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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』18・18日目 あかつき街道~テレルトン着

* * *
(良し月、5日。日記18日目)

 街道へ戻って、しばらく進んでは森に入り、また進んでは街道へ戻って、そのまま草原に踏み入る。丘を越えれば、また街道が見えてきて……そんな進み方で、私たちは一路西へと文字通り『直進』してゆきました。
 風はぬるく、空には薄い雲がかげり、強い日差しもすこしだけ遠慮したような天気ですが、まだまだ暑い盛りのこと、森や林の陰を出て街道や平地に出れば、空気はたちまち埃っぽく熱をはらみます。
 
「水浴びしてた子達、涼しそうだったなあ……」

 途中の小川で見たハクセキレイの番いは、谷に迫る恐怖など知らぬげに、川べりを飛んだり戻ったりと戯れていました。

「夕方にはテレルトンに着くから、水浴びくらいはできるんじゃない?」
「……川で?」
「一人で水浴びにいくアルウェン!迫るワニワニパニック!水浴び中だから鎧も武器も呪文もなし!わーおわーお!」
「戦時下でそんな無謀なことしません」

 第一、いまのエルシアの川にはワニどころかレイザーフィーンドだっているかも知れないじゃないですか?

* * *
 ジョンの目論見どおり、バッシュの歩く速度は常人の5割増になりました。その結果、バッシュは自分の速度を活用して、今までよりもさらに楽な道のりを選んでくれ(実際に歩いたうえで『ここ』と決めてくれるわけですね)、したがって、私たちの旅足はさらに軽快なものとなっていました。

 昼過ぎ……里でなら、お茶をするくらいの時間だったでしょうか。道の先から、肉を叩く音と、下卑た笑い声が聞こえ、バッシュが、ぴたりと足を止めました。

「?」

 見れば、50ヤードばかり先の街道脇の大木に、なにかがふたつ吊り下げられており、それを太い木の枝で荒々しく突いたり殴ったりしている3人の……ホブゴブリン。そして、もの欲しそうにひとつ離れた場所から眺めているオーガ。

 吊るされているのは、おそらく、ヒト、でしょう。着ている物と、肌と、傷とは、同じ血の赤で染まり、まるで……まるで、もう死んでいるかのよう。しかし。

「行くぞ」
「おう」
「ぶっころ!」
 いきり立つ3人、

「いや、罠だろどう見ても」
 嗚呼、とジョンに同意するカラス。

 サンダースは、ふ、と笑うと、バッシュ、コンボイとともに走り出しました。
「アローナよ、我らに《ご加護をブレス》!!」
「ぜって罠だって」

 やや遅れて走り出す私とジョン。

「うむジョン、罠かどうかではない!『罠かと疑って、踏み出さぬ自分』は許せぬのだ!」
「漢にはー、罠と判っても行かなければならないときがあるっ!ってばっちゃが言ってた!!」

「……ばっちゃ何者なのかなあ」
 嗚呼、と同じく首を捻るカラス。
「とりあえず、お前、離れてろ」
 道の向こう、ホブゴブリンとも現在地とも同じだけ離れた林のあたりを指差すジョンに従い、カラスはすい、と低く飛び去りました。

「吶喊ーん!!」
 道の先、コンボイの上で、クロエが叫びます。3人と1匹が敵を蹴散らす距離まであと半分、というそのとき、

 サンダースとバッシュが叩き伏せられました。

「?! しまった、罠か!!コンボイ!!」
「罠は想定内じゃないのかよ!!」
「『罠と判って~』から『しまった、罠か!』まで様式美!全部やって生き延びたらえらいってばっちゃが!!」
「ちょっとは疑えっ!!!!」

 ゆるり、と透明化が解けて現れたのは、人の倍ほどの背丈の黒い巨人が2体!しかも、その頭は黒竜のものではありませんか。頬の横から前に向かい生える特徴的な2本の角、虹彩をもたない赤い眼窩。そして巨大な顎と鋭い牙!!

「ブラックスポーン・レイダーだと?!」
「……デカい。《エンラージ》か」
「いかん、ならば秘術使いがいる!まだ姿を隠しているぞ!」
「そのあたりに《ディスペル》!!」

 ジョンの《呪払》で陽炎のように術は破れ、現れたのは……もう2体の巨大なレイダーと、ゴブリンのような、しかしより醜悪な、2体の巨大な怪物。全身灰色の獣毛に被われ、その目は怖気を震うような嗜虐の光に満ちていました。

「グレーター・バーゲストか!呪われろ、死肉喰らいめ!!」
『赤イ手ニ刃向カウ愚カ者メ。ココデ死ンデ俺タチニ喰ワレロ』

「バッシュ!サンダース!!」
「だめだ、アルウェン!正面の囮、ホブゴブリンがこっちを狙ってる!うかつに近寄れば突撃される距離だ!!」
「ならば!!」

 と、放った私の矢はしかし、ホブゴブリンが深く構えた盾に弾かれました。

「鏑矢!!鏑矢!!初弾は絶対あたらないアルウェンの弓は不思議っ」

 ……いたたまれない恥ずかしさです。思い出しながらこの日記を書く間にも、この頬は熱く感じられます。エルフとしてどうなんでしょう、この弓の下手さ加減は?

「森へ!!」

 ジョンが叫び、正面のホブゴブリンからの視界を遮り、突撃もされない(少なくとも即攻撃をされない)位置である茂みの中へ。彼が《トランスポジション》で完全に敵の視界から逃げ去らないのは、

「畜生、お前らの相手はこっちだ!このブタ面共っ!!」

 ホブゴブリンとオーガ。脅威小なりといえども、敵の攻撃を前衛の3人に集中させたくないからでしょう。

「来るなら来て見ろ!でもできれば来んな!!」
 嗚呼!!嗚呼!!

 勇敢なのやら、正直なのやら。しかし、オーガはレイダーたちの方に向かい、既に数の上で劣勢の3人と1匹をさらに追い詰める布陣です。
 そして、じりじりと間合いを詰めてくるホブゴブリン。盾に全身を隠すようにして、積極的にこちらを襲うつもりはないようですが……しかし、こちらを牽制して、前線への呪文支援をさせまいとする意志がありありと見て取れます。

「こっ……このっ!!」

 再び矢を番え、放ち、――外しました。

「うん、……牽制にはなってる」
「……ありがとうございます……」

 こちらに打撃力がないと見て取ったか、遊撃手の足が心持ち速まります。

「アルウェン、走れ!!森を使えばとにかく接敵はされない!!」
「は、はいっ!!」
「バッシュ、サンダース!そっちはなんとかしろ!こっちは当てにすんな!」
「うむ」
「……」
「クロエ、コンボイ!……っはっ、やっちまえ!こいつらは、『俺たち専用』の部隊だ!!待ち伏せ!囮!後衛と前衛の……分断!!……俺たちのっ……噂をっ……」

 走りながら叫び、叫んでは息を継ぐジョン=ディー。普段走らないひとなので、息が上がるのも早いといえば早いのでしょうが、彼を軟弱だと思う人は、ぜひとも全力疾走しながら左右20ヤードは離れた相手に別々の指示を出してみてください。

「わかったー!つまり全員始末するんだねーっ!!ねえジョーン!!でもさっ、それいつもとどう違うのー?!」
 四本に増えた腕の二本で、小杖を振りながら大声でクロエが尋ね返してきます。

「……こいつらは、逃げる!!特にそこ!!バーゲストは狡い!……逃がす、な!!」
 ジョンが断言しました。

「……はっ、はっ、はーっ……逃げれば追い、……止まれば追える位置に来て、……いやなプレッシャーをかけてくる」
「だれの……はっ、はっ、入れ知恵で、……こんな狡猾なっ……」
「多分……、アルワイとか言う……アバズレじゃ、……ないか」

 リッチの経箱を盾に取って、自らの目的に協力させる強かさは、確かにこの狡猾さに通じるものがあるかもしれません。
 ……木立の周囲を数回往復した頃でしょうか。全力疾走と方向転換を繰り返したため、新鮮な空気を欲して痛み始めた軟弱な己の肺に、一抹の情けなさを覚えつつ、つい独り言ちてしまいました。

「……せめて、……奴らの、足を、んっ……止められれば…………あっ」

 そうして呟いた一言で、私は自分の迂闊さに愕然としました。

「あっ、あーっ、もう!! 足止めすれば済む話じゃないですか!! 森よ!ヒースよカルーナよノアザミよ!《敵の足に絡め》!!」

 《エンタングル》の呪文を受けた森の灌木はたちまちにしてホブゴブリンたちに絡みつき、私とジョンは不毛な反復疾走からようやく解放されたのでした。

「なんでもっと早く思い出さなかったのかしらっ……!」
「うん、いつ使うのかな……と思ってはいた」

 気息を整えながら、ジョンが、ポロリと零しました。あああああっ、は、恥ずかしい!!!

* * *
 前線……我らの前衛、ですが、こちらはもちろん勝利、したものの。吊るされていた農夫たちは、既に事切れていました。やはりジョンの言うとおり、私たちを吊り出す為に、彼らは死者を冒涜していたのです。

「無念」

 死体を速やかに埋葬し、各々が短く祈りの言葉を唱えていたとき、サンダースがそう呟いたのを、私は覚えています。

 ほら、罠だったろう?とは、ジョンは絶対に言いません。そこで駆け出す彼らが前衛だからこそ、ジョンは絶対に戦線から離脱しませんし、己の身の危険を顧みず魔術支援をするのです。むしろ、『罠かもしれない』と歩みを止めるようなら、サンダースやバッシュの善性がこれほどまぶしく見えることはないでしょうから。

「でもバーゲスト、逃げられた」

 飴を落とした子供のようにしょんぼりするクロエ。

「うむ、呪文では致し方ない。止める手段がないのだから」
「次は逃がしません。私も呪文を用意しておきますから」

「こちらの手の内のいくらかは敵に漏れた、と考えておいたほうがいいんだろうが」

 ジョンがにやりと笑いました。

「俺たちの一番の武器は、鋼じゃない。魔法でもない。この『速度』だ。あいつらの本陣に情報が届くよりも早く、こっちは状況をひっくり返してやればいいのさ。……てなわけで、バッシュ。この先も当てにしてるぜ」

 ぽん、とジョンがバッシュの背を叩く間も、私たちは一路西へ。計画や目論見など、水のようなもの。ならば、歩きながら話すだけで十分、というのが我らの軍師の意見なのでした。 

「……見えた。テレルトンだ」

 人口2千弱の町、テレルトン。今は、西から逃げ延びてくる難民と、町を離れようとする住民とで、随分と混雑しているようです。
 日はまだまだ西に差し掛かったばかり。日没まではまだ余裕があることもあって、私たちはそのまま街道を歩くことにしました。

「とりあえず、赤い手の本隊はまだまだ先だろう?テレルトンで情報収集して、そのうえ今晩は宿で寝られるぜ」
「うむ」
「ごはん!保存食じゃないごはん!!」

* * *
(続く)

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