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【NHD】『恐竜王子』4

2007年08月23日mixiより再録。
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* * *
「おばちゃーん、ホットドッグくれ」
「はいよー、何本?」
「あるだけくれ」
「はいい?!」
「いやー、ちょっと聞きたいことがあってさ」

「なんだそういうことかい。驚いたよ。いいさ、1本余計に買っとくれ。……それで、なにが聞きたいんだね」
「あの恐竜で去年事故があったんだよな」
「ああ、あの男の子の……ありゃ痛ましいことだったねぇ。ちょうどお父さんがホットドッグを買いに来ててねえ」
「うわー……」
「悲鳴が聞こえて、駆け寄るお母さんも半狂乱でねえ。お父さんの方も救急車呼んでください!ってすごい声で」

「それであの恐竜、頭のてっぺんまで登れる構造なのに立ち入り禁止なのか」
「そうだねぇ、あの事故がトドメみたいなもんだったねえ」
「まるっきり客いねえもんな」
「言いにくいことをはっきり言う子だねえ。でも気に入ったよ」
「うるせえょ。で、そのあとは?やっぱりモメてるのか」
「いやぁ、実はねぇ。ここ、来月閉鎖されるんだよ」
「は?」

* * *
「あっ……」
「こんにちは、モリナガさん。どこかへお出かけですか」
 少女の装いは、黒を基調にまとめられた大人しやかなものだった。
「先生こそ。どうしたんですか、今日は」
 山田は後ろの赤いフェラーリ・テスタロッサを親指で示した。
「ちょっと散歩に。よければ送りますよ」
「いいんですか?私、その車の助手席は決まった方がいるんだと思ってました」

「残念ながら教師と言うのはそんなにモテなくてね。実は今日は、昨日の事件で皆が動揺してないか、様子を見て回ってるんです」
「あら、生徒にそれを言っちゃっていいんですか?」
「モリナガさんには特別ですよ。正直、あなたがクラスメイトの様子を教えてくれたら、他の皆のところには巡回しなくてもいいかもと思ってます」
「やだ」

 くすくす笑う委員長。しかし、その笑みにも仕草にも、今日だけはわずかな翳りがあるのを山田は見逃さなかった。しかし、そんなそぶりは露ほども見せずに、山田はスパイダーのドアを従者のように恭しく――少々おどけた風情で――開いてみせた。
「さあどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「どちらまで?」
「ええ……夢が丘公園までお願いします」

* * *

「んあー、事故→被害者補償→保険→保険会社。アタリマエのラインッスね」
 エミは、自家用のフィアット500を保険会社ビルの地下駐車場に停めながら、自画自賛していた。公園の遊具から市の契約している保険会社を特定するのはたやすい。

「フヒヒ、こっから電子の妖精えむいーたんの本領発揮なのですよー」
 ひとり言が多いのも腐女子の特徴らしかった。グローブボックスを開くと、ガススプリングで小さな作業台が助手席に現れた。台の上には無銘のノートパソコンが一台。何本ものケーブルが、グローブボックスの中に消えている。

「“スクライング”で起動中のPC画面を覗き見るのもありですけどねえ」
 残念ながら、最近は液晶ディスプレイが増えているし、第一、悠長にパスワードを盗み取るヒマも惜しい。暇つぶしに人のPC画面を眺めるのも引き篭もり生活にとっては彩りだったが、今回のように目的の情報があるときは他人の操作など待っていられない。

 しかし、物理的に独立したネットワークに、彼女はいかにしてクラックを試みるのか?答えは、彼女自身の夢の異能、『電気使い』と『磁力使い』の超能力を担うドリームイメージ“MEwww!”の存在であった。

「えむいー、『電子使い』をお願い」
 ノートパソコンの中で、3Dモデルの美少女が、“OK!”と左手の親指を立てる。氷の結晶をまとったワンドを右手にくるりと回し、鋭角なポリゴンで象られた鎧のようなロングドレスをひらめかせ、するり、とディスプレイフレームを抜け出ると、2秒もしないうちに『お土産』をぶら下げてディスプレイの中に戻ってきた。

「ありがと、えむい」
“どういたしましてっ☆”とメッセージ。ここいらのやり取りは人工無脳によるものなので、ディスプレイの中に電子妖精が住んでいる訳ではない。これはあくまで、彼女自作のハッキングツールに取り付けられたテクスチャに過ぎないのである。

「うーん、やっぱボイスは必要かもッスねー」
 どうでもいいところに凝るのは、やはりダメ人間の証左であったろうか。だがこの一瞬で、エミは夢に没入し、異能を働かせ、ネットワークに侵入し、情報を抜出して、ネットワーク外にコピーを持ち出したのだ。新世代の悪夢狩人は、現実においても夢の力を振るう。

「ふうん……保険金の支払い対象は遺族で父のモリナガ・シンヤさん……住所は市内……電話番号と……賠償支払い交渉の経過……へえ、あんまりゴネてないなあ……」

 『恐竜王子』のご両親は、人がいいのに違いない。そんな感じがする。
 よし、と住所データをカーナビに転送し、エミは車を郊外住宅地のモリナガ家に向けて出発させた。

* * *
(続く)

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