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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』27・22日 荒れ野からテレルトンへ

* * *
(日記22日目、良し月9日・早朝)

「地中から蟲!蟲です、みんな起きて!」
「……うぉっ。寝たままのジョン=ディーがアンケグの顎にっ」

「うむ、では《ディメンジョン・ホップ》」
「食われるー!…は、夢?!…ぎゃー、マジで痛ぇー!!」
「んもー《エンタングル》!そこ動くなバカ蟲ー!」
「秘術注入――《ショッキング・グラスプ》」

 雷鳴一閃。

「やった!さすがサンダース!!!」
「もう一体がいません?!」

 獅子窟から半日分遠ざかり、迷路のような“いばらの荒れ野”の片隅で張った宿営。獣も通わぬこの荒野で、我々を襲ってきたのは、やっぱりと言うかなんというか、蟲でした。

 ただし、馬ほどの大きさの。

 巨大な顎と平たい体を生かして、その二頭の蟲たちは地中から私たちを襲ったのです。

「アンケグだ!!つがいってことは産卵期か?!」
「ジョン!ジョン無事?!」
「な、なんとかなった」

 身長の倍ほどの岩の上に、サンダースの《ディメンジョン・ホップ》で避難させられたジョンが、額に血を滴らせつつ親指を立てます。

「今治癒呪文を」

 かけます、と一歩踏み出したとき、ジョンの足場にしている岩が、目の前で、すこん、と縮みました。

「え?」

「岩が沈んだー!」
「アンケグがあの下を掘り抜いたんだ!」
「うむ、届かない場所にいるなら場所を引き寄せよう、ということか。本能とは侮りがたいな」

「何としても幼虫のエサを確保する方針かよ!ったく!!」
 嗚呼ー。
 
 ジョンの指示か、すいと飛び去るカラス。

「……来るか?」
「……うむ」

 次の一撃に備え、転移術を用意するジョン。蟲が飛び出すと同時に仕留めんと、武器を低く構えるバッシュとサンダース。

 ……しかし、相棒の死を悟ったか彼らの殺気に恐れをなしたか。アンケグが地上に現れることはありませんでした。

「……逃げたか」
「うむ、危なかったな。あれがアンケグと言って、この穴に引きずり込まれて帰ってこなかった冒険者は星の数」
「うわー知っているのか雷電と書いてサンダース!!」

 倒した一体の背後には、そのまま地中にに延びる深く暗い穴。屈めば何とか進めそうですが、

「埋め!マジ埋めで!!」

 コンボイとクロエが瞬く間に穴を均してしまいました。

「……相手の得意領域にわざわざ踏み込むこともないしね」
「誰も連れ込まれなかったからな」
「あああー、もう寝ようぜ」

 嗚呼ー。

 《ビナイン・トランスポジション》の布石に、すこし遠くに飛ばされたカラスからの、抗議の声が上がりました。が、再びの襲撃を警戒するならば、……カラスには少々離れた場所にいてもらい、真にいざと言う時の安全弁になってもらおうというジョンの発想も……致し方のないことか、と。

 嗚ー。

 カラスには可哀相ですけれど。

* * *
 30分後。

「またしても蟲!」
「む、あれはスパイダーイーター!」
「知ってるんだ雷電と書いてサンダースぅ!!」
「すっかり解説キャラだ」
「撃退後に解説をしてくれるんだからありがたいことじゃないですか」

――いやはや、ひどい夜でした。

* * *
(日記22日目、良し月9日)

 さて、記念すべきあの朝のこと。

「……テレルトンまで2日、ブリンドルまで3日、都合5~6日といったところかな」
「《イージー・トレイル》があるから少々の植生は足止めにならないのがありがたいな」

 そんなバッシュとジョンの会話を背に、クロエが空に向かって両手を広げ、黙って呪文の準備――瞑想をしています。

「《ウォーター・ウォーク》も準備しました。多少の川なら歩いて渡りましょう」
「うむ、それでもうすこし時間が稼げる。ブリンドル防衛には間に合うだろう」

 ぱん、と手を打つ音がして、振り返れば、クロエが自信満々の態で立ち上がり、ハチドリを思わせる身軽さでコンボイの背に飛び乗るところでした。

「行こう、みんな! 今日中にテレルトンに!」

「……?」
「ちょっ……クロエ、流石にそれは無理だ」

「クロエは見たよ! 嵐の風の強さ! 雲のなびき! 飛ぶように駆けるタンブルウィード!! この荒れ野にも大自然の力はたしかにあるんだ!」

 ドルイドとして、この荒野に何かを得るところがあったのでしょうか。クロエは、目をきらきらさせながら浮かされたように喋り続けます。

「“アローナ急行”の旅足をもっともっと早くする! それには風の力を借りるんだ!! いくぞ新呪文、

 《ウインド・アット・バック》!!!」

 ぶんぶんと振り回していたクロエの腕が、風を呼んだのか。

 さあ、と私の髪が前になびきました。

「……背後から、風?」
「うむ、《背に風受けてウインド・アット・バック 》か。徒歩で行く旅人の背を風で押す、優しげなまじないだと聞いたことがあるが」

「クロエは生易しいことはしない!ぐりぐり押してあげる!具体的には倍速で!!」
「な、なんだってぇ?!」
「倍速か。なるほど、日の沈む前にテレルトンにはつけそうだな」
「……どうせだから最初の一時間は早足で行ってみよう。時間が敵なら、俺たちは速度を味方につけないと」
「我らの足ならば、1時間程度の駆け足はどうと言うことはなかろう。うむ、やってみよう」

* * *
 歩き出せば、たしかに。一歩踏み出すと、二歩。二歩進めば、四歩分は先に進んでいます。呪文のせいなのでしょうが、足元を見ていると、速度に知覚が追いつかず、なんだか酔ってしまいそうです。

「……すごい」

 クロエはコンボイの上から得意満面。

「ジョン!ジョン!これだとどのくらいでブリンドルに戻れるかな?!」
「そうだな……まあ3日ってところかー?」
「……なら、予定の半分だ」
「うむ、この旅足、誇ってもよかろうな」
「名実共に“アローナ『急行』”ってことですね」

「よっし、今夜はテレルトンでのんびり一泊だー!!!」

――ですが、その日。

 テレルトンは、燃えていました。

* * *

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