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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』08・6日目 ドレリン~魔女の森

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「……行ってしまった」
 ウィストンは、"魔女の森"へと向かう、小さく遠くなってゆく一行の背中を、しばらく見つめていた。

「なあに、案外ほんとうに通り抜けるかもしれませんよ?そして街道封鎖を解いてくれるかも」
 ソラナの声は明るいが、その目にはやはり心配の色が浮かんでいる。

「信じましょう。彼らならやってくれるかもしれない、と」
 ティヤニがソラナの肩に手をおいた。

「彼らの旅路にファラングンが幸運を授けてくれますように」
 戦士と騎士の違いはあれ、『困難な状況を生き残るにはある種の幸運が必要だ』という事実は、戦うものである二人にとって自明の真理である。どんなに強い戦士でも、運が悪ければあっさりと死ぬ。フラネスグレイホーク とは、そういう世界であった。

「そうですね。今一度祈りましょう、彼らの旅路に幸運があらんことを」

 万感の思いを胸に見送る彼女らの目に、一行が森へと踏み入るのが見え、

「……」

 一行は森から外へと駆け出した。

「……え?」

 後を追って飛び出したのは、巨大なイノシシ。距離を置きつつ反撃する一行。荒れ狂うイノシシは、その非常識な大きさから見て、おそらくダイア種。並みの人間では歯の立たない、自然の脅威である。

「あ、はねられた」
「けっこう飛ぶものですね、人間て」

# # #
「いや、面目ない」

 ダイアボアを倒したものの、負傷してドレリンに引き返してきた冒険者一行。

「魔女の森おっかねー!町から全然離れてないし森踏み込んで3歩目くらいだったっ」
「なんでバッシュのあんちゃんが先導だとでっかい敵と遭遇してしまうん?」
「……面目ない」
「最短距離を選ぶから結果として怪物の生活圏を踏んじゃうんだろうな」
 召喚術師ジョンの意見は実に真っ当である。

「ばっちゃが言ってた!冒険者の中には怪物を引き寄せる"ふぇろもん"を出すひとがいるって!!」
 ドルイドクロエの意見は実に奇ッ怪であった。

「うむ、しかし考えようによってはツイている。森に入ってすぐの遭遇であったから補給が簡単に」
「おお、それは言える」
「サンダースあたまいー!」

「……大丈夫ですか町長、この人たちに任せておいて」
「わしに聞くな」

* * *
 森の入り口で手間取ってしまいましたが、その日は魔女の森を無事進むことができました。
 そして、森の恐怖を本当の意味で思い知らされたのもまた、この日の事だったのです。

* * *
 ジョンはテントを立てて、カラスを見張りに置き自分は中へ。テントは、ドレリンで購入した質のよい帆布の丈夫なものでした。野営のとき、今までは常に携帯用寝具やマントや毛布で辛うじて風邪を引かない程度の備えでしたから、テントを購入したジョンは私たちの中で一番文明的、ということになるかもしれません。

「せっかく森にいるのに屋根を持ち込むなんてジョン=ディーはばかだなあ!」
「いいの!俺は都会派なの!」

 テントから顔だけ出してクロエに反論し、再び中へ。嗚呼、とカラスが同意します。

「……テントは面倒だからなあ」
「うむ、同意する」

 睡眠、人間にとっては人生の1/3を占める不自由で不思議な時間。眠そうにしている子供とか犬とかは実に可愛いと思いますが、さて、彼らにとって睡眠とはどんな意味合いのものなのでしょう。夢を見る時間?やがて来る死の予行演習?それとも、毎日のことだから特に感慨はないのかも。

「4時間したら交代しますから、その後の見張りは任せてくださいね」

 焚き火のそばに腰を下ろし、荷に背中を預け、気息を整えて瞑想へ。エルフの瞑想は夢を見ません。これはただ、過去を偲び、未来を思う時間。そこに神秘の立ち入る隙はないのです。

 したがって、この後こんなことになろうとは、夢にも思いませんでした。

* * *
 瞑想から醒め、サンダースが眠りにつくのを見守りながら、焚き火に薪を加え、火の量を調節します。小半時して、手持ち無沙汰になった私は小鍋に水袋の水を移して、湯を沸かし、道すがら摘んだハーブでお茶を。

「バッシュ、クロエ、いかがですか?」
「……シッ」

 クロエとコンボイ、バッシュが闇の奥を見つめています。

「……何か来る」
「でも見えない!透明とかじゃない!音もする!ジョン、サンダース起きろ!!」

 下生えを踏みしだいて何かが近づいてきます。しかし、木々はそよとも動きません。けれど、確かに何かがぶつかり合いながら進んでくる物音が。

「……蛇?」

 いいえ、ムカデでした。

「ジョン起きろ!!蟲だっ!!!」

 下生えを、下生えだけを踏みしだきながら現れたのは、自走する絨毯のように平たく長い、小さなムカデがごまんと集まったおぞましい大軍でした。あるものは石に噛みつきあるものは木を齧り、あるものは下生えに潜んでいたカエルやトカゲに集団で襲い掛かり。

『ジョン起きろ!!ムカデの群れだ!!テントに向かってくる!!!』

 テントの上のカラスは叫び、宙に羽ばたき逃れました。飛び起きるサンダース。つかめる荷物を掴み、ムカデの大軍の進路から離れようとする私たち。しかし、黒く蠢く絨毯はどこまで続いているのか、避けても避けても何かを踏み潰す嫌な感触がブーツの底から返ってきます。

「ジョン!!」

 ジョンのテントが、瞬く間にムカデの絨毯に飲み込まれ……テントから這い出すジョン……テントの隙間から侵入したムカデが、逃げ惑うジョンの体のあちこちにしがみつき這い回っています……

 気が狂ったように跳ね回りながら身体のあちこちを叩くジョンを、バッシュとサンダースもはたき替わりに腕に丸めたマントで手伝います。クロエと私は、荷物を全部コンボイにリレーし、ムカデの少ないほう少ない方へと逃れながら、この状況を打開できる方法を必死に考えていました。

「火!」
「焚き火程度じゃ効果なし!」
「呪文!」
「相手は超小型!範囲制圧型じゃ無駄!」
「水?!」
「それだ!川まで急げ~っ!!」

* * *

* * *
「……口にも……入った……」

 難は逃れたものの、ジョンが非常に気分悪そうです。……無理もないです。

「テントの入り口、逆方向でよかったなあ」
「うむ、入り口がムカデ方面だった場合、奴らが全部中に」
「うひいいいいい」
「……テントの方向ひとつで命拾いした……ありえねぇ……」

「とりあえず口をすすぐといいですよ……」
 ジョンは私のコップを受け取って、二三度口をすすぐと、逃げてきた方角を見て呟きました。

「……俺のテント……ううう、まだ一晩も使ってないのに……」

「回収するだけむだ!間違いなくムカデ色に染まった!」
 嗚呼ー、とカラスが同意しました。

* * *
(続く)

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