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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』36・27日目 魔女が瀬の村~赤岩の町

* * *
(良し月14日、地の日。日記27日目)

 明けて翌朝。皆で食事を振舞われながら、互いに切り出す機会を見計らって、つい黙々と朝食は進みます。

「あのさあ」

 ジョン=ディーが耐えかねたように口火を切りました。

「……聞こえた?」
「……うむ、聞こえた」
「……聞こえたな」

「ご老人、あのう、昨晩のあれは……」

 老人は無言で首を振り、食事の続きを促します。昨日の約束どおり、アドランナがもう一度私たちの覚悟を問いただしに来るのでしょう。それまではあの歌声の話も無用、ということのようでした。

* * *
「いかがですか」

 食事後、出立の用意を済ませた私たちを見ていたかのように、森の中からアドランナと白い狼が現れました。

「耳ざとい方には聞こえたかと存じますが」

 やはりあの歌声がドルイドたちの懸念なのでしょう。クロエの台詞は我々の総意でした。

「きゃらの!なんだかわかんないけどあれは邪悪な感じがした!アレをぶっ締めてくればいいのか?!」
「ナイトツイスト。私どもはあれをそう呼んでおります」

 アドランナの話は、つまりこういうことでした。
 魔性の歌声で犠牲者を呼び寄せる邪悪の樹、ナイトツイスト。ドルイドたちはナイトツイストに生あるものが不用意に近づかないよう、またナイトツイストが獲物を求めてさまよいだすことのないよう、この森をひとつの結界として守り続けてきたのでした。

「しかし」

 赤い手の軍勢。彼らの邪悪の気に呼応するかのごとく、ここ一月ほどでナイトツイストの声は日増しに大きく強くなってきている、ということ。ドルイドたちはいま必死でナイトツイストの結界を維持しているということ。森を離れることは囚獄を開け放つに等しいこと。

「なるほど、これはあれだな」
「ナイトツイストブッ千切る!ドルイドたち自由になる!勲に感謝したアドランナはクロエの言うこと聞いてブリンドル助けてくれる!きゃらの!!わかりやすい!」

 応、とコンボイも吼えました。

「よっし、行くか」
「ナイトツイストの居場所を教えてください」

「……噂に違わぬ方々だ」

 アドランナが溜息を吐きました。

「噂?」
「ああ、鳥と樹と森の獣が口々に。魔女の森を鷹よりも速く駆けてゆく、勇敢な冒険者の一団がいると」
「ぜひ『そいつらに手を出すな』と付け加えてくれませんか、いやマジでマジで」
「そなたらを悩ますのは魔獣か蟲でありましょう」

 くすりとアドランナが微笑みました。

「だが気をつけなさい“アローナ急行”。ナイトツイストの歌は魂を千千に乱し、その硬い外皮は刃を寄せ付けませぬ。邪悪な魔力はそなたらの気力を奪い、仮に首尾よくナイトツイストを滅ぼしたとしても、その怨念は止めを刺したものを呪い殺すでありましょう」

「……マジで?」
「無論」

* * *

「歌だ!歌が聞こえる!クソ、どこだナイトツイスト!」
「冷静に!歌のことはアドランナから聞いていたじゃないですか!」

 200ヤードも先から身の毛も立つような歌声が響いてきます。生と善と光とを全て否定するおぞましい呪いの歌でした。

「呪力だ。邪悪の樹め、身の軋りを歌に見立てて呪いを乗せている。生者ならこの音を止めようと必死で音源に駆け寄るだろうな」
「《ディスペル》できないのですか?」
「多分無駄だろう。クロエとコンボイは無事か?」
「コンボイ馬鹿だから歌の意味分かってないさー」
 応、と大猿が吼えます。

「そこか!クソ、この歌を止めろ!!」

 バッシュとジョン=ディーが駆け出しました。

「まずい、先行しすぎるな!」

* * *
 竜の体躯よりも巨大な、
 巨人の物語よりも古い、
 獅子窟の死霊王より邪悪な、

 その樹は、そんな存在でした。

「《ディーパー・ダークネス》?そんな呪文も使うのか!」
「ぎゃああああ!なんか出たー!」
「落ち着け!《ファンタズマル・キラー》だ!うっかり信じ込むと幻影に殺されるぞ!」
「死ぬ!即死する!」
「《コマンド・プランツ》!アローナの名において、樹よ!動くな!……効かない?!」
「ぎゃああああ!また出たー!」
「呪文発動に割り込む!《オルター・フォーチュン》!……因果をも飲み込むの?!ナイトツイスト!」
「大猿召喚ー!この際逃がさないし近寄らせない!ていうか近づかれたら死ぬ!」
「げ、幻影と分かってても死ぬかと思ったー!!」
「ああもう、物理的に片付けるしかないのですね?みんな行きますよ!!《ブレッシング・オヴ・ザ・ライチャス》!!」

「キター!!いっくぞおおおお!!《ギラロンズ・ブレッシング》!コンボイ!!!」

 くあ、とコンボイが顎を広げました。彼は、その瞬間に声を上げることをしません。獲物に襲い掛かるとき、無音で為すのが最上と言うことを訓練で知っているからです。

「なるほど、確かに剣は効かないようだ!なら即行!《ヴァンピリック・タッチ》!そしてウォーハンマー!!」

 そして、次の刹那に、豪腕と鉄塊と正義の祝福とが暴風のごとく吹き荒れました。

* * *
「死ぬかと思った」
「毎回言わされてますよね」
「うむ、今度こそ死ぬかもしれない」

 いつに無くサンダースが悲観的です。

「奴の断末魔が耳に付いてはなれない。生物は全て滅ぶ定めなのか」
「きゃらの!止めさしたのサンダースのあんちゃんだったか!」
「あー、呪いってこういうことかー」
「俺が倒した漢たちの恨みの声が聞こえる。きっと俺は今晩悪夢を見るだろう」

 歌の呪縛から解き放たれたバッシュが晴れ晴れとした顔でサンダースに肩を貸しています。ジョン=ディーとクロエはナイトツイストの犠牲者の遺品を掘り起こしています。

 ごめんなさいサンダース、今日は《リムーブ・カース》を用意していません。明日の朝一番で解呪しますから今日の夢見は根性で乗り切ってください、と彼の背中に無言で手を合わせてから、私もジョン=ディーとクロエを手伝うことにしたのでした。

* * *
* * *
 ナイトツイストを倒した足で、私たちはそのまま東に向かいました。目的地は“赤岩の町”。ブリンドル周辺に点在する町でも、鉱山と言う特殊な産業をもつ活気ある町です。

 街のあちこちで見かける亜人の数も多く、辺境らしい自由さと猥雑さが、雑踏からも市場のざわめきからも見て取れます。金属製品を打つ槌の音も行きかう馬車のいななきも、ブリンドルに迫る悪夢のような軍勢のことなど知らぬ気に、この町の日常という音楽を楽しげに奏でていました。

 私たちは鍛冶ギルドの長に、エルシアの谷に迫る脅威についてお話しし、ブリンドルへの軍事物資の調達について便宜を図ってもらえるよう嘆願したのち、日暮れまでに“魔女が瀬”へ戻り一泊しました。
 防衛戦に兵を出してくれ、と頼まなかったのは、ひとつには“赤岩の町”は地勢的に山際であるため、赤い手の軍勢の脅威に直接さらされるわけではないこと。ふたつめに、衛星都市の常として、維持できる必要最低限の軍備を、町の治安に振り向けていることがよく分かったから、でした。
「戦力を結集したいのは山々だが、彼らを駆り出すだけの大義も金もない」
「直接の危険もまだ見えてこないしね、ここまで田舎だと」

 そう、私たちがきっと、戦乱の最初の前触れなのです。赤い手の噂が恐怖とともに語られるのには、もう少しの時間が必要なのでしょう。

 私たちはこのとき、それがどういう意味なのかについて、深く考えることをしていませんでした。

* * *

 赤岩の町、余談。

# # #
「ええと、ブリンドルに着いたのが24日目、ジョン=ディーが使い魔昇格の儀式をしたのが25日、再出発したのが26日で」
「つまり魔女ヶ瀬で一晩明かした今朝は27日目だ」
「……間違えてますね」
「ミハと話したのは25日の買い物の最中か26日の出発前だろう?」
「25日なら俺儀式中で中座できなかったし」
「実際に話したことと、あとで情報交換したこととをその場で行った会話のように再構成してるから、そうなるんだ」
「……!なんでみんな私の日記を見てるんですか?!」
「見てない見てない、アルウェンの独り言につい突っ込んだだけで」
「うん見てない。俺エルフ語読めないし」
「きゃらの!やっぱり共通語で書くべきだと思う!みんな読めるようになるし!」

 わーん!アローナ、我が神、これはいかなる試練でございましょうか?
* * *

「という夢を見ましたよ」
「きゃらの!夢オチとは大胆不敵!ていうかもっと面白い夢みろー!」

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