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【D&D】『赤い手は滅びのしるし』01・1日目 あかつき街道の伏兵

* * *
「やべえ、道幅が狭い!狙い撃ちされるぞ!!」
 ジョン=ディーが叫びました。道は左右が5フィートは高く、いわば森の中を走る溝のような地勢です。その道の先、森と下生えから半身を乗り出し、左右それぞれ3匹のホブゴブリンが、きりりと引き絞った弓をこちらに向け、一呼吸置いて、一斉に放ちました。
 空気を裂く赤い矢羽の音。

「コンボイ、ごー!!」
 身長ほどもある段差をものともせず、大猿は左手の下生えへと飛び上がります。道を直進すると見込んだ矢は一人と一匹をかすめ、しかし血を流させるには至りません。

「ふむ、さすが猿」
 バッシュとサンダースが遅れじと駆け出しました。

「直線の道……左右から弓兵の挟撃……ならば次の手は……」
 ジョン=ディーがぶつぶつ言いながら、道の先を睨んでいます。私も膝を落とし、コンボイを迎撃しようと必死で矢を放つホブゴブリン目掛け、二射三射と反撃しますが、下生えや木々が遮蔽になってなかなか当たりません。

「端からつぶーす!ちゃらりら~!“ギラロンの胸毛”~!」
 クロエが腰の小袋から白いなにかを取り出して頭上に掲げて見せました。即座にソレを口に含み、あむあむと噛み締め、

「共有!注入!《ギラロンの祝福ギラロンズ・ブレッシング》~!!」

 コンボイの頭に噛み付きました。白い毛皮の四つ腕の大猿の霊が輝き重なって、――コンボイの腕が4本に増えました。騎乗するクロエの腕も4本です。

「わおわおわお!いけーコンボイ!やっつけろ!!」
 増えた腕は無慈悲にも先頭のホブゴブリンを捉え、ばりばりと引き裂き始めます。

 横目で見ていたバッシュが、げえっ、とうめき声を上げました。しかしジョンはす、と目を細めると、
「サンダース、バッシュ!正面だ!!」
 一声叫んで、ポケットから取り出した何かを、彼らの頭上を越えその向こうへと放り投げました。
「なにっ?!」
 
「突進してくるぞ、構えろ!!」
 ジョンが放り投げたのは、今朝の朝食の残り……ベーコンの欠片、硬い脂身です。くるくると回りながら飛んでいくそれの向こうから、猛然とかけてくる赤錆色の大きな犬が二匹。大きく開かれた口からはしゅうしゅうと硫黄の匂いをさせ、目は赤々と狂気に輝いています。

「ヘル・ハウンド!!気をつけろ、火を噴くぞ!」
 サンダースがバッシュに大声で伝えます。しかし、あれでは二人とも突進する魔犬の正面に立ちすくむ羽目に!

「《(グリース)》」
 ジョンが指を鳴らすと、二人の剣士の正面の道が、ベーコンの欠片を中心にぬるぬるとした脂で厚く覆われました。飛び込んできたヘル・ハウンドは勢いのままたまらずに転倒します。
「こりゃいいや」
 バッシュが足元の危うい魔犬を、脂の外から殴り倒します。苦し紛れに吐かれた炎も、二人の命を脅かすほどではありません。
「うむ、ここは任せた」
 サンダースは、右手の弓兵を切り伏せるべく、その先で農家跡地に繋がるであろう踏み分け道に駆け上がりました。

「逃げんなコラー!!」
 左手では、下がりながら弓を撃ち撃っては下がるという消極策に切り替えたホブゴブリンに業を煮やしたクロエが、彼らを巻き込む《からみつきエンタングル》を森に命じました。たちまちにして森の木々も蔦も下生えも弓兵に撒きつき捕らえ、彼らの動きを封じます。

「どれ、“我が声を聞け招来されるべき怪物たちよ……”」
 ジョンが《怪物招来サモン・モンスター》を唱え始めました。まだ戦闘が続くと考えているのでしょうか。
「! ジョン!!」
 一本の矢が彼の頬を掠めます。一番奥手右の弓兵が、呪文を邪魔すべく放った矢でした。
「……っ、あ、危ねえな!!当たったらどうすんだ!」

 無事ですかジョン。無理に召喚呪文なんか唱えなくても。

「挟撃する弓兵、前線を伸ばさせるべく飛び込んできた犬、……まあ後衛を守るために前衛は飛び出すよなアルウェン」
「それはそうですが」

「連中の思う壺、戦線が縦に伸びちまった。俺ならここで伏兵を全力投入するね!」
 力説するジョン=ディーの背後、崩れた農家の廃屋の影から、その言葉を待っていたかのように、盾と剣とを携えたホブゴブリンたちが、怒声を上げて突進してきました。

「うわぁっ!!」

* * *
 不意に姿を現した二刀持ちのホブゴブリンが、魔力輝くショートソードを振りかざして吼え猛ります。消えたままの不意打ちも、サンダースに痛手を負わせることはできなかったようです。

『ソコノオ前!オレト戦ウ勇気ハアルカ!?俺ハブレードベアラー、赤イ手ノ偵察軍一ノ使イ手ダ!!』

「うむバッシュ、こいつは何を言っている?」
「赤い手がどうとか。どうやら只の野盗じゃないようだぞ」

『死ネ、人間ドモ!赤イ手ノ足元ニ恐レ慄キ跪ケ!!強大ナ軍団ノ迫ル恐怖ニ打チ震エナガラ惨タラシク死ヌガイイ!!』

 メイスを振り上げた、金属の帯を荒っぽく巻きつけた鎧のホブゴブリン――おそらく司祭でしょう、彼もまた直前まで姿を消したままバッシュとサンダースに近づき、不意打ちを試み――しかし、致命傷を与えられずに憤りながらなにやら長広舌を振るっています。
 その背後には、着実に歩みを進める、かなり訓練されたと思しきホブゴブリンの小隊。
 数で押されるとちょっと厄介です。というか、一撃一撃はわずかでも、おそらくバッシュとサンダースのどちらかはこの戦いで――治癒呪文を勘定に入れても――斃れてしまうでしょう。かなりの幸運か――奇跡の導きが無ければ。この距離、コンボイとクロエの前線到着は間に合うかどうかの……

「気持ちよく前進とか、それ無理!なぜならば《からみつきエンタングル》!!」
 クロエが呪文を唱えつつ、コンボイはずんずんと駆け込んできます。農家の周りの草も蔦も、伏兵の半分を絡めとり、もう半分の前進を阻害しました。

「どけ、ボケ!!」
 怒声と共に、バッシュの棘盾がホブゴブリン兵の頭を打ち砕きます。しかしさらに二人のホブゴブリンが立ち塞がり、バッシュから司祭に攻撃を加えることができません。

「うむ、ではこちらも奥の手を出させてもらおう。
 ――ハイローニアスの名に置いて/雷撃よ/我が掌に集え――」
 ブレードベアラーの正面で(真正面で!)高速言語化されたと思しき口訣をサンダースが唱えると、左手に電撃の爆ぜる小さな音と白い光とが生まれます。相手の間合いの中での呪文発動なのに、敵には付け入る隙も与えず、

「おお、あれが噂の」
「あれは……《雷握撃ショッキング・グラスプ》ですか?」

「――秘術注入――」
 電撃を溜め込んだ左手を添えれば、長剣は瞬く間に怒れる雷神の武具へと変貌します!!かつて見たことも無い魔剣士の絶技に、呆然とするブレードベアラー。
「……あそこまで込みで一行動(標準アクション)らしいよ。呪文を唱えるのと剣で斬るのを同時にこなしたい、というエルフの理想。その技巧を求めた研究の成果、それが――」

「むん!!」
 両手でブレードベアラーを切り伏せるサンダース。斬撃の瞬間、蓄積された雷撃がホブゴブリンの肉と神経を焼き、同時にその斬撃が彼の命脈を絶ちました。

「ダスクブレード。剣の昼、魔法の夜の『間』を行く“夕闇の刃”。エルフは詩的表現が好きだね」
 ジョンが暢気に解説を始めています。

「司祭が逃げますよ!」
 戦況を不利と見た司祭が、踵を返して撤退しはじめます。下生えと廃屋、そしてエンタングルの効果範囲が、逆に彼の退路を確保してしまいました!私の撃った矢は廃屋の壁に当たり、なんの妨げにもなりません。ううっ、アローナよ、私の研鑽はまだまだ足りないのですね。

『オ、覚エテロ貴様ラ!必ズ殺シテヤル!次ニ会ッタ時、必ズダ!』
「いかん、逃げられる!」
「空でも飛ばないと間に合わないぜ!」

「おまかせ!《風の王者マスター・エア》!!コンボイ、トランスフォーム!!」
 呆然、というか、あっけに取られてしまいました。

 クロエの呪文で大猿の背中に生えた翼は、その巨体を悠々と浮かせ、ほとんど一瞬で司祭の後方に彼を回りこませてしまったのです。そして、高々と振り上げられる四本の豪腕。

「ふる・ぼっ・こー!!」

* * *
「結局、なんだったんだこいつら」
「わからん。全部倒してしまったからな」
「なんか詳しそうなのは肉片になっちゃったしな」
「どうせ喋らない!クロエは無駄を省く主義!」
「とりあえず、ドレリンに向かいましょう」

 我々を不安にさせた事実。それは、彼ら全員が高品質の武器で武装し、その荷物には必ず『軽傷治癒の薬』があったことでした。

「なあ、ものすげえ陰謀と言うか背後の組織の存在を感じるぞ」
「なりふり構わぬ戦いぶり、そして統率力。さらに潤沢な資産。何者だろう」

* * *
 ――今にして思えば、それが、『赤い手』の軍勢との長い長い戦いの、最初の一戦だったのです。
* * *

(02:“ドレリンの渡し”に続く)

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