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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』13・10日目 レストの廃墟3

* * *
 公会堂……は、もともと3階建てないしそれ以上の高層建築だったようです。しかし、都市が黒沼に沈んで後、水面からのぞくのは上層階2層だけ。

「屋根が落ちた最上階と、その下の階と、か」

 公会堂の最上階は、苔や雑草にまみれてはいるものの、獅子や鎧の戦士たちの彫刻が外壁一面を飾っており、レスティラー王国王都の往時の栄華を偲ばせます。
 ホブゴブリンの軍勢が付け足した構造物でしょう、公会堂の周囲には、船での乗り付けがしやすいようにか見張りのためか、水面の高さに合わせてぐるっと桟橋がありました。

 桟橋の繋がった先には、やはり屋根が落ちてはいるものの、公会堂と同じ程度の高さがあったであろう、石造りの塔がやはり水面から突き出しています。元はバルコニーか何かがしつらえてあったと思しき壁面の開口部は、急造のドアでふさがれ、ノブと壁の突起とが縄で頑丈に縛り上げられていました。

「……あっちの建物、なんでしょう?」
「うむ、どうせろくなものではないでしょう」

 周囲を観察する私たちの後ろで、

「エティン!オーガ!あと拷問士!」

 クロエが指差し確認をしています。……ここの敵は、どうもこれで全部のようです。

「とりあえず全部始末!完!了!」

 もちろん、全員もの言わぬ骸となって、床のそこここに転がっているのでした。
 コンボイの《スイム》による驚異の水上移動力で接近、有利な位置取りは《ディメンジョン・ホップ》や《トランスポジション》で。

 戦闘は、瞬く間に決着を見ました。 

「なんでこんなに楽かなあ!」
「うむ、それはな」

 サンダースが言うには、『攻め手であることの有利』だそうです。曰く、当方で戦いの準備ができること。戦う場所を限定できること。敵も準備をする必要のある人型種族なら、ただただ強い(そして準備の要らない)魔獣の相手をするよりもたやすいこと。

「まずは……死体を片付けよう」
「偽装開始!!」

 コンボイとクロエがほとんどやってくれましたが、私たちは、オーガやエティンの死体を全て、竜の寝床と思しき下階へ運び、床に開いた穴へと投げ入れました。水棲だという黒竜の、おそらくは脱出口にもなるであろう大きな穴。差し渡し10フィートはあるでしょうか。
 オーガたちは鎧を着ていたため、彼らの死体はゆっくりとではありますが確実に、ほの暗い沼の水底へと沈んでゆきます。水面に時折昇る空気の泡も、やがて目立たなくなりました。

「流れた血はしかたないとして」
「砂でもまいとけ」
「うむ、この床の穴は何とかせねば」

 サンダースが床穴を前に思案首をかしげている一方、わたしは天井からのぞく空を見ていました。太陽は西の空低くに掛かり、長く延びる西日が空を赤く染めています……つまり、天井にも、空が望める大穴が開いているのです。空も飛べて水中にも潜れる黒い竜が、乾いたところに巣を作りたいなら、ここは正にうってつけの場所なのでしょう。
 そして、ここでやつを迎え撃つにしても、目の前にこんな穴があっては、即座に逃げられること間違いなしです。

「まかせて!こんなときのために選んだおさるの相棒なんだよ!コンボイ、じゃっきあっぷ!!」

 大猿は応、と低く啼き、背中で細かく指示する乗り手の指示に従って、公会堂のあちこちから運んでくる木材/壁材/扉だったもの/机のなれの果て/などで、みるみるうちに穴を塞いでしまいました。

「すげえ、さすがコンボイ」
「つよいつよいと噂の虎・熊・狼にはぜったいできない芸当だよ!!」
 コンボイの有用性をおおいにアピールできて、クロエはご満悦です。

「さて、残るはどうやってサールヴィスを討つかだが……実は考えがあるんだぜ」

 消え行く夕陽が照り返す紅い天蓋の光の下で、ジョンが、にやり、と笑いました。

* * *
 待ち伏せの最中、どれほどの時間が過ぎたことでしょうか。
 ふと顔を上げると、サンダースが此方を見ながら、拳を静かに振り上げ、そして振り下ろそうとするのが見えました。

 えっと
 見張りの交代にじゃんけん?

 慌ててちょきを出した私の横で、

 バッシュは魔法のように取り出したフライのポーションを飲み干し
 ジョンディーは一歩引いて呪文の準備をし
 クロエはコンボイを戦地に駆け出させ
 サンダースはハンドサインで
『敵だ!防護呪文投射!』と、

 私が返した動作はちょきで


 あああああああ。


 じ、事実なので書き残す必要があります。わたしは、黒竜の接近するその音を聞き逃しまし……たっ……
 忘れてるかしら。忘れてほしいなあ。忘れてください、その、
 待ち伏せしていた竜の羽撃きの音に全員気付いていたとき、ひとりだけ気が付かなかったエルフのことは。

* * *

 まあそんなわけで。

 遠くからかすかに聞こえた羽撃きは、やがて黒い猛風と共に上空を一端通過しました。

「来たか!!」

 バッシュが、竜の巣穴にあたる穴のあった部屋の、唯一の入り口である東の戸口に立ったまま、陽光棒を点火すると、周囲が明るく照らし出されました。彼の足は既に宙に浮き、空飛ぶ敵の追撃をする準備も万全です!(……結局この《飛行薬》はその必要もなかったのですけれど。)
 そして、巣穴を荒らされた竜の怒りの咆哮が、夜の廃墟に轟々と響きました。

 黒竜は、大きく速度を落とすと、鋭く2度羽撃いて天井へと降り立ちました。弓を携えた背中のゴブリンが叫びます。

『リジャイアリクス!食らわせろ!!』

 一足で穴の淵まで寄り、そこから戸口のバッシュ目掛けて黒い黒い酸の息を!!

「ざんねん!!クロエがすでに《マス・レジスト・エナジー》済み!!さあ覚悟しろサールヴィス!」
『何っ、なぜ俺の名を!!』
 黒竜リジャイアリクスの首をひとつ叩いて竜の背から飛び降りたゴブリンが、驚愕を隠し切れずに尋ね返します。
「あれれ、竜の名前じゃなかったのか」
『援護してくれ友よ。連中は俺が始末する』

 リジャイアリクスは騎乗していたゴブリン――サールヴィスにそう告げると、慣れた様子で穴の淵を越え、悠然と下階に着陸しました。

『ドラゴンの恐怖は、ブレスばかりではないぞ!!!』

 酸の涎滴る大顎が、黒竜の特徴たる両頬の鋭い角が、かわし損ねたバッシュの肩口をしたたかに打ちます!!

『?!』

 そして、巣穴に降りたリジャイアリクスの目に入ったもの。それは、バッシュの背後で、召喚呪文を唱えていたジョン=ディーの姿でした。

『ドラゴンと直接戦うのがそんなに恐ろしいか、人間め!!』

 竜の嘲りを、しかし、ジョン=ディーは勝負師の薄笑いでいなしました。
 ――バッシュが竜の背後を取って反撃し、リジャイアリクスが全力攻撃をしようと一歩退き、サールヴィスが穴の淵から援護射撃をしようとしたとき、その微笑の意味は明らかになったのです。

 室内から消える月明かり。

『?!?!』

 天井の穴の上に、穴を塞いで余りある大きさの長い蟲。ででーんととぐろを巻く、小山のように超巨大な大ムカデの姿が……下から見えるのは脚ばかりでしたが……リジャイアリクスの頭上を塞ぎ、サールヴィスの目の前に出現したのでした。

『な、なんだとっ?!』

 下の穴はコンボイが瓦礫で塞ぎ、竜が巣穴に飛び込んできたらバッシュが時間稼ぎすると同時に、ジョンが超大型生物で退路を断つ。
 これが、ジョンが立てた作戦でした。

「竜が恐ろしい?いーや、ドラゴン。俺はお前を逃がすのが一番怖い。だから」

 ジョンが、鶏小屋に鶏を追い込んだ狐のような顔で掌をすり合わせ、

「お前を、確実に、ここで、始末する!!!」

 ぱあん、と拍手を打ちました。その音を合図に、一気に竜を包囲するコンボイ/クロエとサンダース/バッシュ。そして、容赦ない魔力剣/爪/剣/爪/……。瞬く間に、竜の角は折れ、鱗は削がれ、翼皮膜にもひどいかぎ裂きや穴が。リジャイアリクスの全身は黒い血で汚れ、その表情は罠に落ちて狂乱する狼のようでした。

「うむ」

 サンダースがもう一撃を呪文で極めようと思ったのか、それともあれは次に繋ぐ一歩だったのか。それは判りません。が、あの時彼が戸口から一歩退き、その隙間を、
 ……狡猾なリジャイアリクスは見逃さなかったのでした。

『友よ!ここは撤退だ!』

 言うが早いか、サンダースの脇をすり抜け、階段をヘビのように駆け上る黒竜。

「やべ!逃げられる!」
「アルウェン!!」
「……あ、当りません!!」
 《クラウド・オヴ・ナイヴズ》も全力射も尽くが竜の背に弾かれ、

『よし、リジャイ!』
「だめだ、速い!!」

 これは逃げられる、と覚悟したそのとき、

「ジョン!」

「なるほどそうか!ムカデ!!!」

 クロエの声に、ジョンが大ムカデに命令を出し、
 ムカデはぐっと身体をそらして隙間を作り、
 コンボイがムカデの背中を駆け上って、

『なんだとおおおおお!?』

 夜気の中へと紛れ飛び去ろうとしたリジャイアリクスの正面に陣取ったのでした。

「じゃーん。ではコンボーイ」
 応。
「ふるぼっこー!!!!」

『うわあああ、リジャイアリクスー!!!!』

* * *
『……降参する』

 サールヴィスは弓を捨て、あっけなく降伏を申し出ました。

「降伏を受け入れてもいいが、とりあえずこれを飲め」

 この公会堂で入手した魔法の薬の一瓶を、サールヴィスの足元に転がします。拾い上げたサールヴィスは、しげしげと瓶を見つめた後、意を決してその中身を飲み干しました。

『リジャイを失った以上、もはや竜魔将ではいられない……頼む、殺さないでくれ……』
「今なんつった?」
「竜魔将?」
「コスもあれか?竜魔将か?」
『うう。俺は竜魔将の一人、サールヴィスさまだ。……だが俺の実力だけでは竜魔将は無理だったんだ。リジャイ……あいつだけが俺の友達だったのに……』

「うむ。《真実の霊薬》は絶好調だな」

 拷問士の持っていた《真実の霊薬》。サールヴィスも、まさか自分が飲むはめになるとは思わなかったのでしょうが。

「ではひとつずつ確認していこう。お前たちは何者だ?」
『われらはカルカー・ズール、竜の民。竜魔王アザール・クルさまに仕える“赤い手の軍団”だ』

「うわあ……」
『驚いて声も出ないか、無理もない』
「……二週間目にしてようやく敵の名前が判ったよ……」
「うむ、見敵必滅だったからな」
「それより竜魔将って。恐ろしいセンスですよ?」
「尋問、はじめて!!それよりねえねえ、竜魔王に竜魔将?あと何人竜魔将がいるの?」
『俺のほかにはコス、アル=ワイ、そしてハーンさまだ』
「お前はここで何をしていた?」
『……』
「正直に喋れば逃がしてやるぞ」
「いいのか、サンダース?」
「こいつは失敗した。そしてこいつの権力の基盤はあのリジャイアリクスだったのだろう。でなければこうもたやすく降参はしない」

 そして赤い手の軍団に戻れば、ホブゴブリンの配下の一兵卒としてこき使われることでしょう。それは一度権力の階段を上った彼にはきつい状況に違いありません。

『……わかった。ここは、グリーンスポーン・レイザーフィーンドの孵化場なのだ』
「なんだってー?!」

* * *
 さて、先ほどの戦闘で使用した《クラウド・オブ・ナイヴス》。それは短剣を雲霞のごとく召喚する攻撃呪文。物質構成要素に銀の短剣を使えば、魔法の武器と同じように敵を討つという、変わった力を秘めています。戦場では癒し手としての能力を発揮すべき私にとって、手数を増やす貴重な技のひとつ、だったのですが……

 今日も当たりませんでした。

 呪文スロットの残弾は全部、無言で孵化場の『卵』……グリーンスポーン・レイザーフィーンドの卵にブチ込みましたがこれは呪文を無駄にしないためであり、――ええ、やり場のない怒りの発露でもあったことを自らに認めます。アローナ、アローナ、私の矢弾はいつ敵を討つのでしょう。

 ……願わくば次の敵にこそ我が手によって一矢報いることができますように。

* * *
「……それで、だ。この手紙と、この小箱。どうしたもんかねえ?」

 尋問の最中、バッシュが見つけてきた奇妙な宝物に、私たちは少々戸惑っていました。

 手紙は、竜魔将アル=ワイが同じく竜魔将サールヴィスに宛てたもの。『“彼”を味方にするために、“それ”を隠しておくように』という内容です。そして、“それ”と思しきもの。

「……うむ。アルウェン司祭、なんですって?」
「はい。おそらくこれは“経箱”です。おそらくは、死霊が自らの魂を安全に保管するための」
「……リッチか!!奴らが引き込もうとしている“彼”ってのは、リッチのことか!!」

「待て」

 バッシュがみんなを手で制しました。聞こえてくるのは、複数の鳥の羽撃く音。

「連戦かよー」
「いえ、見てください!」

 月夜の空に現れたのは、ジャイアントオウルの一隊。そして、それに座するワイルドエルフの戦士の一団でした。

「ここには竜がいたはずでは?あなた方はいったいどなたです?」

 黒髪に暗い緑の革鎧。頬には狩人長を示す刺青が見て取れます。

「竜は退治され、緑の魔物の卵は破壊いたしました。私たちはアローナの神殿からエルシアに戦の知らせを伝えるもの。私はアローナの癒し手、アルウェン・エリアロロ。そして彼らは疾く野を馳せる“急行”の仲間たちです」

「黒の竜を退治された?!なんと素晴しい!私は星歌う丘の狩人、“速き矢の”キリアル。私たちは仲間を探しています。ラニカル……エルフの若者と彼の乗る白いオウルを見ませんでしたか?」

「え」
「えー」
「……それって」

 リザードフォークの小屋で見た、エルフの若者の生首のことでしょうか。……ですよねえ。

* * *
 そうして、彼らは仲間と悲しい再会をし、彼らを(結果)大いに助けた私たちは、彼らの感謝と善意の故に、ワイルドエルフの隠れ里に招待されたのでした。

「でもコンボイはどうする?ジャイアントオウルには乗れないだろ」
「まかせて!《リデュース》!!」

 みるみる成人男性の大きさに縮み上がるコンボイ。ワイルドエルフたちも、ドルイドの呪文の巧みさに目を丸くしていましたが、
 ……この程度でこれだけ驚くのなら、コンボイの戦いぶりをみたら、彼らはどんな風に驚いてくれるのかしら?

* * *
『お、俺はどうすればいいんだ?!』
「……命は取らん、だが積極的に助けようとは思わん。好きにしろ。だが次に敵対したときは、そのときは……」

 バッシュの恫喝を受け、サールヴィスは私たちが乗ってきた葦舟に乗ると、夜の黒沼へと漕ぎ出して行きました。

 哀れなゴブリン、もはやなにものでもないただのサールヴィスは、このようにして命を救われたのでした。

* * *
 風は雲を払い、夜空にルナの月は輝き、私たちを乗せたジャイアントオウルは滑るようにエルシアの空を飛んで行きます。やがて、レスティン湖の畔、黒沼の外れに、小高い丘と、その木々の間にちらちらと光る焚き火の明かりと――そして、たくさんの素朴で美しいテントとが見えてきました。

「あれが私たちの里、『星歌う丘』です」
「やった、すげえ!!今晩は見張り無しで眠れるぞ!!」

 大いに肯くバッシュとクロエ、手放しで喜ぶジョン。

 ……ありがたいことに。この晩、私たちは、久しぶりに(体感的な表現ですが、ほんとうに久しぶりに)安全な休息をとることができたのでした。
 アローナよ、コアロンよ、同胞との奇なる縁を結んでくださったこと、深く感謝いたします。
* * *
(続く)

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