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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』16・14~15日目 ブリンドル

* * *
(良し月、1日。日記14日目/午後)

 ゾンビ亭の先、市場の隣の区画に、『赤の魔法雑貨店』はありました。

「こいつぁ珍しい、塔のミニチュアだよこの店」

 なるほど、縦に細長い石造りの店は、どうやら3階程度はあるらしく、屋上は凝ったことに胸壁狭間(のミニチュア)を廻らせています。

「……魔法使いの塔ってことか」
「ですね」

 とにもかくにも魔法の品は、こうした専門店でなければ手に入りません。

「いらっしゃいませ」

 店内に入った私たちを出迎えたのは、どこか異国的な雰囲気の美女。

「店主のイマースタルはただいま外出中でして。ご用件をお伺いします」

「お嬢さん、是非お名前を!!」
「あいすみません、当店はナンパと値引きはお断りいたしております」

 糸のように細い目の笑みを崩さず、さらりとかわす店員さん。ジョンの方も、まるで堪えた風もなく、軽薄な笑顔で商品の注文をはじめました。

「《軽傷治癒》とか《低位回復術》とかの小杖、結構在庫にあるってさ」
「うむ、では各々1つ……いや、治癒の小杖は2つ買おう。あとは《識別》の小杖も用意してもらいたい」
「それでさ、ひとつ提案なんだけど」

 ジョンがぐるりと私たちを見渡して、サンダースに視線を合わせました。

「バッシュに、“早足のブーツ”を買うのはどうだろう。ていうか、おねーさん。ある?“早足のブーツ”」
「ございますよ。お買い上げですか?」
「……待った。幾ら?」

 店員さん、微笑んだまま小首をかしげ、

「金貨5,500枚です」
「……流石に高いよ。俺にばかり資産を傾けなくても」
「いや、これはチーム急行にとってはかなりのプラスになるはずだ」
 とサンダース。それを聞いて、店員さんがちょっと驚いた風情で訊ねました。

「……もしや、皆さんは“アローナ急行”ですか?」
「? たしかに私たちは“チーム急行”の訓練をした一団ですが」

「イマースタルがドレリンのウィストンから聞いたところでは、『アローナ信者のレンジャーが先導する、とても足の速い冒険者の一団』が、ドレリンの住人を救ったとか」
「一部正しい」
「『チームには世にも珍しいアローナの司祭もいる』とか」
「珍しいですか」
「冒険に出る司祭って、だいたいペイロアかハイローニアスの神官ですからね。あと、『森なら庭も同然だ、とばかりに魔女の森に潜って行った。流石アローナの信者はなにかが違う』とか」 
「そんなこと言ってねぇー」
「そんな噂を漏れ聞いていたので。“アローナを信仰するチーム急行”、略して“アローナ急行”と」

 にこにこと私たちの知らない私たちの噂を教えてくれる店員さん。……て、照れくさいですね。

「語呂もいいね」
「ですか?」
「では今後我々はそう名乗ることにしよう、うむ」
「“アローナ急行”かっ!アローナ信徒2、コアロン信徒1、ラーグ信徒1、不信心者1……多数決?」
「ですね」
「おねーさんは“アローナ急行”の名付け親になるわけだ。親の名前は聞いておきたいなあ、ね?」

 店員さんは、くすくすと笑って答えました。

「そうきましたか。それでは名乗らないわけにはいかないですね? 私はイマースタルのパートナーで、アランドリと申します。良しなに」
「俺はジョン。ジョン=ディー、よろしく。お店は何時に退けるのかな?」
「残念ですが、私はここに住んでおりますので」
「え?なに、パートナーってそういう?うそ?」

 少々混乱しているジョンを尻目に、サンダースとアランドリは商談を進めはじめました。

「すぐ準備してくれるそうだ」
「……“早足のブーツ”かあ。いいのか、みんな」
「バッシュの先導で、我々の旅足はおよそ3割増だろう。お前が速ければそれだけチームの旅足も速くなる計算だ」

 実際、バッシュの道を見る目は確かで、時に街道を外れることがあっても、それは必ず最短で且つ後続が歩きやすい道なのです。『徒歩で歩きやすい道』と『馬車が通りやすい道』は同義ではないから、という理屈らしいですが、最短距離の目測だけはもう野生の勘なんだろうと思います。

「目的地にさっさと着けば、その分途中の遭遇が減るもんね!」
「試す価値はありそうですよ」

 そうして話しているうちに、奥の扉からアランドリが取り出したのは、じつに素晴しい品でした。やわらかそうな足首、堅牢なつま先、そして全体のバランス。とても履き心地がよさそうです。

「こちら“早足と跳躍のブーツ”になります。駿馬の皮を基礎材料として作成しましたので、《健脚》の呪文と相性がよかったようです」
「きれいですね!」
「ありがとうございます。色はいかがですか?」
「……俺は別に」
「いい色ですよ。きっと馴染みます」

「じゃあこっちが代金。確かめて」
「はい、少々お待ちを」

* * *
「どうだ、バッシュ?」

 “早足のブーツ”に履き替えて、効果の程を確認するため、店の周りをぐるりと歩いて帰ってきたバッシュに、ジョンが声をかけました。

「……うん、すごくいい。歩きやすいし、今までより2割は速度が上がってると思う」
「てことは普通の5割増か。3日かかる距離が2日になる計算だ」

 まったく素敵なブーツです。なんだか自分のことみたいに嬉しくなった私は、

「せっかくだからみんなでお揃いのブーツにしませんか?」

 と提案してみました。すると、サンダースが肩をすくめて、(全員に魔法のブーツを買うなんて)そんな金の余裕はないがデザインが一緒という意味ならかまわない、と応え、

「その駿馬の皮で作った普通のブーツなら、まだ在庫がありますよ?サイズ調整前なので、魔法で足にあわせることになりますが、それでもよろしければ」

 というアランドリの好意を受けて、

 今日からみんなでお揃いの素敵なブーツを履くことになりました。
 クロエが大笑いしながら背中を叩いてくるのですが、もしかしたら私はなにかもの凄く子供っぽいことをしているのではないでしょうか。

* * *
 宿に戻ると、ソラナ隊長が待っていました。

「無事だったか!!」
「あなたも。皆さんご無事で?」
「ドレリンのものは大過ないよ。だが、道すがら良くない噂を嫌と言うほど聞いた。どうやら、戦は避けようもないらしい。皆浮き足立っているよ」

 ソラナさんは、吐き捨てるように言いました。

「……しかし、やはり森を行くのは無謀だったかい?これから北に向かうのだろう?」
「? いえ、街道封鎖は取り除きました。ここまでは、親切な『星歌う丘』のワイルドエルフたちに送ってもらったのです」

 目をぱちくりとさせるソラナさん。

「なんだって?もう行って、戻ってきた?」
「仰るとおり、ひどい森でしたね」

 しばらく私たちの顔を見つめていたソラナさんは、ようやく、一言だけ。

「すごいな」

 率直な褒め言葉に、私たちは照れ笑いを返すしかできませんでした。

* * * 
(良し月、2日。日記15日目)

 昨晩、ソラナさんが去り際に言ったとおり、今日の朝は、ブリンドル領主からの呼び出しで始まりました。
 ブリンドルの中心、小高い丘の上に立つブリンドル砦。そこが、ジャルマース卿の居城です。

「お呼びに与り、“アローナ急行”罷り越しました」
「よく来てくれた!まずは礼を言う。君たちが奴らを見つけたおかげで、エルシアの谷の……とくにドレリンの住人が数多く命拾いした。ありがとう」

 御前会議に出席し、私たちが見たものを教えて欲しい、というのが、獅子騎士が伝えに来たジャルマース卿の依頼でした。急作りと思われる作戦会議室には、大きな机と、そこに広げられたエルシアの谷の地図。脇には、コスの地図の写しも広げられています。そして、本にゴブレットに軽食が乗せられた小皿に羊皮紙の束。会議は紛糾し、毎日開催されているのでしょうか。
 机の周りには、数名が立ちまたは座り、私たちを値踏みするように見つめていました。ジャルマース卿が語り終えるまで、みな口を挟むつもりはないようです。

「私がブリンドルの城主、ジャルマースだ。順に紹介しよう。ペイロアの大神官、“輝く眉の”トレドラ殿。我が黄金獅子団の長、ラース・アルヴァース。ティヤニは知っているね。こちらはブリンドル一の商家カールの当主、ヴェラサ・カール女史。ハッラはテスカーウィル家の長子で、志願民兵隊の隊長に任命したところだ。そのご老人が“赤の”イマースタル、高名な錬金術師でいらっしゃる。……」

 室内の10人ばかりを、全員紹介されました。こちらも、自己紹介をしたところで、この会議の凡その雰囲気が掴めたように思います。

「(声の大きいジャルマース卿、常にジャルマース卿贔屓のトレドラさん、実質で軍中枢のアルヴァース隊長、戦費負担をさせられそうなカール女史、魔法の助言はイマースタル師、ってところでしょうか)」
「(うむ)」

 そこで、私たちは自分たちが見たもの、為したことをかいつまんで報告しました。

「証拠の竜の首っ!!!」
「それもまた久しぶりですね」

 うっとたじろぐお歴々。あ、そうだ。

「そして、こちらが『死霊王』の“経箱”、ならびに竜魔将アルワイから竜魔将サールヴィスに宛てられた手紙です」
「茨の荒れ野の死霊王……そんな、まさか」
「しかしこの経箱から溢れる邪悪な魔力のオーラは見紛うべくもない。ジャルマース卿よ、これは徒ならぬことですぞ」
「……これを……諸君らはどうする?」

「返しに行こうと思います」

 努めて冷静に、事もなさげに。会議に走る動揺が、私たちの決断の妨げになる前に、私は言葉を重ねました。

「今朝、神託を授かりました。『盗まれたものは、主へと還すべし。彼の不死、不自然への報いは後の世に生されるであろう』と」
「リッチを見過ごせと仰る……?」
 トレドラさんが眉を顰めますが、

「二面作戦はバカのすることだ。司祭より、神格であるアローナのほうがよっぽど柔軟な考え方をするってのは面白いな!」

 ジョンがすかさず援護をしてくれました。

「返すと決めているのなら我々が口をはさむ謂れは無いな」
「しかし!その経箱の取り扱いはこの戦の趨勢を左右するものでしょう!」
「カール女史、そんなことは重々承知だ。しかし危険を冒したのも『いま』あの経箱の所有者も彼らではないか。ならば、いかなる正当性を持って彼らの判断に立ち入ろうというのかね?」
「経箱は手元に……ブリンドルに置いて、死霊王との交渉をするという手も考えられます」
「その交渉には、だれを向かわせるのかね。そして、経箱がこちらの手元にあることを、死霊王は何を持って信用してくれると?」

 私たちも同じ事を考えました。ごく当然の結論です。カール女史も、それ以上切り込めないと判断したのか、大仰に手を上げて座り込みました。

「……と、なればだ」

 ジャルマース卿がこちらに向き直り、言葉を繋ぎました。

「これから、諸君らにお願いしたいことがいくつかある。もちろん、働きに応じた報酬は用意しよう。
 ひとつめは、敵軍の偵察。
 ふたつめは、敵進軍の阻害。
 みっつめは、避難民の殿を守ること、だ。

 もちろん全部は無理だろう。だが、どれかひとつでも引き受けてくれるなら、その分、谷の民が多く生き延びることになる」

 みんなで互いに視線を交わし、その目に同じ気持ちが浮かんでいるのを認めれば、当然、返答はこうなりました。

「全部可能とは思えませんが、いずれドレリンの先まで行く旅路。私どもは、帰路でできる全てをいたしましょう。報酬については、その働き次第で、後ほど御下賜いただければ」

* * *
「それにしてもきれいな方でしたね」
「トレドラ殿ですか。彼女はおそらく、アアシマールでしょう」
「アアシマール?」
天界来訪者セレスチャル の血を引くと言われる高貴なひとたちですよアルウェン司祭。天使の血を受け継いでいるからあれ程に美しいのだと言われています」
「はー、なるほど。天使が先祖ならペイロアの高位司祭にはうってつけですねー」

「……そんな別嬪さんといい仲って、あの領主勝ち組だよなー」
「まったく、あれほどの美貌で如在ないなら召喚生物を従えるのもきっと苦労しないよなー」

 ジョンが歯噛みしています。

「……羨ましがるポイントが違う気がする」

* * *
(続く)

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