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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』26・21日昼 死霊王の獅子窟(5)

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――……死ねっ!!死ねっ死ねっ死ねっ!!
――なぜだ……!なぜ無い……!!ワシの……!!ワシの宝……!!いや、存在全てを裏付ける『命』……!!

――ワシの『経箱』…………!!!!!

* * *
 死霊王は、荒れた。生死を越えた存在、リッチとなったとき、その生命力の全てを封じ込めた貴重な小箱、『経箱』が、何者かに奪われていたのだ。

――あのとき……!あのとき、ワシの目を小物共にそらしておき……!!
――その隙に……!!ワシの鼻先から……!!経箱を……!!
――やられたっ……なんという単純で効果的な……いや……悪魔的な策……!!!

 死霊王の怒りが小休止した頃合を量ったか、数日後、女はやって来た。そして、言った。

『いと猛きティアマトの御名において、ねえ死霊王様。われら赤い手の軍勢にお力添えを』

――そうしてあの盗人共は……!!ワシを、ただの死霊術師かなにかのように……!!!

『デノヴァー、ブリンドルを攻め落とすのに、アンデッドの部隊が欲しいのです。ほんのこれだけ』
『私どもの要求を呑んでくだされば、経箱は無事にお返ししますわぁ』
『もちろぉん、断わってくださってもかまわなくって?そのときは経箱が砕かれるだけのこと。そうなれば……偉大なる死霊王様も、復活にはさぞやご苦労なさることでしょうねぇ?』

――ぐっ…! ぐぐぐぐ………… ぐぐぐぐ………!
――くっ…!くぅ~~~~っ………!
――このガキっ………! ガキっ……! ガキっ……!
――殺してやりたいっ…! 今すぐ…!  すぐっ……!

 だが、この激情を、死霊王は耐えた。

――ガガガッ……!!死ね……!死ね……っ!!いや、殺す……っ!!必ず、必ず殺してくれるわっ……!!
――この死霊王に無礼を働いた報いを…… 必ず…… 必ず……っ
――いや……殺すだけでは飽き足らぬ……屍とした後もワシの手で……っ!!!!

 暗い怨念をその身に漲らせつつ、死霊王は、ひとまず脅迫者の軍門に下ったのであった。

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 ……というようなことがあったに違いありません。

 ここは死霊王の玄室。私たちの目の前には、かつては豪華であったであろう紫のローブを纏った、乾ききった土くれのような肌の、白髪の老人……だったもの。真紅の瞳、ぎこちない動き、かさこそと音を立てるだけの関節、そして全身からにじむ悪のオーラ。

 200年前に、一つの王国をも滅ぼした伝説の死霊王、アリケル・ザールそのひとが、私たちをねめつけていました。

――何用か。

「私たちは“アローナ急行”。私は交渉役のアルウェンと申します。エルシア谷の東、人の都ブリンドルからの使いで参りました。……まずは、お詫びを」

――? 続けよ。

「獅子窟入り口のビーヒアを退治てしまいました。あなたの配下でしたか?」

――構わぬ。あれらは連中の手駒に過ぎぬ。

 連中。“赤き手の群”のことですね。その口ぶりからも、彼がエルシア攻略には乗り気でないことが判ります。

「そうでしたか。よかった。では、本題です。これを」

――?!

 背負い袋から取り出した、アダマンティン製鎖に下げられた怪異な小箱。リッチである死霊王唯一の弱点、不死者の経箱です。

――なにが……、
――なにが望みだ、小娘……!!!

「あー、えっとですね。これはあなたの物ですね?」

 真紅の眼をギラギラとさせたまま、私の真意を量るかのようにこちらを睨んでいた死霊王が、ややあって、重々しく肯きました。

――然り。申せ、定命の娘。この死霊王にいかなる取引を持ちかけんとするのか。

「? これはあなたのものです。ですから、お返しに伺いました」

 はいどうぞ、と差し出すと、虚を突かれたか、死霊王の動きが止まります。

 恐る恐る手を伸ばし、夢か幻かと躊躇していた指先は、迷いを振り切るとすぐさま、兎を攫う鷹の様に私の手から経箱を奪い返しました。
 信じられぬといった風情で、経箱を両手に捧げ、まじまじと仰ぎ見る死霊王。その口から、感嘆の声が漏れました。

――おお……、おおお……!! 我が経箱!! まさしく、まさしく我が経箱……!!!

 感極まった、この瞬間。切り出すなら、今。私は、“私たちにとっての本題”を、物の序でのように語り始めました。

「それでは、死霊王。ひとつお願いがあるのですが」

――おお……申せ、申してみよ……

「今、竜煙山脈よりホブゴブリンの軍、『赤き手の群』がエルシアの谷を攻め滅ぼさんと東進しています。この『赤き手の群』に手を貸さないで頂きたいのです」

――……それだけか? それだけなのか?

「獅子にかけて、それだけ誓っていただければ結構です」

――よろしい、獅子にかけて金輪際、赤い手の連中には手を貸すまい。

「ありがとうございます」

 ふう、これで一安心です。かれら『赤い手』の軍勢に、死霊の群れが加わるのを防ぐことができたのですから、まったく大成功と言えるでしょう。

「では、これで」

 一つ頭を下げて、立ち去ろうとしたとき、死霊王が私たちを呼び止めました。

――待て。経箱を連中から取り返してきたそなたらに、褒美を与えねばならん。

 きた。いかなる善意をもってしても、心変わりを起こさない悪というものは必ずいるものであり……、私は内心で、今準備している呪文の数を確認しながら、態度だけは恐る恐るというようにして、尋ね返しました。

「……なんでしょう」

――隣の間が我の宝物庫である。好きなものを一つずつ持ってゆけ。

 ……あれ?『げはは、褒美に死をくれてやるわー』とかじゃないんですか?

――我にはもう無用の品だが、そなたら冒険を生業とするものには些か役にも立とう。獅子の短剣、身体健全の守り、いずれもレストの形見とも言える物ばかりであるぞ。

「…ぅうおお!なんていいヤツなんだ!」
「うむ、何と言う気前のよさ。話せば分かるというのは本当なのだな」
「ツンデレだ!ツンデレだキャッホー!」
「ついでだから一晩泊めてもらっちゃおうぜ?」

 それまで、私と死霊王の交渉を見守っていたみんなが、歓声を挙げました。

「……物に釣られすぎですよ皆ー」

「だってなあ」
「町の連中は『皆が感謝するでしょう』とかよー」
「……『成功報酬で500gp』とかな」
「人間の方が渋チンな希ガス!!クロエはおっちゃんを見直した!」

――さっさとせんと気を変えるぞ。

「さあ帰ろう」「すぐ出よう」「えー泊めてもらおうぜー」「退屈した死霊王がなんとなーく襲い掛かってきてもいいんですか」「きゃらの!ときどきジョン=ディーは豪胆!つか無謀っ!」

 というわけで、到着後、正味30分前後。私たちの獅子窟訪問は、あっという間にその目的を達成したのでした。

* * *

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