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【NHD】『恐竜王子』2

2007年08月20日、mixiで公開したものの再録です。基本ルール付属シナリオのため、ネタバレてますので注意。

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 崩落した渡り廊下。瓦礫はとても重くて、私の腕では持ち上げられなかった。声をかけても、気絶しているのか子供たちの返事は無い。
「どうしよう、どうすればいいの?!」
「どけ」
 テツヤが無造作に瓦礫の中に踏み込んだ。
「足元悪いよ、気をつけて!」
「誰にモノを言っている」
 『透過』だ。ライトニングの物質透過能力で、テツヤは瓦礫を意に介さず中へ中へと踏み込んでいった。
「しかし、どこにいるんだか」
 瓦礫の天辺で黒い犬が吼えた。テツヤと目を合わせると、瓦礫の向こう側に駆け下りる。道案内するように。

「なるほど、そっちか」
 程なく、コンクリと鉄筋の瓦礫を幻みたいに無視して、子供を2人抱えたテツヤがまっすぐ歩いてきた。いつの間に戻ってきたのか、黒犬は瓦礫を背にして、こっちを見据える恐竜に向かって唸っている。
「こいつら運がいい、気絶してるだけだと思う」
 子供を抱えたまま、テツヤがそういった。私は、慌てて一人引き受けて抱きかかえた。ふたりとも、目立った外傷はない。

 黒犬が吼えた。渡り廊下を崩落させた恐竜が再び首をもたげた。丸太のような長い首で、うろうろする小さなもの――私たちだ――を全部まとめて排除しようと考えているかのようだった。

「やめろー!」
 後ろにいたティラノサウルスの頭の上から声がした。少年だった。虎縞の下帯によく焼けた肌。活発そうな姿は……なんというか、『恐竜王子』というのが一番しっくりくる。

「人間を傷つけたら許さないぞー!」
 ああ、とそこでなんだか納得した。これは彼のごっこ遊びで、恐竜たちは彼の友人なのだ。恐竜は暴れる“わるもの”の役、『王子』は“せいぎのみかた”、みたいな。……そんなことをぼんやり考えている私の正面に、「とにかく暴れること」に決めたらしい恐竜の巨体が迫っていた。音もなく、悪夢のように。自重で、校庭だけを揺らしながら。

「可愛い生徒を傷つけることはこの私が許しません」
 山田先生だった。どこから走ってきたのか、息が少し荒いけれど、1つ深呼吸して右掌を恐竜に突き出すと、空間に衝撃が走った。雷鳴が稲妻を追うように、切断面が衝撃の後ろに現れた。先生の『切断』能力だ。切断面が、恐竜の身体から右前足にかけてを的確に捉え、切り裂いた!!

 その瞬間、突進してきた恐竜は煙のように掻き消え、『切断』されたかに見えた恐竜の右足は、スクールバスの前輪に変わっていた。コントロールを失い擱坐するスクールバス。

 悪夢も、恐竜も、少年も、すべて消え、残ったのは校庭に放置された各種重機と転倒したスクールバス、私たちの後ろに崩れている渡り廊下と気を失った子供たち、そして、

 私たち三人をじっと見つめる黒犬と、その傍らに寄り添うように立つ巫女服の少女だった。

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* * *
「なんぞこれー」
「わ、私巫女服なんて一度も着てないですっ!」
「また私のネタノートを勝手にっ!巫女服はサービスですよサービス、所謂ひとつの萌え要素!!」
「おまけに自分を可憐げに叙述トリックかましてんじゃねーぞこのピザ!瓦礫持ち上げてたじゃねーかあん時!!」
「妄想は自由でしょー!ほっといてよぷんぷん!!」
「自分の口でプンプン言う奴は死んでいいって法律、なんでないのかな日本!!腐女子自重!!」

「つまり、あなたもナイトメアハンターだった」
 山田の問いに黒犬が右前足でお手する。『はい』のサインだ。
「あちらのお嬢さん、シキベ・ヨウさんがあなたの娘で」
 『はい』のサイン。
「あなたがシキベ・タルホ。20年前のアントライオンの戦いで、人間の姿も奪われたのですね」
 『はい』のサイン。長い舌をてろんと出して、嬉しそうにはふはふと尻尾を振る様は只の犬にしか見えない。
「ああ……先生、通訳は、私がします」
 ヨウが、山田に手を上げて言った。

* * *
 シキベ・タルホは、犬の姿をとりながらも、悪夢を憂えるオーサーのひとりだった。娘ヨウの通訳を受け、街に起きる恐竜がらみの怪異がナイトメアの現実改変であること。彼と娘はハンター能力を持ち合わせていないこと。ナイトメアを心に抱えこんだ、『恐竜王子』ゆかりの人物――レミングを探し出せねばならないこと。レミングの精神にドリームダイブして、ナイトメアを討たねばならないこと。そうした説明を、3人は改めて教えられた。

「なるほど、20年前とそう変わってないですね」
「夢の力と超能力は夢の中でしか使えませんでしたが、 新世代 ディープルート が現れてからは“ディゾルブ”によって現実でもほんの一瞬、夢の力を使うことができます。ただし“宿命”を持つものだけがそれを許されるのです」
「必要なときでなければ使いこなせない、なるほど」
「“宿命”が導くとき、全ての行いは成就するでしょう、とも父は言っています」
「丁半博打で振り直しができるようなものか」
「そうですね」

「お前がハンターがらみの人間だったなんてな」
 テツヤがつぶやいた。
「うん……お父さんと話ができること、誰にも言えなかったし。あたしはハンターじゃないから、ナイトメアは見えない。ただ悪夢で苦しんでいる人がいて、その原因がナイトメアだって知ってるけど、何もできなかった」
「おまえ……」
「さっき話したけどさ、うち神社なんだ。 仲間たち フェローズ ご隠居 オーサー ってことで、ハンター活動の拠点にしてくれるとうれしいな。あたし、ほかにできること、ないから」
「おにぎり」
「え?」
「おにぎり、作っといてくれよ。何にもできないなんてこと、ないし」
「……うん、まかせて。おいしいの握って、待ってるから」

「萌えぇえーー!!高校真っ盛りの少年少女の甘酸っぱい会話萌えー!!!むしろ蕩れーー!!ああもう、写メとっちゃえとっちゃえ♪」
 ふがふがと興奮するカバのごとき女生徒(21)に、山田講師はかなり退いていたが、注意しなければならないという義務感が彼を動かした。
「あの……クタラギさん?さすがにどうかと思いますが」
「なに言ってるんですか先生!高校生活での異性とのふれあい、超貴重じゃないですか!わたしはふたりに、自分みたいに暗黒のどす黒い青春を送ってほしくないだけなんです!あああ、来た来た来たー!よしコピー本でいいからこれネタに1冊出しちゃおう!」

 山田は、義務感だけではどうにもならないことがあるということを少しだけ学んだ。

(まあ、ごく最近まで引き篭もりでいたわけだし、ちょっと人間関係の距離感を見誤ってるだけだろう……本来成人前に学ぶことだけど……彼女もまたナイトメアの犠牲者ではあるわけで……)

 萌えー、萌えーと叫ぶ高見盛似の何かと、このあとハンターとして交流を持っていかなければならないのだということを、山田はあえて考えないことにした。お近づきにはなりたくないタイプの痛々しい腐女子、という、まさに典型的存在がそこにいた。山田が思考停止するのも無理からぬことではあった。

* * *
(続く)

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