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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』14・11~12日目 星歌う丘

* * *
(跳ね月、26日。日記11日目)
 翌朝。
 私たちは、星歌う丘の中心にある、大きな樹の上の美しい建物、コアロン=ラレシアンの神殿へと招かれました。
 そこで待っていたのは、年嵩の美しいワイルドエルフ。年のころは……目の色、その物腰から察するに、私の祖母と同じくらいではないでしょうか。もちろん、彼女は大変に見目麗しく、異種族の目には『透明な美しさの物静かな乙女』としか写らぬことでしょう。

「ティリ・キトル……『星歌う丘』の長、“星の歌い手”セリリアと申します。此度の同胞への救いの手、深く感謝しますわ」
「!!!!おばちゃん、ドルイドだな!!相棒は?相棒は?」

 セリリアは、にっこりと微笑んで樹下の池を指しました。
 かなりの大きさのワニが、背中に黒い嘴の千鳥を数羽乗せて、暢気に池を泳いでいるのが見えます。

「……超大型ワニかあ」
「ワニなあ」
「逆らわないでおこうぜ……」

「本来は村一の歌い手“夜影の”トレララがあなた方の功を讃えるところなのだが……」

 “速き矢の”キリアルが居心地悪そうに、左手の空席を見やります。思い出されたのは、昨晩、ラニカルの首を抱いて泣き崩れた乙女。

「弟の……ラニカルのために。彼女が今日、喪に服することを許して欲しい」
「当然のことです、なにを仰いますか」
「今日の晩にはイリアンが戻りますね……ラニカルの葬儀はそのときに。みなさま、どうか彼の野辺送りにご参列くださいませんか」
「の……べ?」
「(お葬式、ですよクロエ)」
「ん!わかった!いいよ!埋めんの?燃やすの?」

 エルフは墓を作りません。それはワイルドエルフも同じこと。わたしは、今までに何度か立ち会った同胞の葬儀のことを思い出して、ちくりと胸が痛みました。……セリリアは、幼子に教えるように言いました。

「いいえ、ラーグのドルイドクロエよ。私たちは死者を塵へと変えて、風と共に世界に還します。それは今晩一晩の別れを惜しむ宴のあと」
「へー」

* * *
 野辺送りの香の煙、死者を弔う歌、そして時折聞こえるすすり泣き。歌は、歌い手をかえ、歌う物語をかえ、旋律をかえ、かわるがわる歌い続けられてゆきます。何より胸を打ったのは、トレララの弟を悼む歌、でした。

「では、どうか旅人よ。我らの友ラニカルのために歌ってはくれまいか」

「ちょ……ちょいまち。こんなすごい歌の後じゃとても恥ずかしくて歌えないよ」
「……同感」
「うむ」

「じゃクロエが歌うよ!」

 物怖じしない子ですよほんとうに!!!

* * *

ふーるぼっこ♪ふーるぼっこ♪ふーるぼっこ♪
ららかーにばるー♪

 調子はずれの歌が勇敢な戦士を弔う部族の宴に響きます。
 “急行”の仲間たちは全員歌が上手でないことが判明しました。クロエは全く気にしていないようですけど。

ららかーるなばるー♪♪

* * *
 献歌は謹んで辞退し、代わりに、遥かアルヴァンドールの地に於ける永遠の生についての講話をさせていただきました。明日の朝、アルボレアにラニカルの魂は旅立ち、父神なるコアロン・ラレシアンの元で、まったく愉快な暮らしをしながらあなた方の到着をのんびりと待っていることになるでしょう、と。

「……それはあなた方がご自分の生を全うされたとき。誰もが必ずたどり着く場所で、父祖が、友が、そして彼が待っています。それまでは」

 講和に耳を傾けるセリリアは目を閉じて、トレララは同じ年頃の女性に手を握られたまま、キリアルはおそらくコアロン・ラレシアンへの祈りを呟いて。

「私たちは、私たちにできる精一杯のことを致しましょう。いと優しき“月虹”の眠りが我らを訪うその日まで」

 声の届く範囲には数十人のワイルドエルフ達が、黙して私の話に耳を傾けてくれています。葬儀の場に居合わせない村人も、銘々自分たちのテントのそばに野辺送りの火を焚いていましたし、また弔い歌を歌ってラニカルのいないことを惜しんでいました。歌は丘のどこからも聞こえ、重なり、和しては離れ、その歌声はいつまでもいつまでも続くかのようでした。

「ハイコアロン・シャルシャレヴ、勇敢なるワイルドエルフの狩人ラニカルよ。わたしもまたあなたの旅路に祝福を差し上げます。いと美しきアローナよ、かれの行く道が平らかで心安らぐ森の小径でありますように」

 ……今晩一晩は、みなラニカルの物語を惜別のゆえに語り合うことでしょう。あすの朝、イリアン司祭の《ダスト・トゥ・ダスト》で彼の遺骸を塵と風に変えてしまうまでは。

* * *
(跳ね月、27日。日記12日目)

「すっげ!このテントすっげ!!!」
「蜜革でできています。軽く、しなやかで、水を弾くのですが、若干普通の革より強度が落ちるのです」
「これ!!これ売ってくれないかな!!!」

 ジョンが大興奮です。蜜革のテント……少々値が張りますが、その中でのすごしやすさは帆布のテントとは比べ物にならないはずです。
 少々のやり取りの後、ジョンは、星歌う丘の共同庫にあった一人用の蜜革テントを、真っ当な値で買い取ったようでした。

「あんだけテントにこだわる理由がわかんなーい」
「いいの!俺は都会派なの!テントひとつで助かる命だってあるの!!」

* * *
「さて、これからどうする?」
「……とりあえず道路封鎖は解いた。となれば状況報告にブリンドルへ向かうのが一番じゃないかな」
「うむ。それにも増して気になるのは、あの“経箱”のことだ」

「……待った。思い出したぞ。レストを滅ぼしたのは、その高慢……悪行の報い、だったはず」

 バッシュが、不意にそう呟きました。隣にいたクロエが、先を促そうと、首を傾げました。

「つまり……どゆこと?」

 乗り手と同じく、首をかしげるコンボイ。

「……エルシアの昔話だよ」

――むかし、魔女の森の北に、レストという大きな町がありました。また、エルシアの谷の南には、広くて美しい草原がありました。レストの殿様たちと、南の草原の遊牧民である獅子族は、おなじ獅子を尊ぶものどうし、なかよく暮らしていました。ところがある日、レストの殿様たちは、どうしても獅子の爪や牙、美しい鬣が欲しくなり、南の獅子の一族を騙して、黄金の獅子を殺し、その毛皮と爪と牙を奪ってしまいました。獅子の一族は怒って、草原に来ていた殿様たちを殺してしまいました。そうして、獅子族とレストは争い、ついにレストの軍が獅子の一族を全滅させ、偉大な族長をも殺してしまったのです。

「またそれも酷い……」
「もちろん続きがあるんでしょ?」
「ああ」

――レストはたくさんの獅子の毛皮を手に入れて大喜びでした。が、その夜、たくさんの獅子の幽霊がレストを襲いました。朝になるとたくさんの人が死んでいました。レストの軍隊は見る影もなく弱りはて、そして数年のうちにレストの町は滅んだ、ということです。また、この時以来、南の草原は茨の荒れ野に変わり果てました。いまでも、茨の荒れ野の真ん中には獅子族の祠である獅子の像があり、獅子の幽霊を率いる死んだ族長……『死霊王』が、レストを恨み呪っている、ということです。

「……おしまい。よく親が、『早く寝ないと死霊王が来るよ』と子供を脅かすのに使ったりするんだ、エルシアじゃ」
「『死霊王』~?」
「コスの地図にあったな」
「……マジでリッチかよ、おい」
「どのくらい昔の話なんですか?」

 バッシュが、目をぱちくりとさせて、言葉に詰まりました。

「え、えーと……多分二三百年は前だと思う」

「じゃあ、ほんとのところはどうだったのか、聞いてみましょうよ」
「え」

「セリリアさまに。多分、お若い頃のことだから」
「あー」
「ああ、うん。なるほど」
「エルフの寿命はべらぼうだね」

 実に単純な解決法ですが、“経箱”とその持ち主についてや、レスト及びレスティラー王国の滅びの原因などは、当時を知る人に聞くのが一番です。話を聞くだけならば特段苦労もないはず、と、少々緩んだ雰囲気になる私たち。只一人、クロエだけが、気にかかることがある様子で、なにやら難しい顔のままで腕を組み、しきりと首を捻っておりました。

* * *
「ええ。確かに、レスト荒廃の原因はその南の部族との戦争が原因です」
「どうか、詳しく語っては下さいませんか」

 す、とセリリアさまの視線が遠くをさまよいました。

「さて……随分昔のことですから……事実と、起こったことを、遡りながら話すのがよいでしょうね」

 勧められるままに座れば、セリリアさまのお付きの少女が全員にお茶の入った器を手渡します。驚くような軽さは、器の素材が木であることと、その精緻な曲線に秘密があるのでしょう。
 全員が一口二口とお茶で口を湿したところで、セリリアさまが目を閉じました。

「……滅ぼされた南の部族は、獅子教団という狂信者の集団でもありました。
 獅子教団は、南の平原を拠点とする同族喰らいの食人族が入信した、アリケル・ザールを教祖とする狂的な宗教団だったのです。レストの騎士団は、南方に平穏をもたらす為出兵したのですよ。
 そして、邪悪な獅子教団は奇しくも同じ獅子を紋章に戴くレストに滅ぼされました。しかし、かの不死者アリケル・ザールもまた獅子の狂霊をもってレストを滅ぼしたのです。
 アリケル・ザールはもともと自然を友とした優秀なドルイドでしたが……」

「やっぱりブライターかっっ!!!!!」

 クロエが大声を上げました。目は怒りに燃え、手は器を握りしめています……。

「如何にも、ドルイドクロエ。アリケル・ザールは生の全てを呪い、“枯らす者”ブライターになることで不死者への道を拓いたのです」

「また……ずいぶんと珍しい経歴の持ち主のようですな」
「うらぎりものだっ!!ドルイド的に裏切り者だっ!!」

 ぜひともぶっころしてぇー、でも無理だー、と苦悩するクロエをとりあえず無視して、

「これをご覧ください、セリリアさま」

 “経箱”を背負い袋から取り出し、卓の上、彼女の前にそっと差し出しました。

「……『死霊王』アリケル・ザールの、リッチの経箱ではありませんか?」
「しかとは判じかねますが、おそらくはその通りでしょう。エルシアの谷広しと言えど、名を知られた不死者は『死霊王』以外にはおりません」

* * *
 そのあと、私たちの選択肢は二つになりました。つまり、『この経箱を砕き、かなり無謀だが死霊王に挑む』か、『この経箱を届け、うまくいくかどうかは判らないが死霊王と赤い手の軍を離反させる』か。

「そもそも、返してもいいもの?返しちゃった後の当てとか」
「取り返した後はこれ幸いとこちらに牙を剥く可能性はあるな」
「……死霊王は昔話だった。昔からいたのに、エルシアに手を出すことはなかったわけで……経箱さえ返せば赤い手との同盟は決裂すると思う」
「一理ある。うーん」
「くやしいけれど、ぶっちゃけリッチ倒すのはちょい無理!アルウェンはどう思う?」

 え、えーと。

「……アローナ様のご神託を受けてみませんか?死霊王との交渉が、吉か、凶か」

「《ディヴィネーション》かあ。それもいいかもね」
「つまり、ブリンドルについてから決めよう、と。うむ、それがいいかもしれん」

「あ、そうだ。死霊王からの《スクライング》しのぎに、経箱はHHHのポケットに入れとくといいよ」
「HHH?」
「ヒューワーズ・ハンディ・ハヴァサックさ。そいつは《レオムンズ・シークレット・チェスト》由来の魔法の道具だから、中にあるものはこの次元界からいくらか遠いところにあることになるし」

 嗚呼、とカラスが同意しました。ジョンの解説は専門的過ぎてよくわかりませんでしたが、私はひとつ肯くと、経箱を元のようにハヴァサックのポケットへと滑り込ませました。

「経箱を持ってるのが俺たちだと特定されて、死霊王の刺客とか差し向けられたら事だからな!!」

 ! そんなこと、ちらとも思いつきませんでした!

* * *
(続く)

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