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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』07・5~6日目 消し炭の丘~ドレリン

* * *
 橋を越え、道なりに進むこと1時間。丘と森の向こうに、不穏な……大集団の存在を感じさせる、空を煙らせるほどの、いくつもの炊煙が見えてきました。

「……ちょっと道を外れるぜ」
 そういって下生えを踏み分け、林から丘へと登りはじめたバッシュの勘は正しく、私たちの命を……いえ、ドレリンのひとたちの命を救いました。

 道をはずれ、ちいさな丘を越えた私たちの眼下に広がるのは。

 消し炭の丘、その裾野に広がる、野を埋め尽くす軍営、何百となく立つテント、無数の攻城兵器、陣を守るいくつものホブゴブリンの小隊とたくさんのジャイアント、空を行く赤い竜、その間をせわしなく行き来するホブゴブリンの群れ、群れ、群れ!!!

「……五千」
「うむ、八千」

「ぬるいな!こういうときは切り良く、万と宣言するんだぜ!」

 ……。

「……あー、どこから現れたんだろうな」
「この周辺の部族数十を束ねる、首魁がいるに相違ない。とてつもない統率力か、あるいは神のごとき魅力の持ち主か」

「ええと」

「ばっちゃが言ってた!いらないロールなんとかは放り投げて、ずんどこお話を加速させようって!」
 ありえない数の軍勢を前に、思考停止状態になっていた私たちを、クロエのまっすぐな意見が正気に立ち返らせてくれました。

「ときどき、クロエのばっちゃがどんな人だったのか気になるよな」
「ですね」

「そうだな、こうなった以上採る道はひとつ」
「今日も強行軍か」

* * *
 少しでも軍勢の足を遅らせるため、どくろ大橋を落とした後、一路ドレリンへ。川を渡り、町に着いたのはその日の夜遅くでした。

「おや、もうお戻りですか?なにか不都合でもございましたか」

 夜分の帰還に、些か拍子抜けした風のウィストンさん。普通の旅人ならば、橋までも行かずに戻ってくるくらいのタイミングですから、これは仕方の無いことでしょう。

「大変大変!町長、ホブゴブリンが軍団で攻めてくるぞっ!!」

「それは昨日聞きました。なにか新しい情報でも?」

「これを見ろーっ!!!!!」

 でん、と突き出された緑の竜の生首。いかなる爬虫類の鱗とも異なる竜特有の鱗、魔力を秘めるという長大な牙。切り取られた首の血肉も生々しく、瞳にはどろりとした無念の色が。

「ひ、ひいいいいいっ?!」

 腰を抜かすウィストンさんに、クロエも大満足です。

「敵は竜をも従えた謎のホブゴブリン軍団、ざっといちまん!あと巨人と竜と魔狼がいた!!みんな早く逃げたほうがいい!!」

「ととととりあえず町の者に知らせねば」
「まあ、どくろ大橋を落としてきたので、2日は稼いだと思いますがね」
「なんと、橋を?……いや、このような折では致し方の無いことでしょうなぁ……」

「今晩のうちにでも、町の主だった方には知らせるのがいいでしょうね」
「ええ……そう、そうしましょう。竜の首、町の皆にも見てもらわなければなりますまい」

* * *
 翌日、ドレリンの放棄はあっけなく決まりました。竜の首のこともあったのですが、もうひとつ、町の皆を怯えさせる恐ろしい噂が運ばれてきたのです。

騎士かのじょの名は、ティヤニ・スラ。ブリンドルの黄金獅子騎士団団員で、誉れ高い"ブリンドルの獅子"の一人だということです。左胸の黄金獅子はその証とか。街道を早馬で駆けてきた彼女は、埃にまみれ、かなり草臥れた様子なのが見て取れますが、その髪は……そうですね、兜の中に押し込めておくにはもったいないほど美しい、黒曜の輝きを秘めていました。

「……というわけで、北の古道もレストの細道も、奴らが封鎖している。北に向かうのは危険だ。町の皆にも伝えてくれるか、町長」

「うわあ、連中そんなことまで」
「……どれだけ手が長いんだ、奴らめ」

「騎士さま。じつは私どもも恐ろしい話を聞いたばかりなのです」
 ウィストンさんが事情を説明しました。

* * *

* * *
「……なるほど。それがこの地図というわけか」
「そして竜の首っ!!」
「……っ?!」
「いきなりそれは皆驚くからおやめなさいクロエ」

「彼らのおかげで、ここにその写しがあります」
 とソラナ隊長。広げられた地図は、元が簡素な図版だったこともあり、かなりよく似せられていました。
「これを持って、ブリンドルへの急使となるつもりでしたが」

「了解した。その仕事、私が引き受けよう。隊長は町の皆の避難を」
「ありがとうございます」

「うむ、ところでひとつ聞きたいのだが」
 一連のやり取りを黙って聞いていたサンダースが口を開きました。
「北への街道を封鎖することにはどのような意味合いが?」

「……ああ、そうか。君達は谷の外から来たのだな」
「うむ」
「北は隣国との境にあたる。エルシアが助力を求められるとすれば、それは谷の外であり、北方の諸国ということになるのだ」
「孤立させられてるってことか?!」
 ジョンが呻きます。ど、どうしたんですか?

「エルシア谷の人口から考えて、常在戦力なんて微々たるもんだ。たぶん一千前後だろう。そうだろう、ティヤニ?」
 女騎士が、硬い表情で肯き返します。

「対する敵は一万。まあ一時に攻めてくるわけでもないとしても、戦力差は段違いだ。援軍がなければ……」

 そこでジョンが言葉を切りました。全員の視線が、彼の目を、表情を見ています。そして、次の言葉を待っていました。
 ジョンは、手を組み、視線を泳がせ、言葉を選び、ややあって、手を広げながら、彼なりの意見を述べました。

「……ブリンドルの城壁があっても、かなり苦労するのは間違いない」

「よっしゃ!じゃあ街道封鎖を解きにいこう!!!」
 クロエが飛び跳ねながら宣言しました。

「そうだな。ブリンドル公への早馬は騎士殿がやってくれるんだし」
「避難の殿はソラナ隊長がいるしな」
「ばっちゃが言ってた!どうせやるなら、自分にしかできないことをやれって!!」

「決まりだな。町長、その細道やら古道やらはどうやって行けば近いかな」

「然様ですか。では、道はみっつ。しかし、北の古道はその手前のどくろ大橋が落ちておりますゆえ、実質採るべき道は二つに一つでしょうな。
 ひとつ、あかつき街道を戻り、タラーからレストの細道を北へ。遠回りですが、かなり安全でしょう。
 もうひとつはレスト川を遡ることです。渡しの平底舟をお使いください。ここを放棄する我等には無用のもの」

「……うーん」
「川はなあ」
「ねえ」

 落ちたら溺れて死にます。まず確実に。
 道中の安全など誰も保障してはくれないのですから、途中で野獣や遊撃部隊と遭遇する危険性も考えれば、

「川、パス」
「だな」
「ですね」

「避難に先行し、テレルトンやナイモン峠に警告を発してくれてもよいのだが」
 ソラナ隊長が同行を促すかのように呟きました。

「……どうせだから最短距離でいこうぜ」
 腕を組んで考えていたジョン=ディーが、コスの地図を指し示して言いました。

「直線で、こう」
 "魔女の森"を、まっすぐ突破するコース。

 あっけにとられるウィストンさん、ソラナ隊長、レディ・ティヤニ。

「無茶だ!!!!!」

 言葉が最初に戻ってきたのは、ウィストンさんでした。

「あんたがたは"魔女の森"がどれだけ危険かご存じないのか!!拾った命をみすみすどぶに捨てるようなもんですぞ!!」

「あー、わるくない!!ていうかそれすごくいい!!」
「うむ、川は遡ることになるから、距離が短くともやはり時間がかかる」
「……街道を行けば遠回り。おそらく、5日から1週間はかかると思う」
「森で足場が悪いことを考えても、そうですね、4日あれば突破できるのではないでしょうか」

「ちちち」
 ジョンが指を振りました。
「今日出発すれば、実質3日で突破できる」

ペイロア様なんとまあ!この人たちは本気です!!騎士さま、なんとか言ってやってください!!」
「勇敢と無謀は違う、と良く言うが……彼らがもし本気なら、それを止めるわけにはいかないよ」

「ソラナ隊長!あんたからも言ってやってくれ!"魔女の森"を歩いて抜けようなんて、正気の沙汰じゃない!!」

「町長、彼らはね、冒険者なんだ。本物の冒険者なんだよ」

「よーし、じゃさっそく行くか!町長、ソラナさん、騎士様、あとよろしく!!」
「やれやれ、またしばらく野宿か」
「あとで野営の順番を決めようぜ」
「みんな!ブリンドルであおう!!」

「……あのですね?みんなやる気マンマンで忘れてるみたいですが、町長。出発前に、お約束の報酬を頂いてもよろしいですか?」

「「「「わ、忘れるところだった!!!!」」」」

* * *
(続く)

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