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【NHD】『恐竜王子』5

2007年08月26日mixiより再録。
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* * *
「閉鎖かよ。まあ客いないし、しょうがねえのか?」
「まあねえ。市民の憩いの場だから、残していこうって市民運動もあるんだけどねえ。遊具とか設備とかもずいぶん古くなってるし、事故のこともあってねえ……はい、ホットドッグおまち」
「おいおばちゃん」
「なんだい」
「2つあるのはいい。なんで片方黄色いんだ」
「サービスサービス。おばちゃんの愛情たっぷり?」
「うわぁ……」

* * *
「……昨日のあれ、なんだったんでしょう」
「うーん、きっと何か原因はあると思うんだけどね」
「……恐竜、でしたよね」
「そうだねえ」
「あのこも、恐竜好きだったんです」
「……」
「……すみません、わからない話をしちゃって」
「今日の目的地と関係あるのかな」
「去年の今日、弟がそこで死んだんです。事故で」
「それは……ご愁傷様で」
「ううん、すみません先生。嫌な話を聞かせちゃいましたね」

* * *
「うっほっほーい。こりゃあ……」
『夢が丘遊園閉鎖反対!』『市民の憩いの場を守れ!』『営利に走る市政を許すな!』
 手書きの、お世辞にも趣味がいいとは言えないアジ看板。瀟洒な住宅地には似つかわしくない負のオーラが、その家の、手入れのされていない庭からも針金で不器用にくくられた看板からもにじみ出ている。

「……プロ市民、ってヤツっスね」
 表札は、モリナガ。故タクローくんの家に間違いなかった。

「とりあえず写メ取って二人に送るッス」

* * *
「ありがとうございました。あの……」
「帰りも送るよ。先生も手を合わせさせてもらっていいかな」
「ありがとうございます。たっくんも喜びます」

「あれ?委員長」
「ノムラ君?どうしてここに」
「ん。ホットドック、食うか」
「……片方、黄色いよ?」
「こっちは俺の愛がてんこ盛りだ」
「ご馳走になっていいの?」
「すまん、嘘をついた。てんこ盛りなのは俺のじゃなくておばちゃんの愛」
「……マスタードかかってないほう、頂くね」

「よお先生」
「やあテツヤ君、首尾はどうかな」
「フツー。たいしたことはわかんね。弟が死んだ。両親は防げなかった。ここは閉鎖されそう、反対する市民団体はあるけど……ってところかな」
 恐竜の像の周囲にめぐらされた、カラフルな仮設柵の前に跪いて、黒い服の少女は静かに手を合わせていた。その後ろで、小声で情報交換する山田とテツヤ。
「あれは喪服ってことか……やるせねぇなあ」

 ♪~

「メール?」
「私もですね」

『ウス!モリナガ宅に来たッス!住所:マチナカ市XXX字XXX XX-XXX。ちょっと怪しいふいんき(←なぜか変換できない)ッス!いわばプロ市民の巣!このあとはあたりで聞き込みしてみようかと思うッス!なんか分かったらレス欲しいッス!んじゃ!』

 添付された画像データをまじまじと見る二人。
「ひでぇ家に住んでるな」
 能面のようになった山田が、無言で携帯を操作し、誰かを呼び出した。
『きゃは!えむいーに電話してくれてありがとう!この電話は自動転送されまっす!ちょっとコールするから待っててね?』
 アニメ声の転送メッセージが流れ、1秒……2秒……
 山田は明らかに動揺していた。

『ハァイ☆エミでぇす』
「クタラギさん?そこはどこですか?!」
『えー、モリナガさんちの前ですよう。保険会社のDBをクラックして割り出した住所だから間違いねッス』
「いいですか、よく聞いてください。わたしが委員長を迎えに行った家は“そこではありません”」
「はいぃ?おい先生、どういうことだ」
『うぇえぇ?でもタクロー君の家はここで完璧間違いないッスよ』
「じゃあ」

 祈り終えた喪服の少女が立ち上がり、ゆっくりと振り向いて、

 ふたりに向かって微笑んだ。

「あの娘はいったい、誰なんですか」

* * *
(続く)

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