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【NHD】『恐竜王子』7

2007年09月03日mixiより再録。
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* * *
 つらつらと語られる死んだ息子の物語。それは生者には必要のないもの。

「どうしてもこのトリケラトプスの角が見つからなくて……」

 線香をあげさせて欲しいと頼んだところ、仏壇そばに飾られていたぬいぐるみ。教室で暴れた恐竜ぬいぐるみとおなじタイプのものだった。

「事故のときにあの子が持っていたのですが……どうしても角が見つからなくて……」
「あうう」
「ぜったい、ぜったい角が見つかればタクローだって見つかると思うんです」
「あうあう」
「タクローをご覧になったのですよね?どこでですか。どうしていましたか。やっぱり公園に戻ってきたいのに立ち入り禁止なのがいけないのですよね」
「あうううー」

 妄想。現実逃避。タクロー君のお母さんの悪夢は現実と離れていく一方で。

(せんせー、てっちゃーん、たぁすけてぇー)

 狂気に彩られた瞳に見据えられ、クタラギはただ頷くしかできなかった。

「……そうか、そうですよね。タクローがいたなら会いに行かなくちゃ。どこですか。どこに行けば会えますか。教えてください。おしえてください」
「ああああのう、すぐ友人が来ますー。幽霊の似顔絵を描いたスケッチ持ってくる約束なんですう。そのスケッチを見てからでも出かけるのは遅くないと思うんですぅ」

 とにかくこれ以上刺激するのはヤバい、と思いながらも、出てくる台詞全てが母のトラウマを刺激しないではいられない、空気の読めない女クタラギであった。

* * *
 泣き止んだ生徒を乗せた赤いテスタロッサは、いま白亜の森を走っていた。空気は湿りを帯び、木々の向こうには恐竜の長い首の影が行き来するのが見える。

「なに?なにがおきてるの?どうしてこの道が森に変わってるの?」
「センセ、なんじゃこれ」
「悪夢が現実を浸食し始めています。誰かの悪夢が零れ落ちようとしている」
「ナイトメアか!」
「あるいはレミングの夢がだれかに揺り起こされているか」

「あ、あそこが母さんの家です!」

 世界は、急速にひび割れて壊れようとしていた。乳の様に濃い霧を分けて近づく近代的な建売住宅。フェンスにくくりつけられたアジ看板が、湿っぽい太古の森の空気とあいまって、どちらをも等しく非現実的なものにしつつあった。

「母さん!母さん、返事して!」

 飛び出してくる人影。とめなくちゃ、公園が潰されちゃう。あの子が帰ってこれるのはあそこしかないのに、と叫びながら。
「おおおちつくっスー!幽霊出たのは公園じゃネッスー!学校ッスよ学校ー!ああっ、ほら友達来ました!スケッチ見てくださいスケッチ、タクロー君かどうかわからない訳だしまだほらほらほらほら」

「おめえも落ち着け」
 打ち合わせていたかのように、狂乱する母に差し出されるクロッキー帳。はたして、そこにあったのは彼女が求める最愛の息子の姿であった。

「ああ、これは……これは間違いなく……」
「母さん」
 声をかける娘に、しかし母は一瞥だにくれなかった。娘は、そんな母の姿を、直視できずにいた。

「とりあえず、中に入れてもらえませんか。公園のことでお伝えしなければいけないことがあります」
「あなたは……」
「公園のほうから来ました」
 山田先生、嘘は言ってない。

* * *
「なるほど、つまり」
 山田はトリケラトプスのぬいぐるみを持ち上げて、子供を抱くように抱えた。
「この子の角を探しているんですね」

「ええ……探しても……探しても見つからないの……」

「ではこれをお返しします」
 山田から大事そうに手渡されるぬいぐるみ。その角は、山田の能力によって綺麗に『復元』されていた。目を見張り、やがてほろほろと涙を落とす母。ええ、これです。これをさがしていたの。これを……

 そして、そのまま母は

 胎児のように 赤子を擁く母のように

 ソファの上に丸くなって

 深い深い眠りに落ちた。

「うーん、昔はレミングを寝かせるのに非常に苦労したものですが。今は『障壁』を破ることで眠りに誘うことができるんですねえ」
「昔話はいらねえぜ。早速ダイブだ!」
「ぐー」

「ど、どうしたの?!みんな具合でも悪いの?!ねえ、何で4人して寝始めちゃうの?!?!」
* * *
(続く)

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