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【NHD】『恐竜王子』6

2007年08月27日mixiより再録。
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* * *
「いやいや、もっと単純な理由があるはずです。彼女とタクロー君の自宅住所が違う理由が」
「…!そうか、なるほど」

 近づいてきた少女に、少年は切り出した。
「いいんちょ、あの……あのな。お前、最近引っ越した?」

「……! なぜ?なんで……まさか」
「すみません、僕らは今1年前の事故のことを調べています」

「どういう…ことですか」

 ハンターであることを伏せつつ事件の核心に迫ることは難しい。しかし、山田とテツヤはなんとか彼女の信頼を取り戻すことに成功した。

「事故以来…うち、おかしくなっちゃって」
「お父さんとお母さんはケンカばっかり。あたしはどっちの味方もできなくて」
「お母さんはどんどん抗議活動にのめりこんじゃって」
「お父さん、あのときタクローから目を離したことを悔やんでる。時々夜、うなされるの」
「仕事でほとんど帰ってこない父さん。弟のために公園の存続運動に全霊を傾ける母さん。あたし……」
「お父さんの方がつらそう、って思った。だから別居するって決まったとき、家を出てお父さんの面倒を見ることにしたの」
「でもそれ以来、お母さんが会ってくれなくなっちゃった」
「今日ここに来たのはね。命日なら、ここならお母さん来てくれるんじゃないかって」
「会って話ししなきゃって」
「話さなきゃって」

 静かにすすり泣く少女を、少年は黙ってみていた。抱きしめるほど愚かでもない。ハンカチを差し出すほど気障でもない。ただ、彼女が泣き止むまで、少年はそばにいた。

* * *
「こんちわぁーっす」
 レッツ呼び鈴。周辺住人と付き合いのあるはずもない空気の読めないアジ看板。ならばいっそ本人に話を聞いた方が早い、と判断したクタラギは、呼び鈴を押して待つことしばし。

「……どなた?」
「あーそのー、XX高校のもんでクタラギって言いますう。タクロー君のお母さんですか」
「……お話しすることはありません、お引取りください」
「えっとー、うちの高校で恐竜に乗った幽霊を見たってのがいてー。それを調べたらー、なんかタクローくんじゃないかって話になってー」

 ドアが静かに開く。

「タクローを見たの?」
 悲しみに濁った目に渇望を宿し、その女性はクタラギに問いかけた。

「あーえっとー、自分じゃないっつーかー、見た友達の中には画の上手なのもいてー」
 要領を得ない喋り方でゆっくりと状況説明をしてから、クタラギは切り出した。
「だからー、その幽霊がタクロー君かどうかカクニンしたいッスよー。タクロー君の話、聞かせて欲しいッスー」

「……そう。……タクローがいたの。やっぱり“いた”のね。……どうぞ、お入りください」

 チェーンが外され、クタラギは嘆きの母が守る時間の止まった家に招き入れられた。
(うわあ、お母さんタクロー君の死をまるっきり認めてねぇー、感情的にー)

 そう。その家には、そこかしこに「成長しなくなった子供の思い出」が散りばめられていた。おもちゃ。本。写真。服。靴。
(……いいんちょが逃げ出すのも分かるッス……)

「さ、どうぞ。もっと聞かせてください、あの子のことを」
 息子を失った母の目は、得体の知れない高校生が持ち込んだ話を聞くのにもかかわらず、真剣そのものだった。

* * *
(続く)

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