【迷キン】流星!超☆魔神学園!(了)
* * *
勾配のついた通路を登っていけば、はたしてそこは『支配者』の間でした。予想外だったのは、荒れ果てていたことではなく、入り口に整然と並べられ飾られた、大量の盾と槍。そして、室内に流れる物悲しい笛の音です。
「これはいったい?」
ダチュラ姉さんの疑問に答えられるものはいませんでした。
『次!』
奥から野太い中年男性の声がしました。笛の音は途切れることなく旋律を紡いでいます。
警戒しつつ奥へ踏み込みます。軍議のための広さと思しき『王の間』は、迷宮化の影響でしょうか、右手の方の壁はすっかり崩れ、下の階――どこまで深いのかは見て取れません――からの冷たい風が吹き上がってきています。
玉座と、底の知れない亀裂と、
「~♪」
笛の音の主である【笛吹き男】と、
「みんな!無事ですか?!」
行方不明だった坑夫たち――笛の所為で目の焦点があっていません――と、
「ほう、珍客であるな」
赤いマントのまっ裸マッチョ王――ただしその首を小脇に抱えた――とが、私たちを出迎えました。
「少々待っておれ。彼の番である」
首がそう言い、マッチョボディのほうがぼんやりと立っている坑夫を一人つまみあげて、亀裂のそばまで行きました。
「『獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とす』という!汝が我が後継たるか否か、その身で持って証明してみよ!!」
と叫ぶが早いか、坑夫を亀裂から下の階に放り投げてしまいました!!!
* * *
「……ふむん。上がってこない。奴ではなかったか」
笛の音を背景に、王が独り言ちます。
「では次」
「あああああんた何してんだーーーっ!!」
ナチュラルに次の坑夫を突き落とそうとする筋肉ダルマに、オーボエさまが絶叫調で突っ込みました。
「我が300の親衛隊は敗れ、我が事はならず、しかし民主主義は守られた。事後我は親衛隊とともにここに葬られたのだが」
【笛吹き男】が王の独白を聞き、自分の出番は終了と見るや、王に手を挙げて挨拶すると、下手へと退場していきました。
「し、下手?どっち?」
「下手は下手ですよクリップ姉さん。『シニカルポップダンジョンシアター』なんだから上手も下手も緞帳も背景も客席も、なんと楽屋だってあるんですよ?」
「ほ、ホントにー?」
「嘘でーす」
「……ああ、奴は坑夫誘導のための演出である。気にするでない」
「王様までメタな事言い出した!」
「……葬られたのだが。死んだまま、我は考えていた。我が鎧は不要となったゆえ後の勇者に譲るべく、生前のうちに宝箱へと片付けた。
だが剣は?この『滅ぼすもの』は?この剣を振るうものは剣の力にふさわしい徳と武力とを備えていなければならぬ。さもなくば剣の力があらゆるものを滅ぼすだろう。そして我が名声も失われるのだ、『自分の武器をちゃんと片付けられない奴』という汚名を受けて」
「それは確かにかっこ悪い」
「じゃあこの!私が!踊り続けているのはあなたのせいなのね!!」
「む?……おお、そうか。我が鎧を受け継ぎしか。どうだ、よい鎧であろう?」
「「「「最高です!!!」」」」
生徒も会長もダチュラ姉さんもみんな声を合わせて親指立てました。だ、ダメすぎるよ男性陣!!
「無事に国まで戻れれば呪いも解けよう。我は剣の後継者を探さねばならぬ。立ち去るがよい……次のもの!!」
「僕だ!」
オーボエさまが声を上げました。
「その坑夫たちは僕の学園の生徒になる!だから谷に投げ入れるのはやめてもらおう!」
「ほう、では汝が我が『剣』の担い手にふさわしいかどうか……試してやろう!!」
裸マッチョが左手でマントを翻すと、石の床に迷宮模様が浮かびあがり、その中心から、鈍く輝く黒い剣が、幽鬼のようにせり上がってきました。刀身には不可解な魔術文字が見たこともない術式で刻印され、わずかに赤く輝いています。剣そのものの造りも非常に大きく頑丈そうです。それはたぶん、篭められる魔力に負けぬよう、あらかじめ堅固につくられたからなのでしょう。
「あんなバカでかい剣をあのマッチョが振るうのか……」
「いいや」
王が言いました。
「我が剣は【魔剣】なり!さあ、我が妄執に染まりし剣の舞を受けよ!!」
魔剣『滅ぼすもの』は、ふわりと宙に浮かぶと、私たちに切りかかってきました!!
* * *
「か、硬いっ!!」
オレンジ君が思わず知らず悲鳴を上げます。レオニダスに切りかかろうにも、その前で悠然と宙を舞う魔剣を越えては行けません。ダチュラ姉さんと力を合わせ、その動きを止めるべく何度も攻撃を加えますが、魔剣にはその操り手がいません。剣そのものを相手にする戦いなど、いったいなにを倒せば決着がつくのでしょう?
全力を持って剣を折りきる為の一撃を加えたオレンジ君ですが、如何せん魔剣の強度も並大抵ではありません。なにせ【外皮】鉄みたいなもんですし。
「おまけにコイツすばやいよ!!」
本気の一撃は【跳】んでかわし、2対1の不利は大きく薙ぎ払う【範囲攻撃】で補います。
「うーん、これはかなり苦労しそうですねー」
「そこに【流れ星】!!」
オーボエさまが、【気力】を振り絞って、天階より星を招来しました。輝く流星は過たずレオニダス王を撃ち据えます!!
「くっふふふ、なかなかやりおるのう。だが【流れ星】は星術師にとっても負担の大きい技の筈。あと何回撃てる?1回か、2回か。それでは我を倒すことなど到底無理無理!!」
「舐めるなレオニダス!このオーボエ、名は惜しんでもモノは惜しまん!この【星の欠片】を喰らえ!!」
「笑止!【星の欠片】を持ち出した以上、貴様の【気力】はすでに限界!2回程度の流星で我を滅ぼすことなど出来はせぬぞ!!!」
「オーボエさま!!」
スカートを絡げて走り出し、転んだ私の姿に、クリップ姉さんが手持ちの【楽器】を使い、絶妙のタイミングでギャグっぽい効果音を入れてくれました。う、うう。失敗がジョークっぽい雰囲気になって許されるのはいいとして、やっぱりなにかしようとするたびにお互い【楽器】を構えて効果音入れるのを待ち構えるのは、どこかでやめたい悪癖だと思うんですぅ。
「だ、大丈夫かスコーン?」
「は、あ、ありがとうございます会長!……じゃなくて、あの、いま転んだので思い出しました!これをどうぞ!!」
私は、ほんのちょっぴり星砂の入った小瓶をオーボエさまに差し出しました。ふつうの星砂とちょっと違うのは、これがわずかに輝いていること。私は普段から、星ランタンの掃除や彗星の通ったあとの掃除のときに見つけた、【星の欠片】にもならない小さな輝く星砂を、ひとつひとつより分けて小瓶に貯めこんでいたのです。
「あ、あの、光る星砂です!レアですよ!アイテムですらないですけど!
でも、オーボエさまなら絶対!!これを使ったって【流れ星】が呼べると思います!!」
「……スコーン……」
「オレンジくんも手伝ってくれたんです!『しかたないなあ』って。それからクリップ姉さんはこのビンの口のリボンをくれました!『ここを目標にがんばりなさい』って。ダチュラ姉さんは、『もし【天文館】が建てられたら、その星砂さがしもちょっとは楽になるかもね』って、学園中の星ランタン掃除を私に任せてくれたんです!」
「……お前、バカだなあ……
……アイテムじゃないんだから……
これ、何にも効果はないぜ……?」
は、はう!オーボエさまの視線が『愚かなイキモノを見る哀れみの目』に?!
「……ったく……そんなバカなことをされて……やる気出さないわけには行かないよな!!
オレンジ!スコーン!お前らの【気力】、確かに預った!!」
オーボエさまが、星砂の小瓶を手に、すっくと雄雄しく立ち上がられました!
「むう、【お手伝い】と【好人物】、【楽器】の効果にそれだけの背景があったとは。ていうか、おまえら随分【気力】の融通が利くな?!」
「お前のメタな発言の趣旨はよく分からん、ということにする!
喰らえレオニダス、これが全力全開の【
* * *
その日、無数の流れ星が第零階に流れた、と、後世の学園史には載せられています。
* * *
この遠征の間に、数人の犠牲があって、数人の誕生があり、数人をエレベーターに弔って、数人のあたらしい生徒を迎え入れ。
レオニダスを討ち、魔剣を我が物とした私たちは、その後速やかに学園へと帰還しました。もちろん、途中ではぐれていた数名の捜索と回収も行いながら。
数週間後。
「落成式だ!」
「わ、おめでとうございます!これで【星の欠片】拾い放題ですね!」
「あれ、スコーン、お前何も聞いてないの?」
「私は【リサイクル屋】とか【温泉】とかお勧めしたんですけどね」
「え、【天文館】じゃないんですか?」
「遠征の間に、生徒たちが【ギルド】を大きくしてくれてたし、これだって必要な施設だしね」
「結局、さっさと女の子になっちゃいな、ってことなんじゃないの?」
「……えーここに!超☆魔神学園【転職所】を設立する!!」
ドアを隠していた布が取り払われ、新しく設けられた教室のその表示板には、黒々と【転職所】の文字。
「べ、べつにスコーンのために建てたワケじゃないんだからなっ?!?!」
顔を赤くしていろいろ否定なさるオーボエさま。
わたしは、人目もはばからずオーボエさまに抱きついてしまい、ええっと大声で、
「オーボエさま、大好きっ!!!」
――ええーん、この羞恥プレイ的学園史編纂作業はいつまで続ければいいんですかオーボエさまー?
……うるさいっ、しばらくそこから出てくるなっ……
とほほ、とか言いながら、私はこの日記を平行して書いています。学園史はいずれ誰かが編纂し直しますけど、日記は私のプライベートですからね。
それに、ここに書いておこうと思うことがあるのです。
近いうちに、【使い魔】か【ホウキ】を手に入れて、きちんと【魔女】に転職したいと思います。転職所は失った男性の治療に効果を持つ、というのは有名ですが、私みたいのが転職したとき、果たして男に戻るのか女になるのか?
【魔女】ならば、月の魔力のために、かならず女性になるとの話。わたしは、ぜったいまちがいなく女の子になってしまいたい。だれにも有無を言わさぬ完全な女性として――ええと、資質とか教育とか美貌とかにはちょっと自信がないですが――私の性別の事でオーボエさまに要らぬご迷惑はおかけしたくないのです。
それが私のささやかな決意。日記にだけ書いておく秘密の目標。
と、ここまで書いて、私は学園史の著述に戻ることにしました。まだまだ書くことはあるんです、【魔剣】の力とかダチュラねえさんの鎧のこととかクリップ姉さんの治療の確かさとかいろいろと。
でも、日記に書くことはもう大体書いたので、今日はここでおしまい。たぶん抱きついた辺りとか魔剣との戦いの様子とかは、書き直しさせられると思うんですけどまあ……わたしが覚えてるのはこの程度なんですよー、とつぶやいて、私は日記と学園史を仕分けて揃え、立ち上がって伸びをしました。
学園の今日が終わり、明日がもうすぐやってきます。願わくば、すべての生徒に素晴しい一日でありますように。
* * *
(迷キン『超☆魔神学園』 了)
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