって再び出発しました。ウォークルノーは北へ。私たちは、東へ。

「この1ヶ月、あのでっかい篭手ずーっと気になってたんだ!よかった!持ち主に返せて!!」

 善意で微笑むとき、人間はなんて可愛い顔をするのでしょう。私は、クロエに微笑み返しました。前を行く男性陣も、時にはこんな顔で笑ったりするのでしょうか。

 翌日午後、私たちは無事ブリンドルに戻りました。赤い手の軍勢の到着まで、あと11日。

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