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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』09・7~8日目 魔女の森

* * *
 7日目。単調と思われた森の風景にも、ひとつだけ奇妙な点がありました。

 獣の声が極端に少ないのです。森が痩せている、のではありません。人の手の入らない"魔女の森"は、むしろ、豊かな植生を持っており、したがって、動物たちが伸びやかに暮らす楽園、であるはずでした。

 本来は。


「……どう思う?」
「ひとつ。動物が住めないような何かがある」
「ふたつ。動物が嫌う何かがいる、とか」
「みっつ!動物が逃げ出すような何かが来る!強いのがくれば弱いのは逃げる!これ森の原則!!アルウェンどうおもう?」
「まるで見当もつきません。"魔女の"と渾名されるくらいですから、もとより危険な森なのでは?」
「うむ、まあいずれ分かるだろう。それまでは考えても仕方あるまい」

 ……すみません。アローナの司祭のもつ森の知識は、『森を健やかに保つ』ためのものであって、森の異常の原因を察知するものではないのです。わかるのは『この森が健康でない状態らしい』ということだけで、それはレンジャーであるバッシュにも分かるささいな事実に過ぎません。
 ん、こんなことなら自然についての知識の研鑽をもっと丁寧にしておくのでした。

* * *
 しばらく歩き、いくつかのけものみちを横切り、小川を越え、茂みを迂回するうち、違和感の正体がおぼろげながら見えてきました。

「……動物のいた痕跡はある。魔獣かもしれないけど」
「うむ。あれだけの大軍だ、四方に先遣部隊を出すくらいはしているだろうからな」
「あれか、あかつき街道の待ち伏せ部隊みたいなのか?」
「あんなにおおぜいで森を横切ったらそりゃ動物みんな逃げるよね!」

 ということは、あの軍勢の尖兵がこのあたりのけものみちや踏み分け道を頻繁に往来しているということになりませんか?

「ますます森を横切るルートでよかった気がしてきたぜ」
「やつらに鉢合わせなくていい!バッシュの先導ばんざい!」

 と、クロエがバッシュの足を褒め称えた直後。

「いやあ、」

 頭をかきながらいくつか目の踏み分け道に足を踏み出したバッシュの側面から、

『ウリイイイイイイイイ!!!』
 狼に似た巨大な四足獣、魔狼ウォーグ と、それに跨ったゴブリンたちの一団が突進してきました!!

「言ったそばからーっ!!!」
「あんちゃんのフェロモン体質~っ!!」
「え、俺のせい!?」

 突撃を受けぬ位置へと巧みに移動し、おそらくは反射的に抜いたであろう剣を構えながら、クロエの(たぶん)非難に眉を顰めるバッシュ。

「いい位置だ!」
 たちまちに相手を分断しつつ、出すぎた敵を挟撃する位置取りをこなすサンダースとコンボイ。魔剣の斬撃と大猿の打撃が、見る間に敵を減らして行きます。コンボイの背中では、クロエがワンドを抜き、

「ヘビの杖っ!コマンドワードは"おにいちゃんどいて、そいつ殺せない!!"」 
 バッシュに《スネークス・スウィフトネス》を。味方に瞬間的な加速効果を与えるこの呪文が込められたあの小杖は、『クロエのひみつへいき』のひとつです。

 ダメ押しの一撃で目の前のゴブリンを屠るバッシュ。敵はあと3体!!

『kakaka!!』

 しかし、その隙に奥手のホブゴブリンが呪文を!

「……!!」

 不自然な姿勢で、彫像のように立ちすくむバッシュ。

「《ホールド・パースン》!!いかん、バッシュ!」
 そのバッシュに駆け寄ろうとする敵の前に立ち塞がるサンダース。しかし、敵の背後にはさらに呪文を紡ぐ先ほどの術者が!

「ならば!」

 私の打つべき手はひとつ、一矢でも呪文使いに食らわせ、敵の集中を削ぐこと!《精密射撃》を訓練したこの手なら、味方の背後からでも敵を撃てる

 はずでした。

 私の矢はサンダースの背に当り、しかし彼に刺さることはなく、もう安堵するやら恥ずかしいやら……

「ばっちゃが言ってた!エルフは実は遠視なの!近づくとよく見えなくなるんだって!!!」

「ク、クロエっ!!!」

 でまかせばっかり言わないでください、と反論したかったのですが、ここ数日の戦績を省みるにつれ、その……たしかに……。

* * *

 戦闘後、寡黙なダスクブレードは私の失敗を笑って赦してくれたのでした。ああ、神弓ジェネヴィアーよ、私は修行が足りません。

* * *
 8日目。遭遇したのは、フクロウグマアウルベア、頭から酸を噴く奇怪なトカゲ『ダイジェスター』、そして。

「しっかり!しっかりしてください!!」
「目が……かすむ……寒い……」
「血が足りないんだ……このままじゃ立ってもいられな……い……」
「……」
「バッシュ!サンダース、ジョン!!寝るな!落ちるな!」
「これ……は……かなり……やば……い」

 惨状の原因は、スタージ。ハチドリほどの魔獣ですが、その性癖はいやらしく、多数で襲い掛かり、ヒルのように犠牲者の血を吸うのです。そう、犠牲者の命が尽きるまで。

「うん、やばいよ……これでまた朝までにスタージに襲われたら、クロエたち耐えられない……」

 いつもは軽快な冗談ばかりのクロエも、いまは冷え切ったバッシュの手を擦りながら、沈痛な面持ちです。

「……アルウェン、《レッサー・レストレーション》は?」
 私は、かぶり を振りました。残念ながら、今日の準備呪文には含まれていません。回復術なら、失われた血を取り戻すのも容易なのですが。

「……じゃあ……もう、方法はひとつだけだ」

 最後の手段。それは、ヴラース砦で見つけた、ひとつの杖でした。私は肯いて、背嚢からその杖を取り出しました。

 捻じくれ曲がった樫の杖の先に、トネリコと思しき角の飾り。角の彫刻には、おそらくは金箔が張られていたのでしょうが、長い年月はその名残を、角の螺旋の溝にわずかに印すのみ。

「聖なる一角獣の角もつ杖。生命の杖スタッフ・オヴ・ライフですね。でも……いいのでしょうか」

 この杖の余力チャージなら、死者を蘇らせることも可能なはず。

「死んでからじゃ遅いんだよアルウェン。ここは使いどき、だとクロエは思う。それに、ドレリンの魔法使いの話じゃ、その魔力もあと数回、って話だし。死者を蘇らせられるにしても、たぶん一人が限界だもん……」

「……わかりました。たしかにその通りです」

 杖よ、ユニコーンよ、アローナよ。我らの友に活力を。あふれる生命力を分け与え給え……

* * *
 杖の霊験はあらたかで、3人の顔には見る見る赤みが差し、数分後にはまったく傷跡も残らないまでに回復しました。

「ううむ、さすが生命の杖。ところで、なぜアルウェン司祭は浮かない顔なのですか?」
「なぜって、それは生命の杖が《ヒール》1チャージで3115gp分を消費するから!!今晩だけで10,000gp近く使った計算!!!」
「うわ、すげぇ。なにその値段」

「ち、違います!お金の問題じゃありません!!これで、いざという時の支えを失ったんですよ?私が今朝、回復術さえ用意していれば、こんな……」

「ああ、それは違いますよ司祭」

 サンダースが肯きました。

「……俺たちが死ななきゃいいんだ。……もとから死者蘇生の呪文なんて高位術、高嶺の花だったんだしさ」

 バッシュが、鼻の頭をかきながら言葉を繋ぎました。

「ばっちゃが言ってた!だから術者の朝の呪文えらびの時間は神聖にして侵すべからずって!!あと呪文選択しなくていいソーサラーは死ねばいいのに!って!!」
「うわあ、ひどいな」
「じっちゃはソーサラーだったよ!!」
「クロエのばっちゃはツンデレか」

「……あとは、まあ、朝になるのを待ってさ。それまでにスタージが出なきゃ、まあ森は越えられるさ」

「そう……そうですよね」
 私は杖をしまいながら、肯きました。明日の朝こそは、この森の脅威に対抗するべく、治癒術を中心に呪文を準備すれば

「またスタージの群れだーっ!!!!!!!」

「「「えええええええーっっ」」」
「バカバカ!バッシュのあんちゃんのフェロモン体質!」
「ええっ、俺のせい?俺のせいなの?」
* * *
(続く)

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