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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』12・10日目 黒沼~レストの廃墟2

* * *
 薄暗い室内は、食事の残滓と思しきゴミの山を中心に、リザードフォークならではの低い椅子(しっぽがありますからね)と壁際に寄せられた寝藁、そして壁に飾られた彼らの狩猟のささやかな戦利品、という按配でした。
 しかし、耐え難いのはやはり臭い。黒沼の泥で屋根や壁の隙間を塞ぎ、また彼ら自身の身体にもこびりついたその泥が、乾きかけて異様な臭いを出しているのです。

「くさいよねー」
 クロエの嘆息に、嗚呼ー、とカラスが同意しました。

『カミサマ怒ッタ。仲間食ッタ。俺タチモウ二人ダケ。俺タチモウ沼デ一番弱イ部族』
『任せろ。俺は竜殺しだ。あれは神様とかじゃない。俺たちが始末してやろう。そしたらお前らがあそこに住めばいい』
『……ムムム、ム』

 バッシュが、クロエに「あれ出してくれ」と手で合図しました。

「これが証拠だー!!!」

 オジランディオンの首を誇らしげに掲げるクロエ。竜の首を見たリザードフォークたちは、ぎょっとしたのか瞬膜を二、三度瞬かせました。
 二匹は少し後退り、声を潜めて相談し始めた様子。時折、ちらちらとバッシュとオジランディオンの首とを見て、くやくやと何事か言い合っています。

「……なんて言ってるんですか?」
「あ、えーと」

 バッシュが、あからさまに視線を逸らしました。つい、その視線の先を追ってしまいます。

 ……そこには、エルフの若者の生首がぶら下げられていました。髪の毛を天井の梁に絡ませられ、目は固く閉じられ、……それ以上の様子は、暗がりでよくわかりませんでした。

 いいえ、私は、とっさに目をそらしてしまったのです。

「……エルフがいるので信用ならんが一人だから大丈夫だろう、と」
「どうするアルウェン、やっちゃう?」

 やはり若者の生首に気づいたらしいクロエが、私に尋ねました。

「……葦舟を借りる話をしないと……それに、後で理由を聞いてからでも遅くはないでしょう……彼が『ああなった』理由というのを」

 黒い竜が公会堂を離れている、今を逃す手はありません。時間を無駄にはできないのです。そして、二匹しか残っていない彼らを、見知らぬエルフの仇と目して襲い掛かるのはあまりにも野蛮な行いです。

 彼らには彼らの生活と規範があるのですから。

「後で弔わせてもらえれば、いいです」
「つまり、あとで37654みなごろし ?」
「ちがいますっ」

* * *
 リザードフォークの葦舟は横幅が広く、コンボイが立てるだけの余裕がありました。さらに、左右に張出し材がついているので、見た目よりもかなりの安定感があります。

「こりゃいいや」
「うむ、では漕ぎ手を決めるとしようか」

「しんぱいむよう!コンボイ、トランスフォーム!!!」

 クロエが叫ぶと、コンボイの手足が太くたくましくなると共に、指の間にはひれが。首と肩はなだらかにつながり、濡れた獣毛の海獣を思わせる、流線型のフォルムへと変身しました。

「《スイム》!!これで、カヌーを後ろから押しちゃうよ!!」

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「コンボイすげー、マジすげー。なあカラス、お前俺の使い魔でよかったな?ドルイドの相棒は並大抵じゃ勤まりそうにないぞ」

 カラスは、不満げに嗚呼、と唸りました。

「ところでクロエ?何故に水着に?」
「だって《スイム》をコンボイと共有しただけだから!じっさいに呪文をつかったのはクロエ!コンボイは余波で変身しただけー!」

 ああ、《ギラロンズ・ブレッシング》と同じ理屈ですね。

「《マス・スイム》でぜんいん水着って選択肢もあった!おしい!!!」
「うむ、遠慮しておこう」

 それまで黙っていたサンダースが、真顔で答えました。

* * *
「ソナーに感あり!敵襲!水中からきます!!」

 クロエが叫ぶと、ややあって水中をこちらに進む『それ』の姿が私にも見えました。大きさはイルカくらいでしょうか。

「な、なんだ?!ワニか?!」
「うむ、あれは伝説の『グリーンスポーン・レイザーフィーンド』!まさかこの目で見ようとは!!」
「なにぃー、知っているのかサンダース!!!」

「九層地獄の悪竜の落とし子だ!気をつけろ、酸を吐くぞ!!」
「んじゃ《マス・レジストエナジー》!!!」

 得意の酸の息をクロエの呪文に封じられたと知ってか知らずか、両腕が剃刀のように鋭い羽根の、その緑色のオオトカゲは、水中から半身をもたげ、葦舟の上の私たち目掛けてぐんぐんと近づいてきます。

「……接近戦、望むところだ」

 バッシュが、ずいと前に出ました。なら、私は援護射撃を!

「アローナよ、太陽よ、敵を討つ光を我に!!《シアリング・ライト》!!」

 私の手に、輝く太陽の光が宿ります。威力ある光線を投げかけるこの呪文なら、敵の強固な外皮も無視して命中させることができるのです!

 が。大きく輝いた手は、……しかし水面を照らしたにすぎませんでした。クロエが「うおまぶしっ」と叫びましたが、……ああ、まったく見当違いの水面を、光線は焼き、水柱を上げさせましたが……目くらましにもならなかったと思います。

 正面では、グリーンスポーン・レイザーフィーンドと真っ向切り結ぶサンダースとバッシュ。

「……硬い。そしてかなりやばいぞこの刃先」
「うむ、長期戦は不利だ」

 その後ろから、長い間合いを生かして参戦するコンボイとクロエ。

「硬い外皮!水陸両用!鋭そうな羽!そして酸の息!激ヤバ生物認定!!コンボイ、ぶったたけーっ!!」

 ……ならばせめて、敵の足止めを。

「畏れよ、控えよ、御稜威はこれにあり。《ヘジテイト》」

 バッシュに向けられたその刃先が振り上げられるよりも早く、私はアローナの威光を借りる呪文《ヘジテイト》を落とし子へと投射しました。
 びくり、とその身体が跳ね、落とし子は千載一遇の攻撃の機会を、ついに永遠に逃したのでした。

「……、こりゃいい」
「うむ」
「再度あたーっく」

 落とし子は神威に怯え動けなくなったまま、皆に完膚無きまで叩きのめされるという凄惨な最期を迎えました。アローナよ、先に仕留めていればあの魔物はもう少し楽な死に方をしたのでしょうか。

* * *
(続く)

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