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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』19・18日目夕 テレルトン

* * *
(良し月、5日。日記18日目、夕刻)

「あの、もし。そこを行く旅のお方。剣士さま」

 僅かに鼻にかかった、甘いささやき。即反応したのは、やはり男性陣。釣られて私とクロエも振り向けば、そこに立っていたのは、胸元も露わな薄手のボディスと、おなじく薄衣の長い(しかし腰のラインがしっかりと浮き出た)スカートを身につけた、燃える様な赤毛の美人でした。
 ちょっとたれ目で、ふっくらした唇。身長は私と同じくらいでしょうか。

 何より目を引くのは、その……豊かな、胸。

「でかっ!!!」

 クロエが見たままを口走ります。うん、中央を革紐で支えたボディスに、羽枕が二つ詰まっているみたいです。

「ああ、よかったぁ。すみません旅のかた。すこしお力添えをお願いしたいのです」

 女が、もじもじと胸の前で手を組みました。やわらかそうな二の腕にはさまれて、ボディスの胸元から見える二つの肌色の丘がふにふにと揺れ動きます。ああ、これは……殿方にはかなり効果があるんじゃないでしょうかねぇ。

「……なんですか?」

 彼女の一番そばに立っていた、バッシュが問い返しました。いかな撤退に混雑するテレルトンといえども、このあたりは比較的人も少なく。街の中ということもあって、バッシュの声に警戒の色はありません。

「ええ、あのぅ。ペイロアさまの施療院のみなさんに、手を貸していただけないでしょうか。怪我人ばかりで……馬車に乗せてあげたいんですけど、人手が足りなくて」

 細く美しい指でさし示した先に、なるほど小さな社と、その隣には古びた建物があります。入り口そばに数台の馬車が止められており、ペイロアの尼僧が二人、怪我人に肩を貸して馬車へと連れ立っているところが見えました。

「うむ、何人いるのかね」
「数十人は。それでもなんとか、御者は手配できましたの」

 うふ、と嬉しそうに笑う彼女。ころ、と表情を変え、再びすがるような目線と声で、

「お願いします。皆さんが手伝ってくだされば、日の沈む前に出発するひとたちと一緒にブリンドルへ向かえます。おば様たちだけでは、明日の朝までかかってしまいますわ」

「……うーん、……いい……かな?」

「然程時間もかからん。人助けなら断わる方がおかしかろうよ」
「困ったときはお互い様、ですものね」
「まあそんなわけだからまかせてくれお嬢さん!」
 嗚呼ー、とやる気なくカラス。

 きゃあ、と嬌声を上げ、女はバッシュに抱きつきました。

「く、組みつき?!接触攻撃?!あんちゃんがかわせないってどんだけ手練っ?!」

 うんクロエ、あれは『かわせなかった』のではなく『かわさなかった』のです。ホント殿方って。

 ありがとうございます!ありがとう!と抱きついたままぴょんぴょんと跳ねる赤毛の彼女。

「あああああ」

 後ろから見ていてもバッシュが耳まで真っ赤なのがわかります。

「ぎぎぎぎぎ」

 ジョンが変な音を出しています。……歯軋り? 

「ふむ。ところでソーサラーどの。どのようなワケで施療院の手伝いなど?」

 え?――ああ、良く見れば彼女の腰のポーチ、構成要素用ですね。

「ん? あ、申し遅れました。私、ソーサラーのミハ。ミハ・セレイニと申しますの。ペイロアの尼僧様には、昨日、痛めた腕の治療をしていただきまして」

 する、と肩口を肌蹴て、二の腕の青痣を見せる彼女。

 ……なんというあからさまな色仕掛け。

「もひょー!!」

 なんという単純な反応!!!!!

* * *
「力仕事ならまかせてっ!!」
 鞍の上で跳ねるクロエと、応。と唸るコンボイ。その言葉通り、傷病人の馬車への移送は瞬く間に片付きました。

「何とお礼を申し上げてよいか」
 深々とお辞儀をして、ペイロアの老尼僧はそう仰いました。 

「困ったときはお互い様ですよ」
「そうそう、ちょっと血の気余ってる連中だから気にしない」
「ドルイドの相棒は猿ー!!犬・虎・獅子にはこういうお仕事ぜったい無理!クロエはコンボイの便利さをひろく世間にあっぴーるしたいのっ!!!」

 コンボイが怪我人たちをそっと優しく運ぶ様は、なかなかほほえましいものがありました。まあ、運ばれる方はかなり緊張してたみたいですけど、仕方ないですよね。

「聞けばあの『赤い手の軍勢』の来襲をお知らせくださった冒険者の皆様だとか。ならば、ぜひ私どもの心許りの品をお持ちください」

 施療院長の差し出したのは、小さなガラス瓶がふたつ。

「《軽傷治療》の秘薬です。きっと何かのお役に立ちましょう」
「受け取れないよ!!!!!」
 クロエが、病人でいっぱいの馬車を指差して叫びました。
「怪我人いっぱいいるじゃん!これから必要なのはむしろおばちゃんたちだって!!」
「いいえ、皆さんが助けてくださったのは私どもだけではありません。こうして街を無事に立ち去ることのできるもの皆が、皆さんに助けられているのです。テレルトンに住む皆になりかわってお礼を申し上げたいところではございますが、この程度のものしか、皆さんのお役に立てそうなものがないのです」

 しばらくの善意溢れる押し問答のあと、クロエが折れました。

「わかった!しかたない、一度あずかる!ただクロエは使わない!!だれか困った人がいたら渡す!それでいいか」
「はい。きっと皆さまなら私どもより有効に使ってくださることでしょう」

* * *
「ではバッシュさま、ご武運を
「あ、ああ」

「この光景の落差はなんだろな」
「うむ」
 嗚呼。

「むっかー!イラっと!イラっと来たっ!!でかいのがなんだぁ!でかいのがそんなに偉いかぁ!あーもういらいらいらいらっ!!」

 ギリギリまでガマンしていた(らしい)クロエが、馬車が見えなくなったとたん、そう叫びました。

「……こないだ、大きいのはいいことだ、みたいなこと言ってませんでした?」
「それは相棒の話!おっぱいならデカイよりたくさんの方が偉い!森のオオカミ母さんだったら8つあった!」
「いや数を誇られても」
「そして人型ならちっちゃいのが正義!『ひんにゅうはきしょうかちだ、すてーたすだ』ってばっちゃが言ってた!」
「ひさびさに聞いた気がするな、ばっちゃの妄言シリーズ」

 あれれ?クロエ、なんでこっちを見る目が朋友得たり、って感じのなかよし目線なんですか?

「アルウェンもクロエのなかまなんだからいっしょにイラっとしよう!ちっちゃいのにはちっちゃいなりのファンがつく!大きいと弓引くのにもきっとジャマ!」
「私、この大きさで100年不都合ないんですけどー」

「いや、あの大きさはソーサラーとしての優秀さを物語るものだったっ」
 ジョンがなにかを持ち上げるように右手を広げ、視線はさらに遠くを見ながら言葉を続けました。
「ソーサラーの魔力の源は魂!すなわち魅力!あんだけデカイとたぶん右で+1!左で+1!あわせて+2!おそらく術者としての能力が1階梯分は違ってくるはず!!」

 くくぅ、と悔しげなうめきが漏れ、

「ああっ、俺にもおっぱいがあればっ……!!」

 阿呆ー。

 カラスの素早い突っ込みに、全員無言で肯きましたが、天性の能力の有無、という不条理な命題に苦悩する我らが軍師には、ちょっと届かなかったようです。

* * *
(続く)

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