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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』17・16~17日目 ふたたびあかつき街道

* * *
(良し月、4日。日記17日目)

 ブリンドルを出発し、一日目の野営。夜明けも近いそのとき、道の向こうで『森』が動きました。

「巨大生物、いや巨大植物?!」
「超巨大な蔦の化け物テンドリキュロスだ!みんな起きろ!」
「せ、聖印!聖印!」
「アルウェン司祭!《退去》させるには遠すぎる!」
「は、はい!コ、《コマンド・プラ」
「アルウェン司祭!それ近距離呪文!」

 咆哮。一瞬の隙を突いて魔法剣士に絡みつく太い蔦。
 小山のような蔦の化け物の真ん中に、井戸のように大きくて暗い穴――捕食用の『口』が、ぽっかりと開きました。
 蔦と蔦は何本も撚り合わされて、太い腕のよう。緩慢な動きで、しかし抗うことを許さず、大の大人を人形のように軽々と、高々と差し上げ……

「サンダース!……っ、《コマンド・プラント》!蔦よ、止まれ!」
「……効いてないね」

 しょーがないなあ、という表情を浮かべながら、クロエがコンボイに吶喊の構えを取らせます。反射的に、遮蔽を取るべく彼らの後ろに移動した私は、そこで歯噛みしました。

 遠い。もうひとつ用意していた呪文《ヘジテイト》も、近距離呪文だったことを失念していたのです。

「サンダースを離せこのー!」

 並みの魔物なら6秒でバラバラに引き裂くコンボイの爪も、蔦の化け物テンドリキュロスには藪をつつく草刈鎌程度のダメージしか与えません。
「(このままでは、サンダースが……?)」

 コンボイよりも一回り大きいような生物に飲み込まれたら、そこから脱出する術はまずありません。
 このままアレを止められなければ、私たちはここでお終いなのだということが、突然に理解できてしまいました。

 神よ!
「『アローナの友に仇成すものよ、我が声を聞け!』」

 蔦の化け物テンドリキュロスが己の巨大な口にサンダースを押し込もうとした正にその瞬間、私の祈りは通じました。聖印が表すその神性が、聖印を窓として彼を見据えているのが解ります!アローナ、アローナ、その御名褒むべきかな!
 植物と陽光、善と秩序を司るアローナの威光に、蔦の化け物テンドリキュロスが動きを止めたとき、ダスクブレードは間髪いれず己の呪文《ディメンジョン・ホップ》で、この窮地を悠々と抜け出しました。

「それ、逃げるに如かずだ!」
「オレのテントぉー!!」
「威伏は1分も持ちません、テントは諦めてください!」

 ……そうして私たちは、旅程の一日を無事に過ごすことができたのでした。

「今日の教訓は、『術者は後退にも限度がある』ってことです……」
「やー、正直どこまで下がってもいいんだよ?死なれても困るし」
「呪文には適切な距離があります。これを実戦の、しかも野外で体得するのは案外難しいのですよ司祭」
「使い道が限られる火炎呪文なんか取りたくないしな」
「……失敗して、生き延びたんだ。次は大丈夫」

 次。次がある。なんと幸運なことでしょう。すると、あの巨大な蔦の化け物テンドリキュロスは、私に呪文使いとしての覚悟を決めさせるために現れた、アローナの使徒だったのでしょうか?

「「「いや、それはないから」」」

* * *
「俺のテント……ううう、3日持たなかった……」

 テンドリキュロスの襲撃は、しかし、なんとも慰めようのない事故でした。それでも、なんとか声をかけようと考えていた矢先、バッシュが手を上げて全員の注目を集めました。

「シッ、……なんか来る」

 バッシュが素早く陽光棒を叩いてかざせば、森の夜闇の奥から甲高い羽音を響かせて近づいてくるのは……

「スタージ……っ」

 クロエが、サンダースが、あの勇敢な仲間たちが、顔を蒼くして武器を構えます。先週の二度の対スタージ戦で、苦戦は必至と身に染みているのですから無理もありません。ですが、

「みんな、コンボイのそばに!!」

 呪文を用意しつつ、3歩でクロエの隣に。寝る前に枕元に転がしていた薪を一本棍棒代わりに握り締め、コンボイに飛び乗るクロエ。私の声に、質問も返さずコンボイの前面をカバーするバッシュとサンダース。そして、もとよりコンボイの影に駆け寄っていたジョンとカラス。よし!

「森往く風よ、今宵我らの盾となれ!!《ウィンド・ウォール》!!」

 さあ、と風が巻いて、しかし、それ以上なにも起きたようには見えません。

「……ちょ」

 ぐんぐんと接近してくるスタージの群れ。血に飢えた口吻がちち、ちち、と鳴っているのが四方から聞こえてきます!

「動かないで!!」

 恐怖に立ち尽くす獲物に向け、スタージたちが突進を!!

 ……できませんでした。

 あと一歩という距離で、不可視の壁に羽をつかまれ振り回されたスタージたちは、墜落しないよう必死で羽撃くばかり。何がおきたかもわからないままその場をくるくると不思議な軌道で飛び回って――いえ、飛ばされ回ってしまいました。

「《ウィンド・ウォール》の風の厚さは2フィート、高さは10フィートあります。そして普通の鳥程度では通り抜けられない風力ですよー」

「うむ、そしてこの風の壁は我らの攻撃の阻害はしない、と」
「ズルっこ無敵モード!たまにはいいな!コンボイ、殴れ!!!」
 応!

「どうですか、ジョン?同じ失敗はしませんよ、わたしたち」
「……だな!どうせ買うなら、つぎは『次元潜行型の襲われないテント』とか探さないとな!」
「あるんですか?そんなの」
「ある!えっと《ロープ・トリック》みたいな呪文があるんだから、絶対ある!はず!たぶん!」
 嗚呼。
「うむ、《レオムンズ・セキュア・シェルター》では足りないな!確かにそんな宿は必要かもしれん!!」

 無駄口を叩く余裕さえ、今日の私たちにはあったものです。明日の午前中には、余裕でテレルトンに着けるでしょう。敵は見る見る数を減らし、……スタージ最後の一匹は、バッシュが切り裂きました。

* * *
 敵の尖兵と接触する可能性を低くする目的も兼ねて、道を使わず、野を行くわれわれは、しかし逆に、避難して来るエルシアの人々と接触する機会もほとんどなく。
 ――つまり、彼ら『赤い手の軍』がどの程度まで進軍しているかを知る術を持っていなかったのでした。

 それが、翌日のあの苦労に繋がったのですが。

* * *
(続く)

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