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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』11・10日目 黒沼~レストの廃墟

* * *
 翌朝、わたしはみんなに、昨日の晩見たものをできるだけ見たままに伝えました。

「それ、竜じゃね?」
「うむ、またしても竜か。しかも背中に何者かを乗せられるほどの大きさ、と」

 サンダースの表情が曇ります。確かに、何かが背中に乗るならば、それは馬ほどの大きさの竜だということになり、即ち、かなりの強敵であることを意味します。

 おそらくは、死人が出るほどの。

「むう……」

「黒いのって何噴くの?」
「伝えられているところでは、酸を吐くそうだ」

「それだ!きっとそれがサールヴィスだよ!よっし、さっそく黒沼に出発!!!」

 クロエはさっさとコンボイに跨ると、彼の首筋をぺちぺちと叩いて、荷物を纏めさせ始めました。クロエ以外の全員は顔を見合わせ、苦笑い。

「……たしかに、誰も竜と戦ってくれとは頼んでいなかったな」
「偵察、偵察。連中がこっちで何をたくらんでいるのか、それを調べて帰るだけでも大仕事さ」
「うむ、つい戦い、打ち倒す方向で物を見てしまう。気をつけねばならん、うむ」

 そこでわたしたちは、わりあいと気楽に、黒沼へと出発しました。

* * *
 黒沼はかつて、このエルシア谷を治めるレスティラー王国の首都レストだったそうです。住むによく土地の肥えた低地だったであろう平原は、しかしいまや見る影もなく、どちらを向いても湿地と泥地、ところどころに突き出した丘と枯れた葦、そしてどろりと濁った水ばかり。
 虫の多そうな茂みの間からは、湿気っぽく生ぬるい風が時々思い出したように流れ、遠くからは陰気なカエルの声が低く聞こえてきます。

「ここらはまだ歩けないこともないかな」

 足首まで水と泥につかって歩きにくいことこの上ないですが、それでもバッシュの先導は、わたしたちの速度を最大限に生かしてくれました。

「とまれっ!!!!!!」

 クロエの声に、全員ぎくりとして足を止めました。気がつけば、さっきまで賑やかだった水鳥の声がいまはひとつも聞こえません。

「ど、どう……しましたか?」

「全員、そのまま。そーっと左右を見て……」

 似たような、葦も生えていない小ぶりな丘が、左右に二つ。岩と言うか石が露出したごつごつとした表面は、なぜだか随分と濡れて光っており、よく見ればでこぼこには不思議とパターンめいた繰り返しが。まるでなにかの背中の皮のような……?

 そして目が。

「……ワニ」

 丘と思ったものは、超巨大なワニ、でした。しかも左右に、ご丁寧に一頭ずつ。

「ええと」

 ワニの鼻腔が開き、あああでっかーい。コンボイの頭もすっぽり入りそうな大きさです。そしてその顎にはまるで小剣のような大きさの鋭い牙があああああああ。

 ゆっくりと振り向くと、クロエが右手で呪文の投射準備をしているのが見えました。ほかのみんなも、血の気の引いた青い顔を。

 ここはもう、手段は一つ。

「「《エンタングル》!!!!」」

 クロエとわたしがせめてもの足止めに、と、彼らの手前にそれぞれ呪文を投げつけます。まだ命のある葦と、沼の中の水草と苔とが、ぬるぬると伸びてワニたちに絡みつきます。しかし、これをものともせずぶちぶちと引きちぎりながらのっそりと前進し始めるワニたち。草たちも負けじと絡みつき続けます。

「よし!逃げよう!!」
「異議なし!!」

 その後ワニたちがどうなったかはよくわかりませんが、私たちはといえば、とにかくワニに襲われない所まで走って逃げた、のでした。

「魔女の森も大概だったが……ここの怪物もかなり意表を突かれるな」
「うむ、かなり驚いた」
「どうしていいかわかんなかった!こう、顔がにょろーんってなった!!」

* * *
 その後、道をかえて、黒沼の中ほどにあるレストの廃墟までたどり着きました。

 廃墟と言っても、まったくの沼、でしたが。

「差し渡し2マイルはあるかな」

 大きな黒い鏡のような沼地に、ぽつぽつと顔を出している石造りの建物はおそらく在りし日のレストの残骸でしょうか。沼の真ん中ほどに、二階建てくらいに見える大きな廃墟が見えます。

「回廊がめぐらせてあるね」
「何かが陣取ってるのか」
「もと公会堂かなにかでしょうか」
「見てみて!鎧を着たホブゴブリンがいる」

 さらに、沼の周囲には粗末な小屋が点々と、かなりの距離を置いて建っています。

「うむ、いずれの種族にせよ、原住民であろう」
「……とりあえず身を潜めて様子を見よう」

* * *
 数時間後。

「凡そつかめた。周囲にいるのはリザードフォーク、そしてあそこにいるのはあの軍勢と見て間違いあるまい」
「んでもって、リザードフォークはまだ連中と完全に手を組んだわけじゃない、と」

 先ほど、リザードフォークの葦船が、6人を乗せて公会堂の廃墟に向かい、悲鳴と咆哮とが聞こえた後、4人が命からがら逃げ出してくるのが見えたのでした。

「同盟を断わられたかな」

 そして。

「……でた!黒い竜だ!」
「……あれ、あんがいちっちゃくね?」
「……背中に乗ったのは、あれはゴブリンだな。ふむ、するとさほどの大きさではない、と」

 公会堂の屋上から飛び立った黒い竜とその乗り手は、東へと飛び去りました。

「チャンス!!いま強襲すれば、帰ってくるヤツを待ち伏せできるぞ!!」
「でも、どうやって沼を渡るんですか?」

「目の前にあるじゃないか、舟が。あれを借りようぜ」

 ジョンが指差した先には。

「……リザードフォークの葦舟を?どうやって」

 わたし、竜語なんて喋れませんよ。

「竜語なら」

 そこで、バッシュが口を開きました。

「……竜語なら、俺が話せる」

「ええー、バッシュのあんちゃん、それ恐喝用に覚えたスラングばっかでしょー?交渉ってのは、威圧しちゃだめなんだぞー」
「うむ、彼らも竜とはついに敵対してしまったようだ。ここは交渉を持ちかける好機だろう」
「俺も竜語喋れれば交渉の手助けくらいするんだがなあ」
「話し合いですむなら、いいじゃありませんか。その姿勢が大事ですよ」

「……ああ、威圧してもいいのか……」
「いやいやいやいや、その理屈はおかしい」
「しかし交渉より威圧する方が得意なのは確かだしなあ……」

 とりあえず交渉をするため、先ほど葦舟を出したリザードフォークたちの小屋へ近づく間も、バッシュはぶつぶつと悩んでいます。

「まあ、お前の好きにするがいいさ」
「ぜんいんバラバラにして勝手に使う選択肢もあるよ!!」
「それは最後の手段な」

「平和に交渉する……俺らしく威圧で極める……交渉……恫喝……取引……脅迫……うーん、よし」

 小屋の前まで来たところで、バッシュは心を決めたようでした。がんばれ、バッシュ。

 バッシュはひとつ咳払いをすると、勢いよく小屋の扉を引き開け、こう叫びました。


「『困っているようだな、おまえら!!この竜殺しのバッシュが助けてやるぜ!!!』」


「「「「いまなんかすごいハッタリかましたーっ?!?!?!」」」」

 小屋のてっぺんで、カラスが嗚呼、と鳴きました。

(続く)

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