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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』02・1日目 ドレリンの渡し

* * *
 ドレリンの渡しは、あかつき街道の旅人たちをしばし憩わせるちいさな町です。谷の北側に広がる“魔女の森”のちょうど南の外れにあり、大きな橋があったのであろう橋脚が残る大河、エルシア川の東側が町の中心地でした。

「ドワーフの作でしょうか」
「多分な。200年前に滅んだ王国とかの、往時の名残じゃん?でけえ橋だったんだろな、向こうまでたっぷり100ヤードはある」

 橋の下流に、ロープが2本渡されており、そのはしけには平底舟が係留されています。あのロープを伝って川を行き来するのでしょう。船頭が、店じまいとばかりに船をもやい、帆布を引き上げて幌のかわりにしているのが見えました。もうすぐ日が暮れますし。
 町は、畑から引き上げてくる農夫や一日の仕事を終えたらしい樵たち、家路を急ぐ子供たちや憂さ晴らしに繰り出したらしい徒弟たちの姿で少しく賑わっていました。
 風向きが変わり、人いきれに加えて、街道で感じたのと同じ、埃っぽい風の匂いに混じってどこからか、煮込み料理のスパイスの効いた匂いやかまどの煙、パンの焼ける匂いや薄めたエールの匂いまで漂ってきました。

「とっとと手紙を町長に渡して晩ごはんにしる!」
 クロエがコンボイだけでなく、私たちも急き立てはじめました。物見遊山もほどほどにしないと空腹のあまり暴れだすかもしれません。サンダースがちいさく肩をすくめ、バッシュがあたりを見渡しました。誰も彼もが忙しそうで、少々変わった旅人の一団など目もくれません。

「うむ、むしろ目を合わせてくれぬというか」
 ダスクブレードがちろりと大猿を見ました。背中に鞍を背負ったコンボイは、その鞍と肩との辺りをぼりぼりと黒い指で掻き毟っており、クロエもそこに手を突っ込んでわしわしと掻いてあげています。愛想はある猿ですが、……如何せん大きいんですよね、コンボイ。近くで見ると怖いし。
「……または係わり合いになるまいと思われたか」
 うーん、そうかもしれませんね。『トラブルこそ我が商売』って顔に書いてあるような連中に、好んで声をかける道理はありません。そこで私は、できるだけ愛想よく、道行く農夫に町長の家の場所を尋ねました。

* * *
「やあやあ、よくきなすった。アリリアさまはご健在かな」
「おかげさまで。手紙を預ってまいりましたのでお受け取りくださいまし」

 ノロ・ウィンストン町長は、大変に気の良い方でした。我々に掛けるよう勧めると、今年の夏は大変暑い、だがおかげで秋の収穫はかなり期待できそうである云々と話しながら、手紙を開いて目を通し始めました。

 私との会話を途切れさせずに手紙を読み勧めていた町長は、ややあって、困惑したような表情で手紙を置き、「はて……」と呟いて顎を撫で回しました。

「……ううむ、まあ確かに気にはなっておったのだが……ふうむ……」

 どうも手紙は吉報ではなかったようです。これは早々に退散するに限りましょう。

「ところで町長様、今晩の宿を決めたいと思うのですが、ドレリンにはこれと言う宿屋はございますか?良ければお薦めを教えてください」

「お、おお。そうですな、ディロラ女将の“馬屋”などはいいでしょう。大きい厩がありますよ」
「決まり!コンボイを泊められるから“馬屋”でけってーい」
「まあまあ。他には?」
「あとはケリンの“橋屋”ですなあ。賑やかで、料理も手が込んでいる」
「どっちもいいねえ」
「……うむ、それよりも、町長に話しておいた方がいい」

「町長!」
 年季の入った鎖帷子を身につけた女戦士が部屋に飛び込んできました。制服と思しき外套、佩剣から察するに、警備兵長といったところでしょうか。

「どうしたね、ソラナ隊長」
「来客中でしたか、失礼を」
 町長が隊長と呼ばれた女戦士に先を促します。――彼らはアローナの神殿から使わされた冒険者の一団だよ。かまわない、話してくれ。なにがあった?
「またしてもホブゴブリンの襲撃が。昨日の晩、東三の庄が襲われ、怪我人が出たと」
「なんと、またか」

「うむ町長。それならば我々も遭遇したぞ」
 サンダースが先ほどの待ち伏せのことを手短に語りました。

「……ここらではホブゴブリンが多いのか?」
 バッシュの目が剣呑です。多い、と返事をされたら、今すぐゴブリン狩りに飛び出すのではないかというほどの怒りに満ちた目。

「ああ、最近とみに多くなっておりましてな」

 ちょ、町長!?もっとなんというか、言葉を選んでっっっ。

「よし」
「うむ」
「いっちょやるか」
「ホブゴブリン?ぼっこぼこにしてやんよ!」

「むう、さすがアリリア殿の見込んだ漢たち。よろしい、では折り入ってあなたがたにお願いがあります」

 町長が直截に切り出しました。

「お聞きの通り……そして皆さんも遭遇したとおり、この辺では最近、ホブゴブリンの野盗たちが幾度と無く出没しております」

 町長はアリリア様の手紙をとり、それをこちらに差し出しました。

「アリリア殿の受けた神託によれば、かつて無い災いがこの町に迫っているとのこと。そしてその災いを祓うために、あなた方の力が役に立つかもしれないと」

「うわーほんとに書いてあるー、アリリアのおばちゃんお膳立てが容赦無ぇーっ」
 手紙をのぞきこんだクロエがうめきました。ソラナ隊長は無視して話を引き継ぎます。

「私たちはこの野盗どもがどこに、どの程度いるのかを知りません。そのため、警備の兵をどれほど増やせばいいのか……町の議会にどう諮るべきか、迷っているのです。どうでしょう、ホブゴブリンたちの様子を探ってはくれませんか」

「いいよー」
「うむ」
「喜んで引き受けよう」
「ホブゴブリン?ギッタギタにしてやんよ!」

「ええと。もともと町の周囲にはホブゴブリンの部族がいたのですか?」

「ええ、北の“魔女の森”を境に、川を越えてから北に伸びるあかつき街道の西手が“竜煙山脈”になります。この一帯に2、3の部族がいたはずで」

「……数は」
 大事なことですので、ちょっと怖気ながらも尋ねてみました。

「一部族の雄どもが20~30として、そうですなあ、およそ100は下りますまい」
 100!私は絶句してしまいました。15匹のホブゴブリンでもあれだけ苦労したのに、100ではまるっきり戦争じゃないですか。

「分かった」
「うむ」
「町長さん、明日の朝出発でいいか?」
「ホブゴブリン?みっくみくにしてやんよ!」

 え、ええっ?!引き受けちゃうんですか?!

「ありがたい!では皆さんの帰還と情報を待って、警備をどの程度強化するか、また退治のための警邏を増やすかを決めさせていただきます」
「くれぐれも気をつけて。森の中のことならば森番のジョールが詳しいでしょう」

「わかった、町長。任せてくれ」
「よーし、じゃあ宿屋いこうぜ宿屋ー」
「うむ、久しぶりにベッドが使えるな」
「クロエは屋根あるところニガテー。でもうまやの寝藁はきもちいーよな!」

 あああぅ。誰も切り出さない。こ、これは私が言わないと誰も気がつかないパターン?

「……あ、あのう。町長、隊長さん。それだけ危険な仕事なら、某かの報酬はご用意いただけるのでしょうか?」
 私はすでに席を立って荷物を担ぎ始めたみんなの間から、意を決してそう問いかけてみました。

 すると村長、にっこりと微笑んで、

「みなさんの勇気と献身に、町のものは皆感謝するでしょう」

 ……。

 室内を、いやな感じの沈黙が支配しました。

「うわっ!いまマジで立ち去りかけてた!そうだよ、なにか忘れてると思ったらそれだ!」
「忘れてると思った、というか、すっかり忘れていたな」
「いやいや、世知長けた司祭殿が一緒で本当によかった」
「町長、ホブゴブリン野盗団を強攻偵察してくる、という依頼はよっく分かった。で、報酬は?」
 ジョンが指で輪を作ります。

「ええと、ですから。町の者たちはみなさんに深い感謝の念を捧げるでしょう」

「いや、それどうよ町長?!ねえ。俺らがうっかり報酬の話しないで出てったら黙ってるつもりだった?そりゃないんじゃないのー?」
 ジョンがまくし立てました。さすがの町長もちょっと申し訳なさげな表情をします。

「まだ野盗の脅威は詳らかでないのです。したがって町の予算を勝手に使うわけには……ううん、しかたない。私の財布から一人500gp支払いましょう。もちろん成功報酬です。野盗団の存在が明らかとなるような証拠もお願いします」

「よし」
「うむ」
「500か!流石に駆け出しの頃とは桁が違うな!」
「みがるになって、ゴブリン狩りだー!いだてーん!!」

 全員、ざくざくと荷物を背負い、しゃきしゃきと部屋を出て行きました。戸口で、かるく手を振ったり親指立てたり、辛うじて礼を失しない挨拶とともに。
 最後に部屋を出ることになった私は、ぺこ、と頭を下げて、告げました。

「それでは、吉報をお待ちください。我ら“チーム急行”、必ずや良い知らせを運んでまいります」

 肯き返す町長と隊長は、しかし、すこーし不安そうな表情をしていました。多分、只→安請け合いの連続攻撃が、ものすごく軽く見えたんじゃないでしょうか。
 あとは値上げ交渉をしなかったこととか。冒険者らしからぬ姿勢ですものね。
 前の4人は、偵察の方向、日数、目標、ところでジョールさんってどこ住んでんの?とかいった話で盛り上がっています。

「それでも」
 私は4人の後ろをついていきながらつぶやきました。

「そういう清廉な姿勢、私は好きですよ」

* * *

(03:“ジョールの小屋”に続く)

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