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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』32・23日目 ~ハンマーフィスト館

* * *
(良し月10日、月の日。日記23日目)

 今日も野を進むことしばし。といっても、もうドースの手前くらいまで来たころだったでしょうか。曇り空の向こうで、日は中天にあり、午後もそこそこ暑くなりそうな風向きのなかに、異臭がひとつ。

「……匂う」
「? 敵か」
「血と……臭い、ゴブリンの匂いだ」
「!」

 なだらかな丘の上まで駆け上がれば、足元を走るのは村々を繋ぐ南の細道。馬車がすれ違うのがやっとの、踏み分け道です。
 道脇のポプラに押し付けられた馬車には、ゴブリンたちが数匹取り付き、互いに罵りあいながら中のものを漁り奪い合っています。馬は……いません、逃げたのか殺されたか。手前にはぐったりと横たわる鎖帷子の戦士が2人、身につけた青と白のサーコートは戦いのなかで裂かれ、真っ赤な血で汚れています。
 馬車の傍らで周りを見渡すように立っているのは、頭を二つ持つ巨人が2人。

「エティン!」
「倒れてるのは獅子騎士だ!救え!」

* * *
 もちろん、あっという間に全部退治し、二人の騎士団員も無事命を取り留めたのです。

「うむ、無事かね騎士くん」

 治癒の小杖で彼らの傷も癒え、戦いの名残は汚れてしまったサーコートと盾くらいにしか見当たりません。私が肩を貸し、サンダースが手を引いて彼を立ち上がらせます。もう一人はコンボイが荷台の上に座らせて、汚れをかるく叩き落しているところでした。一方で、エティンとゴブリンの死体を検分するジョンとバッシュ。

「危うく殺されるところだったよ、ありがとう。しかし……馬を殺されてはもう荷を運ぶこともできない」

 騎士の視線の先、道の向こうに、逃げそびれてエティンに殺されたと思しき馬の死体が横倒しになって、無残な姿を晒しています。

「もう一頭は無事に逃げてくれたと思うのだが」

 口惜しげな表情で、荷台の仲間を見やります。荷は無事だ、と荷台の騎士が答えました。ゴブリンに切り裂かれた帆布の下には、大きな木製のチェストが3つ。

「火急の用ですか?」

 騎士は溜息をついて、事情を教えてくれました。

「ブリンドルの防衛に、名高きドワーフ氏族の戦士“輝く斧の団”を傭兵として迎え入れたいと、依頼の手紙と前払い金を護送している途中だったのだ。だが……もうだめだ、馬でもあと1日半はかかる道のりだというのに」

 腰に下げた鞄を右手で抱え、遥か南のほうを見やる騎士どの。

 馬で1日半、ですか。

「お使いか?」「宅配だ」「依頼だな」「久しぶりですね」「きゃらの!」

「ではその手紙、我々が届けましょう。えーっと、今日の夕方くらいまでに」
「ば、馬鹿な!日は傾いてはや午後ですぞ!日が暮れるまで歩いても5、6時間しかないというのに」
「あ、そこはそれ3時間くらいで間に合う、多分」
「うむ、すると今日は屋根の下で眠れるな」
「ドワーフ!ばっちゃが言ってた!ドワーフのお姫様は
 http://queensblade.net/character/char_009.php こんなで
 http://fujimishobo.co.jp/sw/20080225DWFF.jpg こんなだって!」
「どこでそんな本を買ってくるんですかっ」
「これはデノヴァー!ブリンドルにはまだ入荷してなかった!」
「ふむ。流石、交易の都デノヴァー。何でも売っている」

「……ジョン=ディー、そっち持ってくれ。金貨をバッグに移そう」
「うわー流石に6千は多いな」
「コンボイのホールディング鞍袋で間に合うだろ」

 さくさくとチェストの錠を外し、中身をコンボイのバッグ・オヴ・ホールディングに移し替えるバッシュとジョン。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたら一体何者なんだ?」
「うむ。我ら“アローナ急行”、『地上最速』を標榜するもの。ジャルマース卿のお味方だ」
「……そしてゴブリンの敵、さ」

* * *
 獅子騎士の二人から手紙と支度金を預り、ジョンの見込みどおり3時間後。
 飛竜の高見山脈の手前、茶色の丘々と呼ばれる丘陵地帯。ヒースが茂る谷の平地とは違い、カモガヤが緑濃く生い茂る、起伏に富んだ丘と丘の間には、日陰を好む潅木が茂っていたり、まるい姿の若い樫がぽつぽつと生えていたりして、見飽きることもなく、とてものどかで素晴しい風景です。

 さて、ひときわ大きな丘の中腹、切り開いた崖を背にした、その館こそが『ハンマーフィスト館』でした。岩の中に食い込むように造られた、2階建てほどの飾り壁とバルコニー兼防衛胸壁、そして両開きで四角い、黒大理石造りの城門扉。ドワーフ好みの、直線と戦の風景を多用した、名工の作品とも呼ぶべき砦が、その館の正面の姿だったのです。

「あー着いた着いた」

 日はまだ西の中ほどにかかったばかり。ぐっと日が沈むのは、この季節ですとそうですね、夕食の後くらいになるのではないでしょうか。

「デカイ屋敷だな!」
「さすがドワーフ氏族の砦、重厚な佇まいです」

 暢気に屋敷の品評などしておりますと、

「何者だ!」

 胸壁の上から、クロスボウを携えた鉄兜のドワーフが二人、胡散臭げにこちらを見下ろして誰何しました。

「はい、ええ、……私たちはブリンドルを治めるジャルマース卿の依頼を受けた、冒険者の一団です」

 バッシュが少々つっかえながら、礼儀正しく頭を下げました。
 
「何で翻訳調なのー?」
「ついドワーフ語を意識したとか」
「マイクとケンは元気かなっ!」「誰だそれ」「ドルイド語の教科書のキャラ!『これはペンですか?』『いいえ、それはトムです』とかって!!」「与太もいい加減にしろ」

 バッシュの返答を聞いて、ドワーフの衛兵が髭に埋もれそうな目を丸くしました。

「おお、ジャルマース卿を知っているようだ」
「話が早くなりそうですね」

「ぬぅ!お主らもしや“アローナ急行”か!」

 予想外の反応に、サンダースが当然とばかりの返答をします。

「如何にも。氏族長のオスレクどの、“輝く斧”の団長エルヴァスどのにお目通り願いたい」
「良かろう。ハンマーフィストの門は強きものを歓迎する。開門!!」

* * *
 すこし天井の低いことを除けば、館は大変にすごしやすいつくりをしていました。ドワーフの砦にしては珍しく広く、また共有区も広間の形でおおきく取られており、そこに昼の訓練を小休止して集まってきたドワーフたちがざっと100人以上。みな斧や盾を携えており、身につけた鎧は自らの手になる実用的な鉄の帷子や胸当て。
 珍しい客であるところの私たちを取り囲むように立ち、小声で言葉を交わしているのが、ざわざわとしたざわめきになってひどく賑やかです。

 正面には、移動式の玉座を据えてどっかと腰を下ろしたハンマーフィスト氏族長、オスレク老。そして、傍らに立つ巌のようなな戦士がエルヴァスさん、でしょうか。

「……というわけで、ブリンドル領主の手紙を持参した次第です。中身は傭兵契約書、報酬は前払い、働きによっては褒美も考えがある、という」

 交渉はわたしの仕事、ですが、……ドワーフの顔を読むのは苦手です。むっつりと私の口上を聞いていたドワーフ――エルヴァスさんが、重々しく口を開きました。

「あい分かった。して前金は」

 そこで、ちょっとした悪戯心が動きました。印象的な光景で、数字よりも心に訴える契約を、と。

「では、館で一番大きな器をご用意ください」

 傍らの若者に、小さく肯いて指示を出すオスレク老。しばらくして、盾のように大きな銀の盆が二人がかりで運ばれてきました。私たちと玉座の間にそっと置かれる銀の盆に、

「じゃ、クロエ、お願いします」
「きゃらの!」

 コンボイが、肩にした鞍袋を逆さにして、二度ゆすりました。

 一瞬の間があって、そこから滝のように溢れでる金貨。ちりちりと鳴り響きながらみるみるうちに金貨は山になり、銀の盆からこぼれ落ちます。そして、周囲のドワーフたちからはどよめきと歓声が上がりました。

 最後の一枚が転がり出たのを、右手に受けて。邸内のランタンの明かりを受けてきらりと輝く金貨を、ドワーフたちが息を飲んで見守る中、山を崩さぬよう頂上に積み上げると、ちん、と澄んだ金貨の音が広間に響きました。
 そっと下がり、手は腰の前に組み、オスレク老に一礼。――優雅に見えるとよいのですが。

「前金で、6千。エルシアの谷を守るため、どうか兜割る輝く斧の力をお貸しください」

 感心したような、ふむう、という唸り声のあと、よかろう、とオスレク老が宣言しました。

「前金に文句はない。エルヴァス、どうか?」
「報酬にも敵にも異存はござらん、金貨を貰ってゴブリンと戦えるとは望外の喜び」
「よし。では者共、戦支度だ!」

 館を震わせるほどの鬨の声。気の早い戦士がさっそく戦支度、旅支度とばかりに広間から駆け去ります。

「お主らはさて、どうするね」

「では、一晩泊めて下さいな。貴方がたが傭兵たるを引き受けたことを、ブリンドルに伝えなくてはなりませんので」
「あい判った。客人用の寝所を提供しよう。そして、ジャルマース殿には我ら5日後に合流すると伝えられよ。貴君らが街に戻ってすぐ位になろうの」

「いやいや、俺たち明日の夕方には多分ブリンドル着いてるから」

 ジョンがまぜっかえしました。

「なんと!ここからブリンドルまで馬でも3日はかかろうぞ?!」
「すると60マイルほどか?我らの『地上最速』は伊達でもなんでもない」

 サンダースがにやり、と笑いました。オスレク老とエルヴァスさんの目が、自信たっぷりな我々の真意を量りかねて、こちらと互いとを何度か行き来しています。

「ふむ、つまり、つまり……《転移》かね?」
「いえ? 歩きですよ」

 歴戦の勇者が二人、目を白黒させて互いを見たり我々を凝視したり。……驚いて声もない様子です。クロエとバッシュが、笑いをこらえているのか、目の下がすこし赤いのがわかります。ジョンのニヤニヤはいつものことで、私は……私はといえば、やはり誇らしげに微笑んでしまっていたのでした。

* * *

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