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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』38・30日目 ブリンドル砦の御前会議

* * *
(良し月17日、月の日。日記30日目)

「ゴブリン恐るるに足らず!門を開け、東の平原で敵を討つ!」

 御前会議で、ブリンドル侯ジャルマース卿が声を上げました。カール女史が冷ややかな目でいきり立つ卿を見ています。

「アルヴァース隊長、現在の兵力は」
「は、ブリンドルの獅子騎士団が196名、町の警備団が常駐182名。臨時召集した民兵が約800。傭兵、輝く斧の団が200ばかり。それと」
「わたくしの私兵は含めないでくださいましな」

 カール女史が口を挟みました。

「あくまで私兵。私の屋敷と財産を守るために使わせてもらいます」

「結構!ブリンドルの戦士は強靭にして勇敢!たがだか4000のゴブリンの軍勢、蹴散らしてくれよう!」
「閣下!4000はテレルトンを包囲した一群のみ、しかも赤い手の軍勢はゴブリンのみならず魔獣や竜を従えているのですよ!いったいその軍事目的が何なのか、どれだけの軍団が別働しているのか、全体でどれほどの大群であるのかは、谷の誰も知らないのです!」

 私は声を張り上げました。

「だか篭城戦をすれば街に被害が及ぶではないか。それはカール女史も望まぬところ。野戦は騎士の誉れ、戦士の花道!トレドラ殿、ご案じめさるな。街に及ぶ脅威はこのジャルマースがすべて払いのける!ペイロアの輝く眉にかけて!」
「しかし!」
「結構結構、“アローナ急行”の諸君!君たちの働きのおかげで、われらは悠々と兵を整え陣を組み、平原にてやつらを迎え撃つことができる!これも君たちのおかげだ!」

 この一時間、おなじ話をどれだけ繰り返したことでしょう。戦術戦略に長けたジョン=ディーの意見も、赤い手の魔獣たちと切り結んだバッシュやサンダースの意見も、テレルトンの燃え落ちる様を目の当たりにしたクロエと私の意見も、ジャルマースの耳には届かなかったのです。
 まさか私たちの稼いだ時間の余裕が、彼にこれほどの慢心を生むとは。私は指が白くなるほど膝を握り締めましたが、次の言葉が出てきません。

「きゃらの!まだ北の巨人がいる!クロエが探して味方につけるから、それまで待ってよ殿様!」
「北の巨人など、いるはずがない」

 ジャルマース卿はクロエの訴えを鼻で笑いました。人に味方する“北の巨人”。それはエルシアの谷に伝わる、“獅子窟の死霊王”同様の、冬の暖炉で語られる御伽噺。ジャルマース卿の反応も無理からぬことでした。

「仮に見つけても、2週間後の決戦に間に合うよう合流させられるものかね」
「……!」

 クロエは席を蹴って、後ろも見ずに会議室の外へと駆け出していきました。

「あの子……」
「うむ、泣いていたな」

* * *
「なんとかしなくちゃ」

 クロエが鼻をすすりあげながらつぶやきます。

「うむ、予想外の結論だ」
「ジャルマース卿、会議中ずーっとトレドラさんの方を見てたぜー」
「お殿様は“輝く眉”の前でええかっこしい、ってことだな」
「まずは女史や街の有力者、ほかの神殿や司祭たちの意見を篭城側に引き込みましょう」

 まだです。まだあきらめるわけには行きません。われわれが2週間の猶予を作ったのは、断じて暗君に兵を無駄死にさせるためではないのです。

「幸い、まだブリンドルでの戦端は開かれていない。やれることをひとつずつやってみよう」

 わたしたちは互いにうなずくと、雑踏を掻き分けて走りはじめました。ああ、清浄なるアローナよ、戦神コアロン・ラレシアンよ、われらを善き道へとお導きください!

* * *

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